裏切りの村の大賢者アクト
広田こお
第1話 すれ違い
まさか、あの時は一家無理心中したあげく、異世界転生して聖女なんかに生まれ変わるとは思っていなかった。舞台は現代の日本。
わたし霧峰佳世子は18才になったばかりだというのにお見合いをすることになった。相手はなんでもラーメンチェーンのオーナーの息子だという。
「はぁ、ボンボンか。苦手だなぁ」
待ち合わせのホテルの一室でついこぼれる愚痴。
しばらく経つとドアを開けて向こうからくるのは、私の理想を描いたようなルックスの爽やかそうな男子高校生だった。
(え、これならボンボンでもいいかも!)
さっきまでの気怠さは嘘のように消えた。
「はじめまして、土屋博士といいます。佳世子さんですか?」
私は顔の体温が熱くなるのを感じつつ、あまりに照れ臭くて、つい
「ボンボンにもマシなのはいるのね?佳世子よ?」
とつっけどんにしてしまった。
すると相手は顔を真っ赤にして
「タコヤキ女にもまともなのは居るんだな?ま、結婚してやってもいいんだぜ?」
おそらく彼を怒らせてしまったのだろう。
「なによ!うちはたこやき屋だけど、お店たくさんある繁盛店なんだから!そちらこそ、謝るなら結婚してあげてもいいわよ?」
ちょっと、まずいまずい。これじゃぁ破談になっちゃうよ。
タイプの異性と最悪の一時間をホテルで過ごした。ずっと喧嘩。
家で報告すると。両親は悲しそうな顔をしていたっけ。
たこやきチェーンは経営が苦しくて、土屋ラーメングループとの合併話だけが命綱だったのに。
ほどなく倒産したウチのたこやき屋。そして無理心中。
でもいいんだ、たとえ外見がタイプでも奴はやっぱりイケスカナイ金持ち息子だったということ。結婚しても幸せにはなれなかっただろう。
大賢者アクトさんはなんで私なんかが聖女だっていうのかな?
聖女と勇者は愛の力で世界を救うと言われても、もう愛とか恋とかはたくさんだった。タイプだと思っても、内面は真逆の異性の存在を目の当たりにしてしまうと、ただただ気持ちが萎える。
「アクトさん?愛の力で世界を救うってどういうこと?」
と訊いたら大賢者さんは
「ようするにこの勇者さんとイチャイチャしてもらいたいんです。そのぉ、古文書によると異世界の愛のパワーもとい喘ぎ声で魔物は消滅するらしいんです。すいません。変なこといってますよね?」
おずおずとアクトさんは言った。
(誰だその古文書書いたヤツは!それと変態大賢者め!)
「ごめん、その話聞いたらこのまま世界滅んじゃえっ、って思えてきた」
無理すぎるだろう。魔物の前でどうでもいい異性とイチャつくというのは。
アクトさんはとても寂しそうな目をして
「しかたない、ですかね。」
と力なく嘆いた。
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