★悪役になったら 研究者と妖精


 あっははははは。


 帝国の郊外、誰も人が住まない荒れた大地の地下に、今日も大きな笑い声が響く。


 誰に知られてもいけない組織の重鎮たちが集まるその会議で、好んで端の席に座った白衣の男は目の前でタンバリンを打ち鳴らす妖精を見て腹を抱えて笑っていた。普段と変わらない光景に会議席の中心で今後の作戦概要を話していた男はため息をつきながら話を続ける。


 妖精は笑い転げる男を見てしばらく唖然としていたが男が中々笑い終わらないと気づくと小さな頬を膨らませて男の額に突撃すると小さな足で蹴り上げた。


「もー! まだ私変な顔してないよう!」


「変な顔するまえにもう、面白くて」


「勝負になんないじゃない!!」


「ぶふっ、いまもう、面白――あははは!!」


 その男がほとんど何にでも笑うことは分かっているだろうに。会議で呼び出すたびにこれだ。


 もう今日の分の作戦説明は終えてしまおうか。


 作戦説明を続けていた男が諦め会議の説明終了を告げようとした瞬間、突然会議室の扉が開かれ一人の男が駆け込んでいた。何事か。未だ笑い声の響く会議室にほんの少しの緊張感がはしる。


――天候が嵐になって作戦決行不可能です。


 会議室の面々の視線が未だ笑い転げて呼吸困難になりかけている白衣の男とぷりぷりと怒りながらタンバリンを振り回す妖精に視線が行く。


 妖精が身につける宝石は妖精の機嫌によって天候の変化をもたらすもの。その妖精は今、笑い続けている男に「激怒」している。機嫌が良いときに晴れることは分かっている、が、今の所妖精が懐いているのはもう机に突っ伏してまで震え笑っている男。


――会議のない日に作戦決行する。


 男の言葉に会議は終了となり、会議室は笑い続ける男と妖精だけを残した。



 あっははははは。


 帝国の郊外、誰も人が住まない荒れた大地の地下に、今日も大きな笑い声が響く。

 

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