7 森の魔物討伐連戦

「嘘……」

 やっと追いついたオーカが立ち尽くしている。


 魔物の死体は全て消滅して、ドロップアイテムが残った。

“例の呪術とは無関係のようだな”

「うん、よかった」


 オーカが寄ってきて、僕の身体をぐるっと見回した。

「怪我とか、してない?」

「してない」

 両手を広げて、なんともないよアピールをしてみせる。


「えっと、そうじゃなくて、いえ、怪我してないならいいんだけど……何? 何が起きたの?」

 オーカは混乱している。

 他に誰もいないし、スキルのことを話してしまおう。


「スキルって知ってる?」

「話だけ聞いたことがあるわ。ディセルブ国……もう国じゃないけど、あそこの王族に稀にスキル使いがいるんでしょう?」

 王族繋がりでディセルブのことを知っているようだ。

「僕は王族じゃなくて転生者だけど、使える」

 王族も実は此処にいるんだけど、ヴェイグのことは気づかれてからでいいかな。

「じゃ、じゃあ、あの異様な速さも、今の強さも?」

「そう」


 オーカは大きなため息をついたかと思ったら、顔をがばっと上げて僕に詰め寄った。


「凄い!」

 興奮して目が輝いてる。こういう顔、前にもどこかで向けられたな……。

 思い出した。イーシオンだ。

 イーシオンのスキル[身体能力強化]を目の前で解放・発動させた後、こんな感じだった


「剣を創ったのは見てたわ、他に何が出来るの!?」

「ええと……危ないのばっかりから……魔物相手じゃないと」

「さっきの剣は変わった形だったけど、他にはどんなのが創れるの?」

 すごい勢いでグイグイ迫られて、今にも抱きつかんばかりだ。

「オーカ、近い近い、落ち着いて」

 どうどう、と抑えると、オーカがやっと近づきすぎたことに気づいてくれた。

「ご、ごめんなさいっ」

 なんとか離れてくれた。


「だから、僕一人で行けるので……」

「それは分かったわ。その上で、お願い。一緒に連れてって」


『スキルもっと見たい!』って顔で、懇願された。増々イーシオンっぽい。


「でも着いてこれなかったじゃない」

「う……それは……。頑張る! 頑張るから!」


 いくら言い聞かせても、絶対ついてくの一点張りになってしまった。

 置いていっても勝手についてくるだろうし、一人でこの場に残すのは、流石に気が咎める。

 あと、僕はこうなった女性の扱い方を未だに知らない。ヴェイグにも分からないようだ。


「わかった。できるだけ急ぎたいから早足になる。それでもいいなら」

「勿論よ!」


 [自空間]の無限倉庫を、ドロップアイテムが散らばってる地面へ展開。アイテムだけを箱に吸い込む。

 この方法を編み出してから、アイテム回収がすごく楽になった。


「いまのは?」

「[自空間]ってスキル」

「なんでもアリなのね……」

 オーカが若干引いた。




◆◆◆




 オーカと合流後、魔物の群れを3つほど潰した。

 アルハがスキルを使う度に、オーカが質問を浴びせてくるので、次第に[武器生成]しか使わなくなった。


 オーカは変わった娘だ。王女だというのに冒険者になり、初対面のアルハと対等に接する。

 王族であることへの矜持を持ちつつも、それをひけらかさない。

 姫の行動を女王が看過していることから、オーカ自身というよりジュノ国の王族が変わっているのか。

 俺が王族であることを捨てなければ得られなかったものを、オーカはありのままで得ている。

 正直に言えば、羨ましい。



「もう近くに魔物はいないね」

 ドロップアイテムを回収したアルハが呟く。

“森の魔物が増えすぎた、という伝言だったな。森に入るか?”

「一人ならそのつもりだったんだけど……」


 オーカはよく着いてきた。だが、アルハが魔物を討伐する速度が異常なため、先程からずっと息が上がっている。

「森に入る。オーカは帰ったほうがいい。さっきの扉で送るよ」

「なん、で……。行く、わよ……」

 根性は十分にある姫だ。

「むぅ……」

 足手まといだ、とはっきり突き放せないのは、アルハの良くない部分なのやもしれん。


「帰ろう」

「えっ」


 扉を出したが、交代はまだだ。

「オーカが着いてくるんなら、オーカのペースで行かざるを得ない。森で何日かかるかわからないから、野営の道具や食料が必要だ。準備してないから、一度戻るよ」

「あ……」

 オーカはようやく、己の我儘がアルハの足を引っ張っていることを自覚したようだ。

 だがアルハの方は、オーカの同行を容認した上での今後の行動を示しただけで、責めているわけではない。


「私だけ帰るわ」

「え、いいの?」

「魔物の討伐の邪魔をするつもりはないの。無理を言ってて悪かったわ」

「そっか。じゃあ送るよ」

「それもいいわ。さっきの冒険者たちと合流する」




◆◆◆




「頑固に着いてきたり、急にしおらしくなったり……よくわかんない」


 オーカは最初に到着した場所の方へ去っていった。冒険者たちの近くに魔物の気配はなく、休憩でもしているようだから、すぐに合流できるだろう。

“女心というものは解し難いが、冒険者としてなら分からんでもない”

「解説お願い」

“強い者がいれば、近づきたい。相手の足手まといになると判断すれば離れる。それだけだ”

「前者がよくわからないな」

“アルハより強い者などいないからな。アルハには分からぬかも知れん”

「買いかぶり過ぎだってば。……ま、これで気兼ねなく森に入れるからいいか」

 実は一人分だけなら、食料も野営の準備も無限倉庫に入っている。

 オーカの気配が無事冒険者と合流したのを確認してから、森へ入った。



「多い!」

 森には何らかの結界が張られているみたいだ。人間は自由に出入りできるけど、魔物はその境界を越えられない。

 ただ、結界の許容量があるみたいで、魔物の数が増えすぎて外に溢れている状況だ。

 魔物が襲ってくる数は一度に数体、多くて十数体。但し十歩進むごとにエンカウントする。

 倒すのに問題はないけど、気が休まらない。


“これは……増えた原因を探して絶たねばならんな”

「魔物の発生原因って、よくわからないんじゃなかったっけ」

“異常発生しているなら、原因があることが多い”

「じゃあ是非それをなんとかしたいね」

 軽口を叩きながら、新たに現れた魔物を一刀両断していく。

 魔物はなるべく首を落として即死させることにしてるけど、ここの魔物は首どこ? ってタイプや、最初の熊みたいに首を落としてもまだ動くやつが多い。


“アルハ、まだ全力は出さぬのか?”

 ヴェイグが妙なことを聞いてくる。

「いつも全力だよ」

 樹木に擬態した魔物に、前後から挟み撃ちされた。前の樹を蹴りでへし折り、後ろの樹は創った剣で切り倒した。


“目の前に現れた魔物だけをちまちま狩らずとも、森中の魔物をひと息に屠れるだろう?”


 地面から生えてきた土の手に足を掴まれた。足を強引に振り上げて本体の土人形を引きずり出し、胸元の核を拳で砕く。


 ヴェイグに隠し事って出来ないな。

「……怖いんだよ」

 魔物の波の切れ間が訪れ、その場に立ち止まった。

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