イノシシとネズミ

@wizard-T

ネズミくんと森

 昔々あるところに、大きな森がありました。

 その森にはたくさんキノコが生えていて、どれもこれも大きくておいしくて立派でした。




「これは何ですか」

「見た通りだよ」




 でもその森の入り口には、キツネが立てた看板がありました。




 その看板には、

「この森にはゆうれいが出るから入ってはいけないよ」

 と書いてあったのです。




「キツネさん、どんなゆうれいなの」

「そいつはな、キノコを取ろうとすると入っちゃダメと言いながらどこまでも追いかけて来るんだよ。それで少しでも休むとぶつかられて森の外に追い出されるんだ。これはオレの親友のタヌキが言ってた事だからぜったいにまちがいはない。ああ、別にオレキノコ食わねえから」




 そうネズミくんに対してキツネは言いましたが、ネズミくんは首をかしげています。


(ゆうれいって何だろう?どうやって森の外に追い出されるんだろう?どうしてその事をみんな知らないんだろう?)


 そんな疑問を抱いたネズミくんはいろんな動物たちにキツネが立てた看板のことを言いふらし、そしてゆうれいについて聞いて回りました。



「ゆうれいってのは、死んだ生き物のたましいだ。それに勝つことはできない。下手をすると呪いをかけられちゃうかもしれない」


「何言ってるんだよ、ゆうれいがどうやったらぶつかって追い出す事ができるんだよ」


「体があるゆうれいもいるかもしれないだろ」


「って言うかキツネだぜ、そんなのをまじめに信じる方も信じるほうだぜ」


 でもみんな言う事がバラバラで、何を信じたらいいかよくわかりません。


 ネズミくんはもっともっと正確な答えを知るために、もっとたくさんのひとに聞こうと思いあっちこっち走り回りました。





 そんな中、ネズミくんはひとりのイノシシさんに出会いました。


「ねえねえイノシシさん、キノコのたくさんある森の事知ってる?」

「ああうん知ってるよ、でもあそこって幽霊が出るんだよな」

「やっぱり出るの?でも出ないって言ってたひともいるよ」

「私も本当は行きたいんだけどね、何せ私たちイノシシの最高のごちそうがキノコだからね……」

「そうなの」

「ああ私のお友だちがそういうお仕事をしてるからね」

「だったらなんで行かないの?」




 イノシシさんはネズミくんに、自分のお友だちのブタさんのお話をしました。


 ブタさんの仲間は人間って生き物と仲良くして、キノコを掘り当てるお仕事をしています。ブタさんにはにおいでおいしいキノコがある場所が分かる力があるのです。


 もちろん、イノシシさんにもその力はありました。そしてイノシシさんにとっては、キノコは最大のごちそうなのです。


「キツネの言う事が本当だからだ、私のおじさんもその森にうっかり入ってその幽霊のせいで死んでしまった、今頃幽霊の言う事を信じないやつらは同じ事になっているかもしれない、ああ早くなんとかしなければ!」

「わかりましたぁ」


 イノシシさんは大声を張り上げてネズミくんに警告しました。ものすごく必死に、大きな声を張り上げて。

 それに対してネズミくんはいちおうはいと返事はしたものの、正直あんまり納得してはいませんでした。


 これまでいろんなひとに相談して来た中で、ここまで必死になって話してくるひとはひとりもいなかったのです。






 どうしてこんなに必死になるのかなあ。イノシシさんこそ、ゆうれいがこわいんじゃないのか。だからわざとおおげさな事を言ってぼくをおどかしてるんじゃないだろうか。

 ましてやイノシシさんはキノコが大好きらしい。




 そう考えたネズミくんは、キツネやイノシシさんとの約束を守らないことを決めたのです。



 ちなみにネズミくんがいちばん大好きなのはくるみであって、キノコではありません。でも、ネズミくんはキノコが食べたかったのです。

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