幽霊の正体見たり……
それから数日後の事です。いつものように森の見張りをしているキツネの所に、たくさんの動物たちが押しかけて来ました。
「おいお前、こんなもん作ってよくひとをだましたもんだな」
「幽霊なんかいなかったじゃねえかよ!」
「たまたまだよ、たまたま!」
あのネズミくんが言いふらしたんだろうと思ったキツネは起こったままの事を言う事にしましたが、動物たちは信じようとしません。
その中には、幽霊なんかいないと言っていた動物たちも混じっています。
「言っとくけど出くわしたとしてもオレは助けられねえからな」
「いつまで言ってるんだか、ほら行くぞ行くぞ!」
「なんだか知らねえけど、ったくご苦労なこったね!」
キツネが投げやりに言葉を投げかけるのにも構う事なく、動物たちはずんずんと森の中に入って行きます。
ネズミくんは結局一個しかキノコを食べなかったので、キノコは森にたくさん残っていました。
動物たちはキノコをつかんだり噛んだりなめたり、好き放題に味わっていました。
「本当に幽霊出るのかな」
「気にするなよ、ったく調子のいい事言いやがって、あのキツネも案外ええかっこしいなんだから」
「ええかっこしいってなんだよ」
「幽霊から他の動物を守ってるオレってカッコイイってさ」
「ああなるほ…………」
そこまで言ったところで、動物たちの動きが止まりました。ものすごい速さで、青白い何かがやって来たのです。
「ニゲロ……ニゲロ……ニゲロ……」
大きな声で逃げろと叫びながら飛んで行ったその何かがいなくなるや、動物たちの顔色がその何かと同じになりました。
「幽霊だぁ!」
「やっぱりキツネの言ってたとおりじゃないかよ!」
「ウソつき呼ばわりしたのはお前じゃないかぁ!」
みんなそろって大パニックになり、森から走って逃げようとしました。
しかしいくら走っても幽霊の声は小さくなりません。みんな、もうどうにもならないと言わんばかりにわめきました。
「おいおい何事だよ……」
そしてようやく森から抜け出るや、文字通り幽霊に取り憑かれたかのようにキツネに向かって深々と頭を下げながらごめんなさいごめんなさいごめんなさいと連続で口にしました。
「やっぱりいたんだよ、幽霊が!」
「ほら言わんこっちゃねえ」
「……ハハハハハハハハ……」
「ほら来たぁ、助けてくれぇ!!」
「キツネよ、本当ごめんだ、許しておくれぇぇ!!」
キツネたちの耳に、幽霊の笑い声が響き渡ります。
キツネ以外の動物はみんな全力で逃げ出してしまい、キツネも耳と全身の毛を逆立たせて笑い声のした方をにらみつけます。
そうです。幽霊は、よく笑うのです。森からみんながいなくなると、満足そうに笑うのです。その笑い声はどこまでもよく通ります。
その笑い声を聞いたキツネは数日前と同じようにがっくりとして体を横たえ、深くため息を吐きながらどこかへと去って行きました。
やがて時が経ち、ネズミくんはどこかに行ってしまい最初に看板を立てたキツネも死んでしまった森では、相変わらずキノコがたくさん生えていました。
でも、立ち入る動物は誰もいません。
「この看板を立てたキツネは本当すごいよな」
「なんでもめちゃくちゃ食いしん坊の幽霊がいてよ、ちょっとでも入ると出てけ出てけってうるさいらしいぞ」
動物たちは老いも若きもみんなそう言って、この森に近付かなくなりました。
おや、今日もまたキツネが来ています。ああ看板を抜いてしまいました、と思いきやまったく同じ事が書いてある看板を突き刺しています。
「これでよし、と……字が薄くなって来てたもんな。にしてもさあ、どんだけ食いしん坊で欲張りで自分勝手な幽霊なんだよな、来るな来るな帰れ帰れってよ……その上に逃げると大笑いするらしいし……ったく本当にいやしい幽霊だよ」
看板を立てたキツネの子孫であるそのキツネはブツブツ言いながら、自分の巣へと去って行きました。
さてそのいやしい幽霊は、今日も元気いっぱいです。
「よし、今日もこの幽霊が出る森に入って来る奴はいないな。みんなが安全で本当に私は幸せだよ。他には何にも要らないね」
あの時、ここで死んだイノシシさんは自分がどう思われているかだなんて、何も知りません。
とにかく今日も、イノシシさんは幸せです。
イノシシとネズミ @wizard-T
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