第八話 - テンカ - 1
『それは多分、《
桜の咲いた三学期末。もはや恒例となった、夜の電話でのことだ。
『空から降ってくる火の玉で、九州地方に目撃譚の多い怪異だね。被害はいくつか種類があるけど、一番危ないのは人家に落ちると火事になる、って話かな。江戸時代には悪代官のお屋敷が丸々一棟全焼した、なんて話もあるとかないとか』
俺は小さく唸る。
「だとしたら、物騒な話になるかもな」
俺を庇って大怪我をした白神は、東京のでかい病院に入院。それ以降、半年以上もの時間が経って、ようやくこの間退院が決まった。学校に復帰するのは、来月四月からになるとのことである。
「何か、特別な対処法とかあるか?」
俺が訊ねると、白神は「うーん」と少し考えるようにした。
『雪駄で仰ぐと逃げていく、って話があるにはあるけど、逃げていくだけだからなあ……』
そうか、と俺は頷く。
「わかった、あとはこっちで対処してみるよ。いつもありがとな、白神」
『え、ちょっと待って
「ん……まあ、《アカガネ》借りても《天火》が落ちてこないんじゃ、届かないしな。しばらくは監視がメインになるんじゃないか?」
『ん、そっか』と白神は頷く。
『じゃあ、よかったらその間、付き合うよ? 一人で見張ってたら気が滅入っちゃうでしょう?』
俺は首を傾げる。そうだろうか? まあ、そうかもしれない。だが白神の台詞は「――っていうのは実は口実で」と続いた。
「せっかくだからもう少しお話ししない? 不謹慎だとは思うんだけど……ダメかな?」
不意をつかれた俺は、一瞬硬直して。
「ダメ、じゃない……です。というか、よろしくお願いします」と返した。
あはは、と白神は笑った。
「なんで急に敬語なの?」
俺と白神とは半年の間、大事な友人同士だったのだが――紆余曲折あって、最近、俺と白神は付き合うことになっていた。レトリックではなく、交際することになったという意味だ。白神はいま、俺の彼女さんなのである。正直自分が一番信じられない。
俺たちの関係は以前と今とで、本質的には変化していないような、ほんの少しだけ距離が近くなったような。案外呼び名が変わっただけで、俺たちはかなり前から、付き合っていたようなものだったのかも知れない。
喉が渇いたので白神に一言ことわりを入れ、飲み物を用意すべく俺は部屋を出た。と、後ろから何者かに抱きつかれる。
「
でぇい、と俺は声の主をはねのけた。右手にスマホ、左手に食べかけの菓子、ティーシャツ一枚に下はパンツ丸出しで眠そうに目をこすっているそいつは、俺の姉貴だ。
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