8 新しい仲間
どこでそんな知識を仕入れてきたのか、ラクは人の世に詳しかった。
食事の量は僕より少ないほどで、足りるのかと聞いたら「足りることにする」と返してきた。
同じ宿に空き部屋が無いと知るや、「では別の宿を探してくる」と、あっさり引き下がった。
宿代を渡そうとすれば、「持ち合わせはある。心配無用じゃ」。
翌日、合流してすぐ服屋へ行きたがるので理由を尋ねると、
「この一着しか持っておらんでな。人の女は服を幾つも持つのであろう?」
と、妙なことまで知っていた。
「仲間になるってことは、ラクも冒険者をやるの?」
「アルハが言うなら、そうする」
「自由意志でいいよ」
「アルハについていく以上は、冒険者のほうが都合がよさそうだのう」
結局ラクも冒険者をやることにした。一応登録しておこうと、冒険者ギルドへ向かう。
途中で装備屋に寄って、ラクの装備を見繕ってもらった。
服は赤いチュニックとロングスパッツに、濃緑色のポンチョ。腰まである赤い髪はポニーテールにまとめて、ラクの冒険者スタイルが完成した。以前のローブ姿のときもそうだったけど、ちゃんとした服を着るとますます美人だ。
「似合ってるよ」
と素直に感想を口にすると、ラクはまんざらでもなさそうな顔をした。
ギルドハウスに入ると、ハインがいた。数日前に会っているのに、すごく久しぶりの気分だ。
「アルハじゃないか。体調はもう良いのか……って、そちらの方は!?」
僕を見つけて朗らかに挨拶をしてきたのに、隣にいるのがラクだと確信するや、真っ青な顔で僕の両肩をがしりと掴んだ。
ああ、青の……ってやっぱりそういう意味もあるのか。
「違う、こんなに血の気が引くのはラク殿に会うときぐらいだ」
テレパシー標準装備なの?
「おお、あの時の冒険者ではないか」
ラクがさっきのハインの真似をするように、朗らかに挨拶をする。
「説明求む」
ハインが吐きそうな顔で僕に顔を近づける。近すぎるし表情が怖い。
「ええと……場所変えようか」
この場でさっと説明して終わりにしてもよかった。
場所の移動を提案した理由は……さっきから周囲の視線が痛い。
僕(でかい)、ハイン(青い)、ラク(謎の美女)って、さぞかし目立つんだろうな……不本意ながら。
ハインの顔利きで、ギルドの個室を借りることができた。
僕とハインが向かい合わせに座り、ラクは僕の隣へ。
椅子や机がカタカタと細かく音を立ててるのは、ハインがかすかに震えているせいだ。
そんなに怖がらなくてもいいのに。
「しばらくアルハと行動を共にすることにしたのじゃ」
ラクが早速自ら、ハインに説明を始める。
「ななな何故アルハと?」
ハイン、声まで震えてる。ちょっと可哀想になってきた。
「興味がわいての。それに、アルハにまだ礼をしとらん」
「組手に付き合ってくれたじゃない」
「あんなのは礼の内に入らぬ」
「くくく、組手!? ラク殿と!?」
「お主、もうすこし落ち着けぬか。儂のことはただの人間の女と思えばよい」
ラクがたまらず、ハインを注意した。逆効果と思いきや、ハインはぐっ、と押し黙った。
「そ、そうですね。いや失礼しました」
まだ少し震えつつも、ハインは自分を律することに成功した。えらいぞ。
「アルハは旅の目的があるのだったな。ラク殿に手伝っていただくのか?」
ここへ来る道すがら、ラクには呪術や解呪のことを話してある。
「手伝えたら良かったのだがの。呪術など、儂にはお手上げじゃ」
ラクじゃなくとも、解呪のできる竜は聞いたことがないという。
「まあ、迷惑はかけぬ。アルハが嫌といえば、すぐに離れる。儂が先に飽きるやもしれん」
「は、はぁ……」
この、清々しいほどの淡白さがあったから、ラクと一緒に行こうと決めた。「死ぬまでついていく」とか「お礼をするまで絶対離れない」なんて言われてたら、全力で逃げてた。
なによりラクは僕より強い。僕自身がどこまで強くなればいいのかわからない中、僕より強い存在が近くにいてくれるのはありがたい。
「アルハ、前に旅を手伝いたいと言ったが、あれは撤回する。すまない」
ハインが僕に向かって頭を下げる。本人には言えないけど、よかったー!
「気にしてないから。一応理由を聞いてもいい?」
「アルハとラク殿についていける気がしない」
顔を上げて、きっぱり言われた。ハインも清々しくていいな。
ラクの冒険者登録はさくっと終わり、とりあえずラクのランクを上げることにした。
「上げる必要はあるかの?」
「僕がその、
「ならば仕方なし」
自分のことをヒーローって呼ぶの、慣れない。
この、難易度Gを10匹は、難易度Fを数匹でもいいとのことだ。
つまり上の難易度の魔物を倒しまくれば、ランクは楽々上がる。
教えてくれたのはハインだ。
ハインだって
そんなハインが、この手段で飛び級でランクアップしたことがある、と話してくれた。
「この話は、広めないでくれるか」
武勇伝語りの好きなハインが、真顔でそんなことを付け加えた。
「無茶をして難易度の高い魔物に挑む冒険者が出てしまうからな」
多分、本当にそういう人がいて、あまりいい結果にならなかったんだろう。僕も真面目に頷いた。
3日後、ラクは
町の周辺に魔物が少なくて、探すのに時間がかかってしまった。
見つけた魔物は僕の視界に入る間もなくラクが倒していた。やっぱり強い。
「人の姿でも飛べるんだね」
僕がワンテンポ遅れて魔物がいた場所へたどり着くと、ラクが消えゆく魔物から僕に視線を移した。
「アルハは飛べぬのか」
「飛べなくはないけど」
僕の飛ぶ手段は、スキル[武器生成]で創った武器を飛ばす時に僕が掴んだり乗ったりする方法だ。
長距離の直線ならまだしも、小回りが全くきかなくて、戦闘や短距離ではジャンプしたり走ったりしたほうが早いという欠点がある。
そう説明すると、ラクが怪訝そうに眉をひそめた。
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