14.ずるい
有栖川の苦労は俺にはわからない。だからできることも少ない。それでも、そばに寄り添うことくらいはしてやりたい。
あれから有栖川から連絡はない。昨日が休日だったということもあり、時間が有り余っていたので余計に心配してしまう。
とりあえず学校に行こう。そこでもし有栖川に会えなかったら、家に行こう。有栖川がいない中で悩むのは無駄なだけだ。
「いってきます」
「祐」
「どうした?」
「アリスさんになんかあった?」
「……やっぱ気づくよな」
「それは、どっちについて?」
この前まで家にいた子が有栖川だということか、有栖川になにかあったということか。前者に関しては、元々隠せているとも思ってなかったから特に問題は無い。
「あー、君の力になってあげられるのは祐だけじゃないって、言っておいてあげて」
「わかった」
「うん。いってらっしゃい」
「いってきます」
昼休み、準備された弁当を早々に食べて食堂へ向かう。
「あれ、どこいくの?」
「有栖川のところ」
「あ、そう。どしたの、なんかあった?」
「いや別に」
「ついて行っていい?」
「いいけど、大丈夫なのか?」
「なにが?」
「……いや、なんでもない」
「そっか。で、有栖川ちゃんはどこに?」
「多分食堂だと思う」
「ふーん。お昼とか、一緒に食べれたらいいのにね」
「なんだかんだであいつのこと気に入ってるんだな」
「まーね」
あるいは、ただの諦めか。朱音との関係は修復出来たとはいえ、俺の方はまだ今まで通りにという心持ちにはなれない。
でも、朱音は前までの空元気とは違い、本当の意味で前まで通りの接し方をしてくれている。だから、俺もこれまで通り接するんだ。
食堂に着くと、有栖川はクラスメイトらしき女の子、というか見覚えのある子と昼御飯を共にしていた。
「……お前」
「あ、祐介先輩」
「どうしたの? 私に用事?」
「お前まだ有栖川を……」
「あ、違う違う。今はほんとに違うの」
「えっ?」
「三上からも説明して欲しい」
「いや、有栖が説明した方が早いでしょ。私は元々いじめてた側だから、信じてもらえるかもわからないし」
「あー、今は仲良くなったと?」
「うん、まあそういうこと」
有栖川の正面に座っていたのは、いつか有栖川をいじめていた女の子だった。どうせ有栖川のことだから、細かいことはあんまり気にしなかったんだろう。
それでも、この三上という女の子が有栖川と普通に接してるのは納得がいかないが。
「それで、なんか用?」
「あー、いや。大丈夫そうだからいいよ」
「なんのこと?」
「いいって。まあ、三上も仲良くしてやってくれ」
「あ、あたしのことは
「私は三上でいいよ」
「って言って聞かなくて」
「そっか。まあ、よろしく、彩月」
「はい、よろしくです、祐介先輩」
「……なんか嫌」
「は?」
彩月と挨拶を交わしていると、有栖川が不快そうに眉間にシワを寄せる。本人は笑えないと不便ならしいが、周囲もかなり不便ならしい。
「どうした?」
「……私も、更紗がいい」
「そんなこと」
「祐介、有栖川ちゃんからすれば結構頑張った方だから、ね?」
「なんのことだ……まあ、なんでもいいか。更紗、でいいんだな?」
「……ん」
「よかったね、有栖」
「……ん、よかった」
なぜか俯かれてしまい、俺は更紗の顔を見ることは出来なかった。
「で、祐介先輩」
「なんだ?」
「先輩も早く素直になりましょうね」
「……あー」
「バレてるじゃん」
「笑うな」
「えっ、なに? 私の知らないことでしょ?」
「お前はまだ知らなくていいんだよ」
朱音だけでなく、関わり始めて間もない後輩にまで好意を見透かされていることに若干の恥ずかしさを覚えながら、俺はそれを更紗の頭を撫で回して隠した。
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