ボディーガード1/3
イーシオンとオーカの結婚式の日取りが決まったという連絡を受けた。
こちらの世界の多くの国にもジューンブライド的なものがある。王族の婚姻ともなれば、そこから更に婚姻に良いとされてる祝日を基本に、その日付にあった過去の出来事、過去の王族の婚姻日や誕生日、星の位置や式場の方角なんかも加味して決めるらしい。
僕はもう、日付を決める会議が二ヶ月続いたっていう話を聞いた時点で思考を放棄した。ヴェイグが僕でもわかるように噛み砕いて教えてくれました。
〝アルハは結婚しないのか〟
「何を藪から棒に」
真っ先に意識したのはメルノのことだ。
メルノのことは好きだ。愛してるとも言える。
でも、それらを超越して、家族として大事にしたい。
二人で新しい生活とか、夫婦になるとか、そういう考えには……至らないこともないけどまだ先かなぁ僕はこんな体質だしマリノもいるしメルノは好きだけど大切にしたい気持ちのほうが強くて僕が独り占めしていいものかとか僕も男ですからその後のこととかそもそもメルノは僕のことをどういうポジションの人間と思っているのか優しいところが好きと言われたことはあるけどその先は一度も聞いたことがないしあの場は僕を慰めるために言ってくれただけかもしれないし。
〝俺のことが気になるなら、封印してもらって構わぬからな〟
「しないよ!」
僕のだらだらした思考が止んだ頃、ヴェイグが怖いことをさらっと言ってきた。
只でさえ自由にならない身体にいるのに、封じられるって……僕だったら絶対に嫌だ。
〝俺はそう怖いと思わんのだがな。前にも言ったが、この身体は居心地がいい〟
身体全部をヴェイグに明け渡したことは何度もある。確かに、意識だけがふよふよと漂うような、重力や身体の調子に一切引っ張られない感覚は、独特だ。
とはいえ、ヴェイグが言うほど居心地が良いと断言はできない。
〝アルハ自身のものだからな。俺とは感じ方が違うのだろう〟
「そうかもしれないけど。ヴェイグを封印なんて絶対しない」
〝……そうか〟
ヴェイグは複雑そうな声で返事をした。
僕らのことはさておき、イーシオン達のことだ。
日取りが決まったという連絡には、式への出席依頼も含まれていた。
僕だけじゃなく、メルノとマリノも是非とのことだった。
「王族の結婚式に、私達が?」
早速二人に話すと、メルノは難色を示した。出たくない、というより気後れしている感じだ。
「結婚式に出席したことはある?」
ちなみに僕は一度もない。テレビや本で見たり読んだりした知識のみだ。
「小さな頃に、一度だけ。花嫁さんの歩く道にお花をまく役で」
フラワーガールの風習は、こちらにもあるようだ。
「メルノが小さい頃ってことは、マリノは?」
「ないー」
マリノが少し残念そうに、口をとがらせながら答えてくれた。
「王族の式も似たようなものらしいよ。人が多くて話が長いだけ、ってヴェイグが」
「いえ、あの……アルハさんは
「メルノ達だって王族と並んでもおかしくないから、オーカ達が招待してくれてるんだよ。それに、王族に緊張するのは解るけど、今更じゃないかな。ヴェイグは王族だよ」
〝元、だ〟
中にいる側の声はどう頑張っても普通の人には聞こえない。それでもヴェイグはきっちり訂正してきた。
「いえ、あのっ、ヴェイグさんはもう、アルハさんとずっと一緒でしたから、忘れていたわけではなくて……」
ヴェイグに失礼なことをしたと勘違いしてしまったみたいだ。メルノが大慌てで両手を前に突き出してぶんぶんと振る。
〝気にしていないと伝えてくれ〟
「気にしてないって。それで、どうする?」
「す、すみません……そうですね。せっかくのご招待をお断りするのも失礼ですね」
メルノは緊張した面持ちで、決心した。
「マリノは?」
「ごちそう、出る?」
「うん」
「行く!」
食い気味の即答だった。
式は一ヶ月かけて執り行われ、そのうち僕らが参列するのは三日間だ。
メルノがその三日間の仕事を調整するためにフィオナさんへ連絡した。
「それでしたら、ドレスが必要ですわね。そろそろメルノ様に、ドレスの縫製を依頼するつもりだったのです。素材は提供しますから、ご自分のものを作ってみませんか?」
すぐに話はまとまり、メルノは式までの期間で、ドレス作りに励むことになった。
メルノは以前、僕の服を作ると約束してくれた。それをフィオナさんに話したときは、冒険者向けの頑丈な服の縫製を依頼されたそうだ。
フィオナさんは、メルノに最新式の足踏みミシンも貸し出してくれている。このミシン、日本で僕が見たことのあるミシンとは少し違う。動力は足踏みで、縫う仕組みは魔法が使われているとか。
ミシンでの服作りに慣れてきた頃、僕やマリノにも作ってくれるようになった。
フィオナさん曰く、メルノは仕事が丁寧だから、出来上がった服の評判も良いとか。すごいなぁ、メルノ。
メルノがドレス二着を完成させ、僕の礼服に取り掛かろうとした頃、ディセルブから連絡があった。
相手はタルダさんだ。
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