・クリスマス特別編 互いに忙しいけれど
「おーい墓守の兄ちゃーん、引きこもってないで、飲もうや~」
この人たちは
家族や 恋人と 過ごそうとは
思わないのだろうか
大変な 雪かきが終わって
一息ついていたら
このありさまだ
知人なら まだいい
知らないおっさんまでが
暖炉で 暖を取っている
テーブルは 酒と つまめる物で
ごちゃごちゃにされた
今日は 教会から聞こえる
耳にしながら
静かに 酒でも 飲むつもりだったのだが
酔っ払いどもが いびきをかいている
私は 酒臭い小屋から 脱出し
アルハラでほてった体を 冷ましていた
見上げると 夜空と 雪を乗せた 教会の屋根
シスターは
上手くやれているのだろうか
娯楽のない この地域で
門戸を 開き続けるということが
どんなに 大変か
身をもって 知っている身としては
何か 手伝うべきだったかと
後悔してしまう
サンタの格好をした おじさんが
干物かチーズを 配るのは
おそらく 教会でやる行事ではない
それでも 娯楽の無い この地域では
楽しみにされている 行事の一つだった
この地域出身の 子供は
サンタとは 教会で 干物かチーズをくれる
知り合いのおじさんだと 認識するだろう
私も そういう認識に 変わりつつある
そのおじさんの役目
己の顔の 部位が わからない私では
一人では 付け
途中で 床に落ちた髭を
素早く 付け直すことも できない
そもそも この職業
子供たちに オバケ扱いされている
私では
サンタにはなれない
だから 私が教会の
シスターの 力になれる日は
こない
しかたない
それに 私には 私の仕事がある
聖なる夜に ここへ訪れる人々がいる
小屋で寝ている 酔っ払いのことでは ない
お花と お酒 そして 親愛の言葉を捧げに
霊園へと 足を運ぶ人々がいるのだ
私は 彼らが 静かに過ごすのを
小屋越しに 黙って見守る
シスターも 私も 忙しい
ゆっくり会えるのは きっと 来年
「こんばんは」
空気が きんと 音を立てた
白い息で 口元を飾る シスターが
外に立っていた
きっと 休憩か 誰かの見送りで
外に出ていたのだろう
微笑む彼女に お辞儀を返した
私たちは 互いに 忙しい
そんな中で
偶然にも 同じ時間が持てたことに
ちょっとした 幸福感を覚えた
教会へと消えてゆく 彼女の背中
がんばっている姿が 互いの励みになっているのだと
今夜だけは
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