第19話 王都でも聖女するの?

社交界シーズンも終わりが近づき、締めのアポニー家主催の舞踏会が近づいてきた。

1ヶ月(42日)間の戦いもあと1つ、宰相の舞踏会が最後になる。

アポニー家は上位の貴族を招待しないことで有名であり、招待されるのは取り分け話題になった者か、同格の貴族に限られる。


母上は笑い種に呼ばれたと悲観的になっていた。


もう舞踏会で商談の話はしていないよ。

こちらから先に断っている。

帰る度に叱られるこっちの身になってよ。


ここからは貴族の順列で我が家の方が格上なのでそれもできる。

もちろん、訴えられたら大変だから商人を先に行かせて商談を終わらせているよ。

ない袖は振れないから、来年の2番艦の就航後という条件付きだ。


母上のライバルだった貴族の舞踏会も終わって落ち着きを取り戻した。


「やっと平和が戻ってきたわ。そう思わない、アンドラ!」

「僕はどちらかと言えば、魔の森でレベル上げの方が憂鬱です」

「そういうイベントもありましたね」

「どういう場所なのですか?」

「わたくしも知らないのよ」

「また、ダンジョンみたいなことになるのでしょうか?」

「知らない。でも、ヴァルテルが手を抜いてくれると思う」

「思いません」

「アンドラ、頼りにしているわよ」

「はい、がんばります」


可愛いアンドラに守って貰うのも悪くないかも!

そう言ってお茶を取って口に含む。

優雅だ。

お嬢様っぽいな!

今日のエリザベートは貴族令嬢よ。

最近、ちょっと不思議に思っている。

もっとゆったりとした生活が待っていると思っていたのにブラック企業並の忙しさだ。

これが貴族なの?

何か間違っていると思わない。


アンドラと優雅な午後ティーを楽しんでいると家令のヴァルテルが入ってきた。


「お嬢様、よろしいでしょうか?」

「母上からあまり話題になることは自重しろと言われているのよ」

「申し訳ございません。その自重は今しばらくお待ち下さい」

「今度は何かしら?」

「ラーコーツィ家とセーチェー家が金山を巡って対立したことから、金山を斡旋したシャイロックへの監視が強くなり、連絡が取れない状態が続いております。加えて、シャイロックの後ろ盾にはラーコーツィ家の令嬢がいるのではないかという噂が流れ、その証拠を探ろうとするねずみが多く、身動きが取れません」

「薬が効き過ぎましたようね?」

「はい、そのようです」


ラーコーツィ家の令嬢が後ろ盾という証拠を持って、セーチェー家に売りに行けば高値で買ってくれるに違いない。

シャイロックが始末されても別に困ることはない。

敢えて言えば、ドーリの誘拐の主犯を選定し直すのが面倒臭いくらいだ。

あれぇ?


「ヴァルテル、アポニー家の番犬(諜報隊)の裏をかいて、アポニー家の令嬢を誘拐することはできそうかしら?」

「できないことはございませんが、かなり困難でございます」

「そうよね! 王宮の密偵が無能な訳はないわね」


そう考えると大きく予定が変わってくる。

シャイロックくらい悪知恵が働く者がいなかったなら、ドーリの誘拐が未遂で終わるかもしれない。


それはちょっと困るかも?


誘拐されたドーリを救出することで、アポニー家に恩を売るチャンスを失ってしまう。

少し不満だが、ヴァルテルの要望を聞くとしよう。


「仕方ありませんね。何をすればいいのかしら?」

「冒険ギルドに行って頂き、ヴォワザン家紐付きの調査員を大量に仕入れて頂きたいと存じ上げます」

「何を調べさせるの?」

「悪路(下町)の民草の動向を調べて頂きたいと思います」

「いっその事、教会を通じて炊き出しでも始めましょうか?」

「それがよろしいかと」


王都でも『聖女』の称号をマリアから奪えということかしら!

計画がドンドン前倒しになっていく感じね。


「判りました。大司教様に連絡を入れなさい。教会に向かった後、その足で冒険ギルドに向かいます」

「手配しておきます」

「アンドラ、一緒に怒られてくれるかしら」

「姉様が望まれるならば」

「望みます」

「畏まりました」


大司教様は意外と暇だったようで翌日の面会が取れた。

早朝から馬車に乗って教会に向かって、大聖堂でお祈りを上げてから大司教と面会した。

恵まれない子羊の為に住居を作り、炊き出しを行い、職業を斡旋する。

その費用をすべてヴォワザン家が出すと提案すると、北の空き地を無償で貸して頂けることになった。


「エリザベート殿は聖女のようなお方と窺っておりましたが、正に聖女でございますな!」

「いいえ、わたくしはこの王都が少しでも清潔になればと考えているだけでございます」

「衣・食・住となりますと、相当な額が必要になりますぞ」

「大丈夫でございます。王都の商人の方々はわたくしの願いを聞いて、教会に寄付を集ってくれると信じております」

「香辛料様々ですな!」

「何のことでしょう。わたくしは商人の善意を信じているだけでございます」

「ははは、そうでした。神の御心でございます。どうぞ、土地はお好きなようにお使い下さい」

「敬虔なる子羊を導きましょう。炊き出しを受ける資格のある者は信徒となること、週に1度の奉仕に参加することと致します」

「大変、結構でございます。ところで、今すぐにとは申しませんが…………」


大司教様はにこにこと笑みを浮かべ、手は商人のように手もみをしていた。

大聖堂の修繕費や修学所の建設など、香辛料の売り上げに応じて献金額を増やすことを切に望まれた。

大変に腹黒く、話の判る方でした。


ヴァルテルは面接にいくらの献金を送ったのかしら?


日取りが今日になった訳がよく判ったわ。


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