2-21-2 ゆかいな冒険者たち

 ギルドの牢から出て城へ行き、一通り話しが終わった後。

 案内された客室へ入ろうとしたら、エリオスに呼び止められた。


「本当にもう怪我は大丈夫か?」

 エリオス、さっき僕の背中をバシバシ叩いてた気がするんですが…。

「なんともないよ」

「そうか。いや、さっきはついバシバシやってしまってすまなかったな」

 自分でも気にしてたのか。

「大丈夫、そんな軟じゃない」

「それならいいんだが。俺はどうも、勢いだけで動いてしまうことがあってな」


 それからもしばらく、心配を口にした後「何かあったら言ってくれな」と、自分の部屋へ戻っていった。

 普段の態度も戦闘中も豪快な人なのに、繊細なところあるんだなぁ。




***




 客室でヴェイグと話をしていたら、扉をノックされた。

「どうぞ」

 入ってきたのは、ライドだった。


「いきなり悪い。少し聞きたいことがあってな」

 椅子を勧めると、すぐに切り出してきた。

「その……身体のことだから、気を悪くするかもしれん。嫌だったら、すぐにやめるから言ってくれ」

 身体のこと。直ぐに思い至るのはヴェイグのことだ。

 僕とヴェイグの状態については、説明が大変だから話さないだけで、隠すつもりはない。

「何のこと?」

「さっきの夕食、普通の量を食べてたよな」

「うん。あの、何か失礼なことしちゃったかな」

 食事のマナーを注意されるのかな。ヴェイグに教わったとおりにしてるつもりなんだけど。

 ていうか、ライドってそういうとこ気にするタイプなのかな?


「いや、そうじゃないんだ。量が問題なんだ」

 そう言ったあと、俯いてすこしモゴモゴして…。


「身体、細いよな」


 また言われた。でも、目の前のライドも、僕ほどじゃないけど細い方の人だ。

「まあ、その、うん」

 意図が読めない。とりあえず肯定だけしておく。

「俺も、ご覧の通りなんだよ。もしかしてだけど…アルハも、食べても太らない体質か?」


 目と目が合う。それから、僕とライドは同時に、しかしゆっくりと立ち上がった。


 差し出された右手を、がっしりと握り返した。




「量を食べても駄目か…」

「体を動かすのが仕事だもんね」

「それでもエリオスはアレだぜ」

「エリオスは普段何食べてるの?」

 僕とライドが有意義な会話をしている間、ヴェイグが暇そうにしているのが申し訳ない。

 でもほら、ヴェイグも僕の体格について心配してくれてるじゃん。

 何かヒントが得られるかもしれないから。


「リースに『どうしてなの!?』って脈絡なく怒られたことがある」

「理不尽!」

 途中から、食べても太れないことへの愚痴になったのは、まあその、ごめん。


 結論としては、僕らがこうなのは体質だから仕方ないってことと、周囲の無理解はひたすら耐えるしかないってことに落ち着いた。

「たまにこうやって、話をしにきてもいいか?」

「勿論」




***




 夕食ができたからと食堂へ呼ばれて向かう途中、リースと同道した。

「トイサーチにいる家族って、どんな構成?」

 リースはメルノほどじゃないけど、身体が小さい。話すときはいつも、僕を見上げる形になる。

「メルノっていう女性と、その妹のマリノの二人だよ」

「血縁じゃないのよね?」

「うん」

 二人と住むことになった経緯を軽く説明した。

「なるほど。それで、どこまでいったの?」

 めっちゃグイグイ聞いてくる。

「妹として接してるから、そういうのは」

「本当?」

「本当だよ」

「……じゃあ、オーカのことはどう思ってる?」

「どうって、オーカはオーカだよ」

 何故オーカの名前がでてくるんだろう。

「私がどうかした?」

 いつのまにか食堂に着いていて、そこにはオーカもいた。

「リースに聞かれて…」

「オーカ」

 僕の話を切って、リースがオーカの両肩に手を置いて、つつつ、と廊下の脇に移動した。

 女性二人で何事か話をして、オーカが顔を赤くしてリースにつっかかったり、リースがオーカを慰めるように肩をぽんぽん叩いたりしていた。


「二人は何の話をしてるんだ?」

 ライドに聞かれても、僕にもさっぱりわからないよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る