21 変
ハインの話をまとめると、ギルドの人材や資材は5割程度まで自由にできるそうだ。
例えばメデュハンには、約5百人の冒険者が拠点置いて活動している。
僕が魔物の討伐や調査を手伝ってほしいと言えば、最大250人は動かせる計算だ。
冒険者の命の保証はしなくていい、ってのはエグすぎる。
「ハインはそれ、やったことある?」
「あるぞ。幸い被害なく済んだがな。ほら、アルハが町についた時、俺はクエストに行っていただろう?冒険者三十人に頼んで、魔物の位置の特定をしてもらった。……そんな顔するなよ。俺だって、誰かを犠牲になんて考えたくもないさ」
「パーティは組まないの?」
「まだ、ちょっとな。1年経ってないんだよ」
ハインは以前組んでいたパーティの仲間を、クエストで亡くしている。
「頼まれても、一緒には行かんぞ。俺が足を引っ張るからな」
僕なら多分死なないから、どうかなと一瞬思ってしまった。やっぱりこの青の
かなり長時間付き合ってもらったのに、ハインは疲れた様子も見せず「また何かあったら言ってくれ」と頼もしい言葉までもらってしまった。
お礼に夕食を奢り、連絡用にと通信石を渡した。
「色んな人から情報を教えて欲しいから、沢山作っておいたんだ……え、何? 何か変なとこある?」
手のひらに置いた通信石をころころ転がしながら、ハインが不満そうな表情をしている。
「黒や青じゃないのか」
「そこには拘ってないから! ってか、石の色って決められないでしょ!?」
魔物のドロップアイテム、
ハインに渡したのは、卵黄みたいな黄色をしている。手持ちに青や黒はない。意図的ではなく、本当にたまたまその2色は作っていなかった。
「まあいいか。って、そうか。アルハも今はギルド住まいか」
夕食後、なんとなく同道して到着したのがギルドの宿泊施設前だ。そういえばハインもここに住んでるんだった。
「ラクにも挨拶しておきたい。先に帰っているのだろう?」
僕とハインの話が長くなりそうになると、ラクは「服屋に寄ってから先にねぐらへ戻っておる」と言い残して出ていった。
今は自分の部屋にいるようだ。
扉をノックして声をかけると、「入れ入れ」と気さくな応えがあったので、素直に扉を開けた。
ラクさんどうして半裸なんですか。
「おう、ハインもいたのか。どうじゃ?」
「ラクさん貴女人里の常識にお詳しいと伺っておりましたが」
「なんじゃアルハ。言葉遣いがおかしいぞ」
「どういうことだアルハ」
「全然わからない」
ラクは女性の是非隠していただきたいところだけを隠すような、所謂下着姿でした。
「今まで着けておらんだでな」
「着けてなかったの!?」
ハインが真っ青になって泡吹いて倒れた。
「ハインー!」
ていうかハインのリアクションおかしくない? 大袈裟すぎない?
「どうしたハイン!?」
「ラクはちゃんと服着て! 説明は後でするから! その格好が拙いんだよ!!」
近寄ろうとするラクを制し、倒れたハインを引きずって、僕の部屋へ避難した。
ベッドにハインを寝かせて、水を貰いに一旦出て帰ってくると、ハインが起きてベッドに腰掛けていた。顔は両手で覆っている。
「大丈夫?」
コップに入った水を差し出すと、受け取って一息に飲み干した。
「すまなかった。落ち着いたよ」
顔色はまだ良くない。
ハインは顔が良いので女性にモテるらしい。竜退治の時に見送りや出迎えに来てくれた町の人は女性の割合が多かったように思う。
大勢の人前に出るのが苦手な僕とは対象的に、ハインは人前で臆したりしないし、挨拶や握手にも快く応じている。その中には当然女性も含まれる。
女性に対応する度に倒れたり顔を青くしたりすることはない。
ということは……。
「ラクのこと、そんなに苦手?」
「違う、逆だ」
「逆?」
「大変好ましいと思っている。こんな感情は初めてでな、俺自身どうしたら良いのかわからんのだ……」
理解に数秒を要した。
「えーっと、つまり、ラクのことが好きで、会う度に顔を青くしてたのは緊張とかそういう?」
「そ、そうだ、緊張だ! 俺は緊張していたのか」
本人も把握してなかったようだ。
「あんなに美しい人は初めて見たのだ。だが、近くに寄ったり、話をしたりすると、身体が震えてしまって手に汗をかく。俺などが触れていいのか、会話をしていいのかと自問自答して、どんどん身動きが取れなくなる。先程は……眼福のあまり目眩が」
「恋じゃん」
理由がはっきりわかれば、何のことはない。多分人生はじめての恋だ。
「恋か、そうか……俺には無縁だと思っていた……」
「どうして。モテるんでしょう?」
「どちらかというと、女性は怖いからな。一人を決めようとしたら、他の女性達が争いを始めたことがあって」
「ハインもか」
“ヴェイグ?”
何故かヴェイグが体を乗っ取った。
「へ? ああ、ヴェイグか。何か心当たりが?」
「以前の俺も似たような目に遭ってな。気持ちはわかる」
ハインの肩にぽんと手を置いて、うんうんと頷いてる。ヴェイグも今は僕の顔だから、そんな修羅場は二度とこないよ。安心して?
ちゃんと落ち着いたハインが自分の部屋へ帰ると、ラクがやってきた。
「アルハ……儂、どうすれば」
竜の聴力で会話は全部聞こえてたらしい。僕も知っててハインに白状させたんだけどね。
ラクが微妙に、ハインにいつも青い顔で応対されるの気にしてたから。
「それより先程の件ですが」
僕はラクに、女性の慎みについて滾々と説教をした。僕やハインだったから良かったものの、他の人に見られたら、はしたない認定されますよ、と。
「それは、解った。すまなかった」
素直に謝ってくれたので、今回は良しとしよう。
「で、ラクはどうしたい?」
「……」
ラクが黙ったのは数秒だった。
「儂も、ハインのことは悪からず思っておる」
もごもごと言いよどみつつ、しかしハッキリこう告げた。
「アルハの側は離れがたいが……ハインが良いと言ってくれるなら、しばらくハインと共にいてよいかのう?」
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