22 別れと続き

 翌日。ギルドで僕、ラク、ハイン、統括のジビルと打ち合わせ。

 ジビルまで茶番に巻き込んでしまうのを申し訳なく思いつつ、ギルドのホールの真ん中に立つ。


「では、アルハ殿、お達者で。いつでもお待ちしております」

「はい。皆さんもお元気で。ハイン、ラクを頼むよ」

「任せておけ」

「世話になったの」


 ラクは短い間とはいえ僕とパーティを組んで指導者リーダーにまでなった冒険者で、僕やハインは世界に数人しかいないランクの持ち主だ。そんなパーティのメンバーが入れ替わるのは、大きな出来事らしい。

 しかも、女性であるところのラクが僕と別れてハインと一緒になる。

 何の説明もなければ、誤解されるのが目に見えてる。

 というわけで、わざわざ人の目の多い場所で、一芝居打ったのだった。疲れた。


 当初の目的である解呪の旅を再開したいところだったので、町に残るラクをハインに任せる、という設定にしておいた。

 演技に自信はないけど、パフォーマンスとしては上出来だったと思う。


 町を離れ、東の山の麓を目指す。

 町から見て反対側へ向かうと、既にハインとラクが待っていた。

 ラクがハインを連れて異界を通って先回りしていたのだ。


「お疲れ様」

「アルハもな。今回の件は、本当に感謝してもしきれない」

 ハインに深々と頭を下げられる。ラクもそれに倣った。


 昨夜あのあと、一度部屋に戻ったハインを呼び戻し、ラクに気持ちを伝えさせた。

 ハインは自分の気持ちに整理がついたらしく、顔を青くすることなく、ラクの申し出を了承した。

 その時も2人には感謝された。

「もういいってば。それより、ラクはハインに迷惑かけないようにね」

「勉強し直しておく」

 ラクは苦笑いに顔をしかめる。それでも嬉しそうだ。

 人と竜でこういうことになって、先のことはわからない。でも2人なら、なんとかなるだろう。


 改めて別れの挨拶をして、僕は僕の旅を再開した。




 竜の力を使い空を飛んで移動する方法は、すぐに諦めることになった。

 調子に乗って丸一日飛び続けていたら、翌日僕が眠ったまま起きなかったらしい。

 僕としては、寝て起きたら朝だったから普通に次の日と思っていたのに、翌々日の朝だった。

“俺一人では解呪も痕跡の捜索もできぬからな。お手上げだったぞ”

 飛んだ時間が一日の睡眠時間を超えると、余計に眠ってしまうらしい。

 野営しながらの検証は厳しいものがあるので、飛ぶのは緊急時を除き、暫しお預けとなった。

 こういう時、大抵僕が無理を押そうとしてヴェイグに叱られるのに、今回渋ったのはヴェイグの方だった。

“時間を決めて、いや、山を越えるときだけ。すまん、なんでもない”

 徒歩での移動に切り替えてしばらく、ブツブツと何か言ってた。

「この大陸の解呪が終わったら、一旦トイサーチ帰ろうか。他の大陸も見たいけど、僕も自分のこと確認したいし」

 つまり、解呪が早く終わればそれだけ飛ぶ機会を得られる。そう提案してみたら、ヴェイグもやる気を取り戻した。


 トイサーチへ早く帰りたいのも本心だ。

 時折[異界の扉]を使って様子を見に行ってたけど、メデュハンに着いてから今まで、全く帰れていない。

 数日に一度、夜に通信石でメルノと近況報告しあう程度だ。

“メルノが恋しいのか”

「うん」

 こういう気持ちをヴェイグに隠すのは無駄だから、素直に肯定した。


 急ぐ僕らの目の前に現れる魔物は、ほとんど瞬殺していった。

 まず、[気配察知]に引っかかると、真上に刀を創って落とす。

 避けられたら、同じ要領でヴェイグが魔法を放つ。殆どの攻撃魔法に追尾機能を着けるのに成功していて、これで99%討伐できる。

 残りの1%は、近づいて僕が直接叩き斬る。

 発見から討伐、ドロップアイテムの回収まで、1分とかからない。


 トリア大陸1周まで後少しとなった時、それでも倒しきれない魔物と遭遇した。

 以前、仮に『魔族』と呼んだ奴に近い見た目をしている。

 雰囲気や、僕を見下す嫌な眼は前の奴とそっくりだ。

 落とした刀を避け、魔法を無効化し、一度目の斬り付けは弾かれた。

“呪術の少ないこの大陸にも現れるのか”

「捕獲して尋問してみる?」

 以前は言葉が通じるのならと手加減してしまい、痛い目を見た。同じことを繰り返すつもりはない。

 今回は非人道的な行為を試みたいと申し出てみる。

“アルハに危険が及ぶようなら、無理にでも止めるからな”

 これはOKって意味だ。


 創り直した刀で斬撃を飛ばす。魔族は余裕の表情でそれを避けると、僕に向かって火炎魔法を放った。さっきヴェイグが使ったのと同じ魔法だ。威力は倍か、それ以上ある。

 魔法と同時に魔族の方も剣を創って斬りかかってきた。魔法と剣、ほぼ同時に僕が立っていた場所に降り注ぐ。

 魔族が僕を見失った時、僕は魔族の真後ろに立っていた。剣を叩き壊し、片腕をひねり上げ、刀は喉元に突きつける。

「どこから来た?」

 普通に話しかけてみる。魔族は先程までの余裕さを失くして、酷い叫び声を上げていた。耳障りだ。

「言ってる意味はわかるか? わかるなら、叫ぶのをやめてくれ」

 やめてくれなかった。駄目かな。

 しばらく根気強く話しかけてみたけど、何を言っても叫ぶだけで、何も言葉を発さなかった。

 溜息とともに、止めを刺した。


「何もわからないなぁ」

 魔族が何も残さず消えていくのを確認してから、もう一度溜息をついた。

“不気味な輩ではあるが、俺達の前にしか現れないようだな”

 これまで通ってきた場所や、メデュハンで集めてもらった情報に、魔族やそれに近そうな魔物の話は一切なかった。

 メデュハンの情報は、集まりきってから改めて教えてもらうことになっている。

「他の大陸のギルドにもお願いしにいかないとね」

 自分のランクの有効活用、まだ躊躇したい気持ちのほうが大きい。

 でも放っておくこともできない。

“次に同じのが出たら、俺にやらせてくれ。魔法が全く届かない相手は初めてだ”

「わかった。出ないほうが良いけど」

 魔族で一番気になるのは、異常な強さだ。かなり本気でやらないと、こちらがやられる。

 他の人の前に出たら確実に酷いことになる。

“そうだな。だが今は考えても仕方ないだろう”

「うん」

 気を取り直して、移動を再開した。

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