第55話 差別社会を実感しました。

寮の追い出し完了。

実家に帰れないという方を王都の商会事務を紹介しました。

貴族用の窓口には申し分ない。

運よく再就職先が決まるかもしれないとささやくと喜んでくれた。


「エリザベートは巧いことを考えるのが得意なのね!」

「いいえ、そんな意図があった訳ではありませんわ」

「助かるわ!これで王宮に贈り物を頼めて便利になるわ」

「それは私も迂闊でした」


エリザベート商会菓子店のイートインで、お菓子の味見でのんびりされる貴族が多い。

もう喫茶店だ。

雇った貴族の令嬢も教育係がセーチェー侯爵夫人でびっくりしただろう。

どんなに願っても会えるような方ではない。

偉くなったようで気分がいいらしい。


貴族を雇ったことで王宮に届けるのも簡単になった。

二人は王宮に行ける日を心待ちにしている。

社交シーズンがはじまれば、間違いなく注文が来るだろう。

経費でドレスが貰えて、さらに大喜びだ。

ケーキを買いにきた上級貴族のご夫人と知己を得る。

家族や一族に自慢できる上に、そう遠くない内に結婚を申し込んでくれる人ができると勝手の想像を膨らませている。


昨年、エリザベート商家のお菓子がおいしいと聞いて王妃から注文を貰ったそうだ。

完全に迂闊だった。

王宮には貴族しか入れない。

店にいた貴族はセーチェー侯爵夫人だった。

セーチェー侯爵夫人が届けにきたのだから!

王妃もびっくりだろう。


ダンジョン引き篭もっていた時期でよかった。

王都に居たら母上に叱られていた。

でも、悪いのはセーチェー侯爵夫人自身なのだからね!

王妃にエリザベート商家のお菓子がおいしいと自慢したのが、セーチェー侯爵夫人自身なのだ。


そんな噂が流れて!

みなさんがセルフサービス(来店購入)してくれたので助かった。

セーチェー侯爵夫人に配送されたら心臓に悪いだろう。

買いにくると、セーチェー侯爵夫人が出迎えてくれる。

イートインがお茶会の会場になった。


 ◇◇◇


王宮に出入りする商人は王家御用商人になる。

服、一着でも御用商人だ。

王宮に入るには貴族になる必要があり、名誉称号『卿』を買い取る。

服一枚を納品する為に1年分の売り上げと同額の献金が取られたなんて話もあった。

王族の副収入らしい。


「あら、あら、また悪巧みかしら?」

「いいえ、残っている卒業生をすべて雇っておこうかと考えただけです」

「また、エリザベートのお節介ね!」

「王宮の出入りを専門にする商人の人材派遣をやってみようかと思いました」

「それは素敵ね! それならどこの服屋でも王宮の出入りできるようになるわ」

「はい、主人代理が貴族であれば、靴屋や菓子屋など、どこの店でも王宮に入ることができます」

「エリザベートは人を助けるのが好きなのね」

「それはどうでしょう。わたくしはそれで儲けさせて頂くだけです。純粋な人助けとは申せません」

「でも、助かるわ。生徒会を預かる者として、卒業生が就職できるのなら嬉しいことよ」

「テレーズの助けになったことを嬉しく思います」

「助けると言えば残念だわ! エリザベートは4組なのね」

「はい?」

「どうして3組にならなかったのかしら」

「そうね、もう少し交流を深めていれば、3組に編入されていたでしょう」

「そうなのです。お母様」

「???」


貴族学園のクラス分けは、1組が王族、2組がラーコーツィ家、3組がセーチェー家、その他が4組以降に分けられる。

1クラスが40人を超えると1組の1、1組の2と分裂する。

この何組になったかは非常に将来に影響する。

はっきり言えば、1~3組なら絶対に就職できる。

ここで将来が決まると言っていい。


平等とか、公平など無縁らしい。

このクラス分けを決める貴族院は王族、上級貴族を他と一緒にする方がおかしいと考える。

王族であってもラーコーツィ家に親しいと判断されれば、2組に回され、王子と親しい貴族は1組に回される。

セーチェー家とヴォワザン家が親しいと判断されれば、3組に編入されていた。


「テレーズ、わたくしが3組でしたら、何かいいことがございますの?」

「エリザベートが3組でしたら、手取り足取り教えて差し上げますのに」

「手取り足取りですか?」

「はい、手取り足取り、食事マナーからダンス、礼儀作法に至るまですべてです」


エルダー制というほど大袈裟ではないが、同じ3組の先輩が下級生を指導するというシステムを取っていたらしい。


知らなかった。


その為に1~3組と4組以降ではカリュキュラムからして違うらしい。

4組の自習が多いのは担任がいないからだった。

うん、1~3組には担任がおり、食事マナーからダンス、礼儀作法に至るまで上級生に手伝って貰いマンツーマンで指導する。

4組以降に誰も期待していない。

清々しいほどの差別だった。


 ◇◇◇


年が明けた。

新春、夜の晩餐会を控えながら学園の入学式に向かう。

私も貴族学園の制服を身に付け、馬車に乗った。

王家からヴォワザン家に招待状が届いたが、オリバー王子からお誘いの手紙が来ない。

困ったことに15歳になるとエスコートが必要になる。


「アンドラ、学園に入学すると知己を結びたい方も現れるでしょう。家柄に申し分がない方ならそれを受けなさい」

「それでは姉様が!」

「姉の為にエスコートを断るのは相手に無礼です」

「承知しました」

「アンドラに相手ができたときはトーマに頼みます」

「畏まりました」


アンドラもトーマもオリバー王子の無礼に怒っていた。

あまり仲がいいと言えない二人だが、オリバー王子のことになると妙味に気が合うのだ。


「王子でなければ、殴る所です」

「わたくしと入場して婚約を認めたと思われたくないのでしょう」

「姉様の価値が判らないだけで王になる資格はございません」

「同感です。アンドラ様と一緒になり、ヴォワザン領の領主でいて頂く方が助かります」

「認めてくれるか!」

「いいえ、マシだと言っているだけです」

「戦争になってしまいますわ」

「ふふふ、戦などにさせません。エリザベート様が宰相になり、王など傀儡にしてしまえば良いのです」

「トーマ、よく判っているではないか」

「当然です」


婚約者がいれば、婚約者がエスコートをする。

そんな当たり前のこともできない王子に二人が反発を覚えている。


でも、私の不満はそこではなった。


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