37 VS四魔神・玄武

 細かい破片が石に、石が岩に、岩があちこちで幾つも集まって、僕の膝丈くらいのサイズの亀になった。

 全部、さっき倒した玄武の小型版だ。

 但し一体一体が、大型サイズと同じ強さに感じる。


 今まで強い魔物といえば比例して身体が大きかった。

 大きいってことは、攻撃が当てやすい。

 このサイズでこの強さは、厄介だ。


 百体ほどいる玄武は、弾丸のように襲いかかってきた。


 刀で弾き、身体を捻り避け、二十体程真っ二つにした。

 真っ二つになったやつは、またくっついて元通りになる。細切れにしても同じだった。


“消すしかなさそうだが、俺が一々右手を借りていては追いつかん。アルハ、一つ試したい”

「何を?」

 [防具生成]の盾で囲んでも、あっさり破って出てくる。ヴェイグに腕を渡す余裕が作れない。

 それでも左腕と刀だけでなんとかしのげないかと模索していたところへ、ヴェイグのこの申し出だった。

 何をするかと思ったら、ふいにヴェイグから力が抜けた。

“前に、アルハが全身を渡してくれただろう”

 ヴェイグにスキルを使ってもらおうと、そうしたこともあった。

 その後3日も寝込んでしまったから、以来試していない。


“俺に渡せる身体は無いからな。魂を、渡す。魔法はアルハが使え”


「駄目だ! 身体を渡すのとは訳が違うだろ!」

 止められなかった。ヴェイグの魂が、僕の中に溶け出すような感覚がした。

「~っ!!」

 瞬時に魔法の扱い方を理解した。

 元々、ヴェイグが使っているのを体感してきたんだ。やり方はよく分かってる。


 玄武達は乱射状態で飛んでくる。

 魔法だけは何度やっても、ヴェイグのようには使いこなせない。

 今も、ヴェイグが命がけで僕に力を貸してくれているのに、うまくやれない。

 早くしないとヴェイグが完全に溶けてしまう。


 焦りで動きがもつれる。玄武が容赦なく突っ込んできて、僕の手足を砕く。

 何度も[再生]させて、無理矢理魔法を放つ。照準が合わない。

 こちらから当てられないなら……カウンターでやるしかない。


 あえて攻撃を喰らい、そこに消滅魔法を発動する。狙いが定まらないから、身体まで浅く削るように消してしまう。

 皮膚どころか筋肉まで、自分が放った魔法で削れる。

 そこも魔法や[治癒能力強化]で治しながら、玄武を倒すのにだけ集中する。

 痛みを気にする余裕も時間もない。


 こちらが魔法を使い出し、半分ほど削ったところで、玄武は周囲に散り、それぞれ別方向から一斉に攻撃を仕掛けてきた。


 まとめて向かってきてくれるのは、逆に好都合だ。


 こちらも全方位に攻撃すればいいだけだから。


 魔力だけはたくさんある。自然回復量もかなり多いから、余程のペースで消耗しなければ、尽きることはない。

 その僕の魔力を、消滅魔法に変換した。


 百体いた小さな玄武を、全て消滅させることができた。




 「ヴェイグ!」

 呼びかける。何度も。

 応えがないのが怖い。嫌だ。

「ヴェイグっ!!」

 胸の奥から何かが流れ出した。


“終わったか”

 いつもの落ち着いた、少し飄々とした声がした。

「馬鹿野郎! 二度とすんなよ!!」

 思わず声を荒げる。叫ぶだけ叫んだら、足に力が入らなくなった。その場に膝をつき、倒れるように座り込む。

“大丈夫だったではないか。……すまなかった”

 滅茶苦茶怖かった。

“二度とやらぬ。約束する”

 ヴェイグが何度も謝って、二度としないと約束してくれて、それでもしばらく、立てなかった。


 ヴェイグの力だけでは処理が追いつかなかった。

 だからこそ、あの手段しか無かった。

 そう考えて、ヴェイグがちゃんと戻ってきた事実を踏まえて、なんとか受け入れた。


 一つ溜息をついてから、立ち上がった。

“アルハ……”

「うん、もう大丈夫」


 呪術の痕跡、魔物の気配、そういうものが完全に無いと確認してから、その場を立ち去った。




 この大陸も一周しようと、ヴェイグと話して決めた。

 ギルドに情報収集をお願いに行くと、お城から使者が来ていた。

 この国の偉い人が、僕を探しているとか。

 冒険者やギルドについて話がしたいから、ボーダも一緒にということだった。

 そういう話なら、統括のボーダだけでいいはずなのに、どうして僕も? と思わずにはいられない。

 僕の疑問に気づいたのか、使者が話を付け加えた。

「他の大陸で一番強い冒険者を、ひと目みたいとか。お話の内容次第では、今後、冒険者ギルドへの便宜も図るとの仰せです」

「そういうことなら、わかりました」


 お城へ行って名乗ると、兵士さんに案内された。

 兵士さんが階段の前まで行くと、他の兵士さんがやってきて何やら揉めだした。

「どこへ連れて行く気だ」「しかし……」「あの話は直々に」「聞いておりますが、あの方が」

 よくよく聞いても、要領を得ない。

「おいっ! まだこんなところにいるのか!」

 後ろから怒声を浴びせられた。

 振り返ると、討伐隊の詰め所でこってり絞られているはずのリアスがいた。


「なぜここに」

 ボーダが僕と同じ感想を口に出した。聞きとがめたのは、僕達を案内しようとした兵士さんだ。

「リアス殿はどこかに囚われていないとおかしいということか?」

「はい。冒険者ギルドの建物を壊したので、討伐隊にお引き取り願ったのですが」

「話が違うではないか、リアス殿」

「冒険者の言うことなど信じるな!」

 こちらを放置して、リアスと兵士さんたちで言い争いが始まってしまった。

 リアスが口だけじゃなく手も出そうとしたので、割り込んで止めた。

「ひっ! は、放せ!」

 面倒くさいなぁ。話はわからないし。

「この人が呼んだのなら、僕の方から話すことは何もないです」

 リアスを組み敷いたまま兵士さん達にそう伝えると、あとから来た兵士さんが慌てだした。

「いえ、たしかにリアス殿も貴方を呼び出そうとしましたが……」

「何を騒いでいる」


 若くて高いのに、よく通る、威厳のある声がした。

 声のする方を見ると、さらさらの金髪にグレーの瞳の、僕よりだいぶ若い男性が立っていた。

 兵士さん達がザッ、と音が聞こえるほど機敏な動作で、最敬礼をとる。ボーダも同じ姿勢になっていた。

 僕とリアスは同じ格好のまま動けない。

 男性はそんな僕の方へ近づいてきた。


「貴方が、冒険者の中でも最高ランク、伝説レジェンドのアルハか? 黒の竜討伐者ドラゴンスレイヤーの異名を持つという」

 突然の羞恥プレイ。

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