第11話 残りの財宝はくれてやる!

小麦の集積所に借りた土地は領都からそれほど遠くない。

ちょっと不便な山道の途中である。

代官が馬車に乗り付けて、領都に入ると冒険ギルドに向かった。

代官は悩みに悩んだ。

ギルドに到着すると、扉を潰すほどの勢いでギルドに入り、大声でギルド長をすぐに呼ぶようにと叫ぶ。


「ギルド長はいるか!」


受付がギルド長を呼びにゆき、代官は応接間に通される。

ギルド長は副ギルド長と共に部屋に入ってくる。

急かした結果、代官が来たのだ。

ギルド長は待ちかねたという顔がありありと見える。


「昨日、頂いた書状をありがたく受け入れさせて頂きます」

「おぉ、受け入れて下さいますか?」

「速やかに、早急に、一刻も早く支援をお願いしたい」


揉めると思っていたギルド長に笑みが零れるが、副ギルド長は余りの豹変ぶりに何か異変を感じた。


「速やかにとはどういうことですか?」

「あれを!」


従者達が大きな袋をテーブルに置いた。

袋から落ちたのがミノタウロスの角であることを副ギルド長は気がついた。

袋は一袋ではなく、3つ、4つと詰まれてゆく。

副ギルド長はすべての袋の中を確かめていった。


「ミノタウロス、オーガー、リザードマンの討伐部位が入っております。現在、ダンジョンでは、単発的にスタンピード(集団暴走)を繰り返し、レベル25、否、レベル30以上の単騎攻略が可能な冒険者のみを緊急要請します」

「ちょっと待て! 今なんと言った!」

「レベル30以上の冒険者を緊急要請します」

「違う、その前だ!」

「スタンピード(集団暴走)と申しました。冒険者が無理ならば、上級治療薬(ハイヒール)と魔力回復薬をすべてお分け頂きたい。至急です。一刻も猶予がありません。お願いします」

「ミノタウロスはレベル20相当、レベル20以上の冒険者ならすぐにでも!」

「それはご遠慮します。副ギルド長は元冒険者でございますな!」

「あぁ、そうだ!」

「ならば判るハズです。狭いダンジョン内で連携の取れない冒険者など邪魔でしかありません。それならば、重傷者を回復させる方が有効です。ご承知下さい」

「それでレベル30以上か! だが、スタンピード(集団暴走)が発生した場所に行きたがる冒険者がいるかどうか?」

「この際、冒険者の支援は結構でございます。とにかく、治療薬と魔法回復薬を急いで集めて頂きたい。代金はこの討伐部位で! 足りなければ、あとでいくらでも支払いましょう。詳しい協議は明後日でよろしいな!」

「わ、わかった。明後日に詳しいことを話合おう。副キルド長」

「準備致します」


代官はノリと勢いで上級回復薬と魔力回復薬を町中からかき集めて戻ってきた。

冒険者達はその噂を聞いて慌てていた。

ミノタウロスが50頭以上?

宝のダンジョンと思ったら、死神のダンジョンと判明した。

クエストを張り出せと騒いでいた冒険者達の声が消えた。

レベル30以上の冒険者もギルドから消えた。


『冗談じゃない』


そんな風に叫んでいるだろう!

レベル30を超えて、ミノタウロスが怖いなどという冒険者はいない。

でも、スタンピード(集団暴走)は別物だ。

私はその話を聞いて、笑いながら代官を褒めた。


「よくやった!」

「必死に考えさせて頂きました」

「姉様、援軍要請を出したなら、逆に援軍が来てしまわないでしょうか?」

「まず、来ないでしょう」

「何故ですか?」

「冒険者は欲が深いけれど、死にたがり屋はいないのよ。危険なダンジョンに近づくものですか。領軍も兵の損失を嫌うでしょう。代官が援軍要請を出さない限り、兵を出さない」

「なるほど!」

「最後に町から治療薬と魔力回復薬が消えたのよ。治療薬と魔力回復薬の準備もなく、援軍を送る馬鹿はいないわ!」


上級治療薬と魔力回復薬を大量に抱えているのは王都のみだ!

早馬を走らせ、荷を届けるのに5日以上は掛かる。


「お嬢様、安心ばかりもできません。調査隊は来ないでしょうが、領主の代理はすぐにやってくるかもしれません」

「そうね、作業は予定通りの4日で終わらせましょう。作業を見られないように天幕は3重に施しなさい」


半分持ち出せれば御の字だ。


残りは全部くれてやる!


そうそう、上級治療薬(ハイ・ポーション)で重傷者が命を取り留めた。


これは助かった。


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