パーソニア
睦月忍
第1話出会い
古い洋館の前に僕はいる。
「地図だとここだと思うんだけど。」
想像より大きく、何がすごいってその不気味さだった。
僕は気が付かないうちにでかいため息をついていた。
「人の家の前でそんな大きなため息つかないでいただけるかしら。」
聞きなれない声足元から聞こえた。
目をやると30cmほどしかない少女が普通サイズの竹ぼうきを持ち立ちふさがっていた。
2,3歩後退りして、少女をまじまじと見た。
やっぱり小さい。人としてのサイズというよりよくある着せ替え人形のサイズしかない。
「あ、あの。僕、おじいさんに会いに来たんだけど。君、ここの家の人?」
「あら、見えているの?おじいさん?誰のことかしら?ここには私たちしかいないわ。」
少女が竹ぼうきをくるりと器用に回し、杖のようにトンっと地面を鳴らした。
風が僕に向かって吹き抜けていった気がした。
次の瞬間、僕の前には通常のサイズの少女と小さな見たことのないような生き物があふれていた。
思わず、しりもちをついた僕に少女は手を差し出した。
「驚かしてごめんなさいね。でも逃げないのね。いいわ、あいにくご主人様はお留守なんだけど、中に入れてあげる。あなた、とても目立ってるし。」
僕を引っ張り上げながらくすくすと笑う。
振り向くと、何人もの通行人がいぶかしげな眼を僕に向けている。中にはひそひそと耳打ちする買い物帰りの主婦らしき人もいた。
僕は慌ててお尻についた汚れを払うと少女に向き合った。
「あ、ありがと。」
「どういたしまして。で、あなたご主人様を知っているの?」
「手紙をもらったんだ、おじいさんから。一緒に住まないかって。
両親が海外へ行ってしまったから、心配だって。」
「そう。」
短く言うと少女は上から下までじっくりと観察するように僕に視線を走らせた。
「うん。嘘は言ってないみたいね。信じるわ。名前聞かせて。」
「僕は、榊翔太。高校2年。君は?」
「私は…アオイ。」
「アオイ!自分ばっかりずるい!」
「アカネも!アカネもしゃべりたい!」
「ご主人様の御身内ならきちんと挨拶せねば。」
アオイと名乗った少女の足元には先ほどのサイズほどの少女が3人ちょこまかと動いていた。
「あなたたち!出てきてはだめだと言ったでしょう!」
「だってぇ、ご主人様と同じ匂いした!」
元気に飛び跳ねているのは赤い髪をした少女だった。飛び跳ねるたびに束ねた髪が炎のように踊っている。
その横にはまっすぐ姿勢よくたち、僕を見上げている少女。少し大人びた顔で目が合うと深々とお辞儀をしてくれた。反射的に僕も頭を下げた。
その頭に何かがぶつかるような衝撃が走る。
「イタ!」
「こら!無礼なことをするな!シロ!」
少年のようないでたちの小さな少女が空中でくるりと回り、目の前に降り立った。
「で、こいつ誰?」
「ご主人様の御孫さんのようです。」
「豪太の?」
「また!ご主人様を呼び捨てにするなんて!」
アオイはコホンと咳ばらいを一つするとまた小さくなった。そして、3人の少女を残して周りにいた小さな生き物たちはわちゃわちゃと何か言いながら消えていった。
「立ち話もなんですから、中へどうぞ。ご主人様もじきに戻るでしょうから。」
少女たちに付き添われて洋館の中に足を踏み込む。
外観とは想像もできないほどの清潔感に満ちた空間が広がっていた。
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