第2話 トマスとの邂逅
ペシっ!
ペシっ!
「これ、起きろ」
「………」
ペシっペシっ!
「生きておるかー?」
「………」
スパーーーーーーンッ!!!
「うわぁぁぁぁっ、えっ?えっ?何っ?痛い」
「ふむ、ようやく目が覚めたかお主。もうかれこれ三日は寝ておったぞ」
「???」
「えーーーっと、どちら様でしたっけ…?」
「ワシか?よくぞ聞いてくれた。我こそは大発明家にして深遠の錬金術師 《ジエリ・トマス》じゃ!」
目の前には青いスリッパを片手に持った、白髪の仙人のような爺さんが片膝をついていた。何故スリッパを持ってるのか……
「んっ、これか?これはワシの発明品の一つでなスリッパーという履き物じゃ。部屋にいる時でも、足が冷えんでなかなかに便利なんじゃぞ」
おい爺さん。さっきの音、完全にそれで僕の頭叩いて起こしたよね?想像したらだんだんイライラしてきた。まったく夢なら夢でもう少し僕に都合の良い展開にして欲しいものだ。
「……まあ良いです、三日も寝込んでいたところを起こして頂いてありがとうございます。あのー、僕とははじめましてだと思うんですが一体ここは何処ですか?」
至極当然の質問だった。夢だからこそ不思議でもなんでもないが、勇悟たちが居るこの場所にはそもそも床が無い。床どころか壁も天井も無く、見渡す限りの深淵の闇。かと言って自分の姿も相手の姿も空間の奥行きも、全てがクリアにみえているこの不思議さは都合の良い夢ならではの感覚だろう。
「お主意外と冷静じゃの……ここは分かりやすく説明するなら精神世界という感じかのう」
「精神世界ですか?なるほど、それならこの不思議な空間にも納得がいきますね。三日も寝ていたんじゃ父も心配しているでしょうから、そろそろ僕はおいとまさせて頂きますね。ありがとうございました」
「あーそれな、なんと伝えたら良いのかのう。残念ながらお主はもう元の世界には戻れんと思うぞ…」
まったく、あるあるだな。夢というやつは自分に都合の良いように展開しない事がままある。女の子と良い感じになっているのに何故か最後まで行けないあるあるとか。そこに至るまでの経験が無い為、想像力が追いついてないのか?悲しきかなチェリーボーイの性さがである。
「お主ここに来る前までの事覚えておるか?」
(ここに来る前?確か部屋で古い本を見つけて光の渦に飲み込まれたんだよな……!?待てよ、確かあの本のタイトルは《ジエリ・トマスの書》!?え、あれは夢じゃ無かったのか??)
「あなたがそのーージエリ・トマスさん?そして本の作者という事ですか?ていうかそれと僕が元の世界に戻れないというのはどういう関係が?」
「なかなか理解が早くて冷静じゃの。よし、ではぶっちゃけて説明してやろう。まずこの精神世界というのはお主が手に取った本の中じゃ。
ちなみにワシは本の作者では無く、もはや本そのものじゃな。むかーしな、ちと調子に乗りすぎてワシの住んでいた世界の深遠に触れてしまってな、創造神の怒りを買ってしまったんじゃよ。
流石に消滅させられるのはなんとか許して貰えたんじゃが、永遠に本の中に閉じ込められてしまったというわけじゃ。」
(なんだコイツ完全にポンコツじゃねーかっ!もしかしてその巻き添えで僕は本の中に閉じ込められてしまったとか!?)
「ごほんっ、そこまでは分かりました。でも何故僕まで本の中に閉じ込められてしまったんでしょうか?そもそも本の文字も僕らの世界の文字では無いような……」
「なんと説明したら良いじゃろうか……ワシも何百年も独りでおると流石に話し相手が欲しくなってのう。本を手にした者には毎回精神干渉を試みておったんじゃが、実際の所ここにやって来たのはお主が初めてじゃ。奇跡的にたまたま波長が合っちゃったって感じ?ホホホ……」
スパーーーーーーーーーンッッ!!!!
「おおおおおおおっ、なんじゃお主っ!この深遠の錬金術士ジエリ・トマ…」
スパーーーーーーーーーーーンッッッ!!!!!
トマス爺の名前に食い気味にスリッパがヒットする。
「のおおおおおおっ、くくくっ。すまんっ!すまんかった!だからスリッパーで叩くのはやめてくれいっ」
「おいっ!完全にとばっちりじゃねえか……」
「あたたたたっ、ワシは話しかけようとしただけで、まさかお主がこちらの世界に来るとは思わんかったんじゃ。文句なら創造神の奴に言ってくれいっ!」
(こっこいつ完全に責任転嫁しやがった!しかも創造神を〈奴〉呼ばわりしたな今。全く反省してねえ……しかし、この爺さんに協力してもらわないことには今の状況はなんともならなそうだな……くそっ)
「よし、じじい。お前にチャンスをやろう。僕がここから出られる方法を考えついたら、特別にお前を許してやるっ!」
ドンっ!!
「お主完全にキャラ変わってるぞい……」
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