イノシシさんは助けに行きます

 ある日、ネズミくんはキツネがいないのをいい事に森の中に入って行きました。その森はいつも暮らしている原っぱと違ってとても暗くて、夕方になるともうどこにいるのかさえよくわかりません。


 ネズミくんに入っちゃいけないって言ったどうぶつたちの中には、その暗さをよく知っているからダメだよと言ったひともいました。が、ネズミくんは全然気にしていません。




「うっひゃー!」




 はたしてキツネが言った通り、森の中にはたくさんのキノコがありました。


 小さなネズミくんにとっては一個で二日間は持つような大きな大きなキノコが、あっちにもこっちにも生えていたのです。


「毒があるかもしれないだなんて、そんな事言ってちゃどうにもならないよ。ただでさえ食べなきゃ死んじゃうんだからー」


 ネズミくんはじっとキノコを眺め、やがて見つけた栗っぽい色をしたキノコに飛び乗ってかじりつきました。


 ああちなみに栗もネズミくんにはとんでもないごちそうでしたけど、今のネズミくんの頭の中にはそんな食べ物はありませんでした。


 ひたすらに、栗色のキノコに向かって歯を立ててかじりつきました。


「おいしいおいしいおいしいおいしい……」


 がむしゃらにキノコにかじりついたネズミくんは、ものすごく幸せでした。


 そしておなかがいっぱいになったネズミくんは、眠くなってそのまま食べかけのキノコの上で寝っ転がってしまいました。




「鳥さん、どうしてこの森がこわいの?ゆうれいなんかいないじゃない。すごく平和で、ごちそうがいっぱいのすごくいい森だよ。でも鳥さんはキノコ食べないんだよね、ちょっと残念だなー」


 夢の中でネズミくんは、鳥さんに話しかけています。自分よりずっと上を飛んでいる、大きな鳥さんに。

 前にこの森にゆうれいが出るって言っていた鳥さんに向かって話しかけながら、ニコニコ笑いながら眠っていました。








「……おい!」

「なんだよ、ここには入れねえぞ」


 そんな風にネズミくんがのほほんと寝ている中、キツネはどなられていました。看板にもたれかかりながら、怒鳴り声の主であるイノシシさんを見下ろしながらキツネは左前足を大きく振っていました。


「お前何やってたんだ?」

「そりゃその……食事だよ。オレだって飯を食わなきゃいけねえからさ、ずーっと見張ってるだなんてできるわきゃねえしな」

「ここで喰えよ!」


 当たり前の話です。




 でもその食事がなんなのか、みんな好き放題に言い合っています。タヌキと同じ物を食べているだの、肉しか食べないだの、キノコをこっそりと食べてるんじゃないかだの、何も知らないで勝手に言い合っています。


 でもイノシシさんにはそんな事などどうでもいいのです。


「足下を見ろ!」

「足下、ああさっき気付いたよ。あいつひとの言った事聞かねえでさ」


 次の瞬間、キツネの頭が地面とくっつきました。イノシシさんは入るなと言われた森に向かって、キツネを跳ね飛ばして突っ込んで行ったのです。






 このままではあの子は幽霊に襲われてしまう、食べられてしまう!イノシシさんはその事で頭がいっぱいになってしました。


「なんとかして、なんとかして早く幽霊に見つかる前に……あの子をおじさんみたいにしちゃいけない!」


 イノシシさんの頭に、おじさんの死んだ時の思い出がよみがえります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る