舞姫物語〜拾われた舞姫は二人の男に溺愛される〜

コロン

2002年2月 都内某所

 二〇〇二年二月。


 都内屈指の歓楽街で随一のクラブといわれているローザでは、閉店後、店のスタッフ達が緊張した面持ちでフロアに整列していた。


「今日はなんですか?」

「シッ」


 キョトンとする新人ホステスをベテランがたしなめたが。


「オーナーが来るって……」


 そこかしこからから囁き声が湧いていた。


「オーナー、ステキよね……」

「私はいつもオーナーの隣にいる兵藤さんの方がいいけど……」


 ホステス達が囁く会話の専らの中心は、これから現れるオーナー#剣崎星児__けんざきせいじ__#とその相棒#兵藤保__ひょうどうたもつ__#についてだ。


「ねぇ、前から気になってたんだけど、あの2人の片耳のピアスって女性モノみたいよね」

「あ、赤い石のでしょー?」

「それ私も気になってたー」


 一人の若いホステスがふと漏らした言葉に数人が同意した。


「そういえばオーナーも兵藤さんも結婚してない、よね?」


 彼女達の視線は、この店を開店当初から知る古株のマスターに注がれた。


「ねぇねぇマスター。マスターならあのピアスが何か知ってるんじゃないー?」


 直立不動でオーナーとその相棒が現れるのを待っていた、マスターと呼ばれた口髭の男はホステス達の猫なで声に苦笑いした。


「悪いねぇ。私もよくは知らんのだ。アレは、この店を開いた時には既に2人はしていたからなぁ……」


 彼は、そうとしか言えなかった。


 あの赤い石のピアスに秘められた過去は、軽々しく公言はできないのだ。アレは二人が愛した一人のの踊り子が彼らに残したもの。


「オーナーと兵藤さんが見えました!」


 緊張した、若いボーイの声がフロアに響き渡った。

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