第56話 ゲームの神が設定に戻した。

我が家は50年前に併合され王都に土地を頂いた。

我が屋敷はかなり南側にある。

馬車で移動するのも中々の時間を要する。

学園に通うだけなら寮は便利なのだが私は色々と忙しい。

寮では不便なのだ。

これからの商談はエリザベート商会事務所を利用することになるだろう。


学園に向かう馬車の中で私が不満そうにしていたのには訳がある。


何故、私はダンジョンの落とし穴に落ちたのか?

そんな素朴な疑問が湧いていた。

もちろん、自分の迂闊さだ。

どうしてアンドラにレベルを越された程度であれほど怒ったのだろう。

あの年に限って森の霧が晴れていたのだろう。

考え直すと見えざる手が私を排除したようとしたように思えた。


私は隣国が攻めてくることを知っていた。

つまり、カロリナ令嬢が活躍する機会をくれてやらない。

ポーションを使わせて麻薬を連座から逃げられなくさせる。

そこは規定事項だ。

でも、大砲隊は私が冒険者を率いていただろう。


ラーコーツィ家に大きな借りを作れる機会を逃すものか!


旧領地奪還など出来過ぎだ。

もう、カロリナ令嬢を王妃にするという流れができている。

無理矢理、ゲームの初期設定に戻された。


カロリナ令嬢は救国の英雄になり、王妃候補の一番に返り咲いた。

ラーコーツィ家の軍事力をヴォワザン家の大砲が支えているので価値も上がっている。

これもゲームと同じだ。


私の価値も上がっているがオリバー王子は私と婚約している限り王になれない。

やはり、ゲーム初期の設定に似ている。


そして、先日のセーチェー侯爵夫人の言葉も気になった。

ダンジョンに閉じ込められなければ、私は3組になっていた。

マリアと別のクラスだ。

ゲームとまったく違う設定に変わる。

でも、私は4組に戻された。

これも見えざる力で強制的に巻き戻された気分だ。


これがマリアバイヤス(主人公贔屓)という奴か!


この世界はマリアに都合よくできている。

マリアの生い立ちは変わったというのに何も変わっていない。


そんなことを考えている間に馬車は学園に近づいた。


ならば、学園最初の最初に起こるイベントが発生するの?


 ◇◇◇


馬車は道を折れ曲がるとスピードを緩めてゆく、道は一方通行であり、左手から入って右手に抜けてゆく。

御者は学園の正面で止まれるように操作していた。


『どけ、どけ、どけ!』


御者が叫び、馬の手綱を締めるとわずかに馬車が揺れた。

きゃあああぁ!

道の真ん中に立っていた生徒が慌てて倒れて悲鳴を上げた。


『お嬢ちゃん、道の真ん中でぼっと立っているとは、どういう了見だ』

『すみません』


うん、ゲーム通りだ。

学園の前でぼっと立っていたマリアは馬車が近づいてくるのにも気が付かず、馬の顔に驚いてこけるのだ。


「御者が下品過ぎる」

「まったくです」

「今日の御者はどなたですのぉ」


アンドラとトーマは知らないらしい。

荷台で控えている従者が口を開いた。


「馬飼長の息子でございます」

「そう、屋敷に帰ったら首にしておきなさい」

「畏まりました」


馬飼長は諜報員(敵のスパイ)の一人だ。

その息子というのも怪しい。

偶然も知らずにマリアに接近したのか、ワザとトラブルを起こす為にそうしたのか、私には判らない。

とにかく、馬車はぎりぎりまでマリアに接近した。

下品な声を上げて怒鳴り、マリアが謝った。


「謝りましたわね」

「はい、謝ったようです」

「エリザベート様、常識も知らぬ新入生でございます。お怒りをお鎮め下さい」

「トーマ、私が怒っているように思います」

「はい」

「ならば、下品な言葉を吐いた御者に対してでしょう」

「そうでしたか。申し訳ございません」


そんなやりとりとやっている間に従者とメルルが後ろの通用口から出て、馬車の扉を開いてくれた。

私は従者に手を取らせて馬車を降りた。


馬車の前で尻持ちを付いているマリアがいた。


うん、やはりマリアでした!


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