22 ボランティア活動

 部屋は一人一つずつあてがわれた。オーカは自室があるから除くとしても、4人分だ。

 流石にセネルさん一人で全室用意したんじゃないよね?


 城に入ったのが夕方に差し掛かった頃で、話し合いや情報交換で夜になった。

 オーカ達は調査についての打ち合わせ中だ。僕が参加しようとしたら、

「昼に散々な目に遭ったんだから、今日はもう休んで」

 と言われてしまった。

 だから今、部屋に一人で、他に誰かが来る予定もない。

 [自空間]の中にいると[気配察知]の範囲が狭くなるんだけど、部屋の前くらいならなんとかなる。


 というわけで、スキルの実験と検証を……。


「寝ろ」

“はい”


 ヴェイグに身体を乗っ取られて、有無を言わさずベッドで横になってしまった。


“もう治ってるし体力も殆ど減ってないんだけど……”

 怪我は僕のスキル効果で殆ど治ってたのに、ヴェイグがわざわざ魔法も使ってくれたから完璧に治っている。

「確かにアルハなら大丈夫かもしれぬが、見ている方は心配にもなる」

“そっか”

 ヴェイグにこう言われては、逆らえない。




▼▼▼




 調査は、ギルドの再編を待たずして始められた。

 最初に教会が徹底的に調べられた。教会の人間たちも、濡れ衣を着せられたことに憤り、積極的に協力した。

 これにより、教会内で呪術に関わっていたものは完全に居ないことが確定した。

 但し、コワディスに対し教会を騙った者も結局見つからなかった。


 魔物を召喚する呪術の元となる魔法陣は、その後ジュリア―ノで同じものが5つ見つかった。

 6つで起動するものだったようだが、それでも呪術を構成するには足りないほど小規模であることは明白だった。


 アルハ達が潜入した建物の件も、不可解な部分が多い。

 人が魔物によって殺されていたのは間違いないのだが、魔物たちは隠し通路の奥にしかいなかった。

 人を襲った後、通路へ入り出入り口を塞ぐとは考えにくい。

 何者かが手引したとしても、魔物は人の命令など聞かない。

 何もかもを呪術で制御していたとしても、術者の痕跡すらない。


 調べれば調べるほど、不気味な事実だけが積み上がっていき、どこかにある真実は誰にも見つけられなかった。



 ガブレーンが統括を解任させられてから7日が経ち、ギルドは新しい統括を据えて再始動した。

 ギルドが機能していない間、周辺の魔物はアルハが殆ど一人で討伐していた。




◆◆◆




「一km先に、難易度Bくらいの魔物が三体」

 ヴェイグに伝えて、その場所へ真っ直ぐ進む。

 ここ何日か、ずっと僕とヴェイグでジュリアーノ周辺の魔物を討伐している。[気配察知]で魔物の難易度が大まかにわかるようになってきた。


 今、ギルドは再編中で、クエストは出ていない。オーカ達は再編のための事務に当たっている。

 僕以外にも何人かがクエスト抜きで魔物を討伐している。


 町の周辺は、北の森以外でも木が多くて、動物や魔物が住みやすい。そこを少し抜けると、今度は平地が広がっている。

 平地に魔物が出るようになったのは、僕が森にいる魔物を討伐しまくったせいだ。

 最近、どういうわけか魔物が僕の姿を見るや逃げ出すことが多くなった。

 魔物は本能的に、相手がどんなに強くても攻撃をしかけてくる、と聞いていたのに。

 逃げられても、追いつけないことはないから今の所問題はないのだけど……なんだか解せない。


 一kmの距離を十数秒で詰めて、視界に入った魔物を両断していく。

“インプ、だろうな。難易度はCのはずだ”

 ヴェイグが両断された魔物を見て、判別してくれる。

「やっぱり、魔物強くなってない?」

 この前のジャッカロープのときからおかしかった。

“アルハが言っても説得力がないのだが”

「それは……えっと……」

 遭遇した魔物は片っ端から真っ二つにして討伐している。

 正直に言えば、もう怖い魔物というのは想像がつかない。


「近くにはもう気配はないね」

 ドロップアイテムを無限倉庫に回収しながら、周囲を探る。

“帰るなら、転移を使うぞ”

「いいの? 最近あんまり走ってないけど」

“アルハが速すぎて、短い距離では堪能できんのだ。……いや、そうではなくて。アルハばかり働いているからな。これくらいはさせてくれ”

 速すぎても駄目なのか。移動方法ソムリエも奥が深い。

“じゃあ、頼むよ”

 交代して、転移魔法を使ってもらった。

 印の場所は、お城の客室だ。


 ガブレーンに投獄された日から、ずっとお城でお世話になっている。

「冒険者を贔屓するのはよくないのだけど、アルハならいいでしょ」

 と、オーカに言われた。

「僕ならいいって何で」

「森の魔物、呪術つきの魔物……難易度AからSまで全部、アルハが討伐したじゃない。もう町は『黒髪の冒険者』の噂で持ちきりよ。ま、チヤホヤされたかったら町の宿屋に泊まるといいわ」

「お世話になりますよろしくお願いします」

 つい食い気味に返答してしまった。

 こっちの世界のこのあたりは特に、黒髪の人が全くいない。黒髪が多い大陸とはあまり交流がないそうだ。

 目立ってしまうので、普通に町を歩くにも、隠さないといけなくなってきた。

 大きめのフードがついたマントをオーカが用意してくれたので、城の外へ出るときはそれを身につけている。


 客室に到着して、ヴェイグと交代した。装備を外し、ドロップアイテムを幾つか取り出して部屋を出る。

「戻られましたか、アルハ殿」

 部屋を出てすぐのところでセネルさんに会った。

「はい。封石とアイテムを渡しに行こうかと」

 いくら王城とはいえお世話になりっぱなしは良くないので、ドロップアイテムの一部を宿代代わりに納めている。

 オーカやセネルさんにはだいぶ渋られたけど、なんとか受け取ってもらえることになった。僕にも恩倍返しシステムが身についてきたようだ。ちゃんと返せてるかはわからないけど。


 ドロップアイテムは毎回セネルさんのところへ持っていく。今この場で渡すより、ちゃんと部屋で受け渡したほうがいいよね。……と、僕が考えていると、セネルさんが厳しい顔つきなのに気がついた。

「何かありましたか?」

「通信石に、オーカから連絡は」

 セネルさんはいつも、オーカのことを姫と呼ぶ。それを名前で呼んでしまう程、余裕がないようだ。

「いいえ」

 城で厄介になる時にオーカから渡された通信石は、オーカとの連絡専用だ。着信は音や振動もなく、持っているだけでわかるようになっている。


 嫌な予感しかしない。


「連絡に応答がないのです。今日は、西にある小さな村へ向かいました」


 言われる前から[気配察知]を発動させて、オーカの気配を探していた。半径五km以内にはいないようだ。

「行きます」

「申し訳ありません。お願いします」



 セネルさんから詳しい場所を聞いた後、外していた装備を再び身に着けて、西へ向かった。

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