12 狼煙
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アルハとヴェイグがこの町に来た日、酒場でヴェイグに追い払われた冒険者パーティの男3人は、警備兵に連行された後、ギルドからカード剥奪処分を受けた。
アルハは1日で100匹以上のゴブリンを討伐し、すぐに
3人はあれからギルド外でフリーターのような仕事をして食いつないでいた。仕事のない時は、町の中心から離れた酒場に入り浸り、安酒を呷っていた。
「クソッ! あの野郎がいなけりゃ……」
「あれからギルドの警戒も強くなって、近づけねぇし」
「まだ長ぇことこんな惨めな生活しなきゃならんのかよ……やってられっか!」
3人はアルハへの恨みつらみをグチグチとこぼしている。
そこへ、別のテーブルから男が3人、各々ジョッキを片手に近づいてきた。こちらはメルノ達に絡んだ連中だ。
「なあ、お前らが話してるヤツは、黒髪で大剣背負った野郎か?」
近づいてきた1人が尋ねる。最初の3人は顔を見合わせた。
「そうだ」
そこからは、6人で盛り上がった。
「細っちい野郎がよう、大剣抜くのかと思ったら蹴ってくるからよう。詐欺だ」
「みろよこの火傷、あいつどっかに火種もってやがった」
「ただの脅しで済ませてやろうとしたのに……あん畜生が」
それぞれアルハへの一方的かつ理不尽な恨みを募らせ、それを肴に酒を追加する。
全員がそこそこに酔ったところへ、誰かが提案した。
「あいつに魔物をけしかけたらどうだ」
誰かが応えた。
「どうやって?」
男たちのテーブルにはいつの間にか7人めが居たのだが、誰も不思議に思わなかった。
「町の北東へ赴き、陽が真上にきたころに、狼煙を3本あげれば、オーガの群れが攻めてくる」
6人は酔っていたはずだが、7人めの言葉をしっかりと理解し、記憶することができた。
「貴方がたもついでに、オーガの1匹2匹でも討伐すれば、ギルドに復帰できるのでは?」
その言葉に、6人は歓声を上げた。
「そりゃあ一石二鳥だ! よし、明日さっそくやろうぜ!」
そう言い合って乾杯を繰り返した。
7人目はいつの間にか消えていたが、誰も気にしなかった。
▼▼▼
「そういえば、大剣は使わないのですね」
クエスト対象の魔物をいつものように短剣で倒した後、メルノにそう言われた。外にいる間はずっと大剣背負ってるもんね。
最初にヴェイグに「触るな」と言われた理由を聞いたら
“俺以外が柄を握ると手が腐り落ちる呪いがかかっている”
とのこと。恐ろしいので、着け外しする時のベルトと鞘以外、全く触れていない。
ヴェイグも本職は魔法使いなので、剣を使おうとしない。だから未だに刃の部分を見たことがない。
少し考えてから、こんな理由を作ってみた。
「これはちょっと訳ありの預かり物で、持ち主に返すまではなるべく持ち歩くことにしてるんだ」
ヴェイグが特に何も言わないので、これで問題なかったようだ。
「そうだったのですか」
メルノも納得してくれたようだ。
この日はクエストを昼過ぎに切り上げた。
買い出しのために大通りへ向かおうとした時、魔物の気配がした。
人に対してはできるだけ使わないと決めている[気配察知]は、魔物だけを察知できるようにして常時展開している。
魔物は大群で、家のある方角に向かっている。単体でも、メルノでは手に余るくらいの強さだ。
ヴェイグに伝えるが、魔物の特定はできなかった。
メルノとマリノに、魔物の襲撃を伝えて、ギルドへ伝言を頼んだ。
「アルハさんはどうするんですか?」
「家を守る。魔物もできるだけ倒してくるよ」
「お一人では……! いえ、でも私達では、足手まといですね。すぐに応援を頼んできます!」
メルノが心配そうに見上げていたが、マリノの手を引いてギルドへ向かってくれた。
二人を見送って、家の方へ向かう。
「急がないと」
“交代だ。転移魔法を使う”
“なにそれ”
「印をつけた場所なら一瞬で行き来できる。魔力の消耗がでかいから、緊急手段だ」
言う間に足元に魔法陣が広がって……次の瞬間、家の前にいた。
“すごい……”
「ここまでくれば俺にも分かる。数が多いな。先に俺が数を減らそう。だが敵の前まではアルハが行ったほうが早いな」
「わかった」
また入れ替わって、魔物の方へ全速力で向かった。そこで見たのは、森の木々の隙間をすべて埋め尽くすほどの魔物の大群だった。
“オーガか。群れる魔物ではあるが、この数は異常だ”
「家どころか町もやばいってこと?」
“そうだな。替わってくれ”
◆◆◆
森を燃やしたくはないので、今回は地を使うことにする。オーガとは相性の悪い属性だが、なんとかなるだろう。
地に直接手を当てる。送り込んだ魔力は地を這い、オーガの真下の土を隆起させた。灰色の塊が次々と串刺しになっていく。
発動までに時間がかかるので、運良く避けたのや、小さすぎて的にならなかったのが進軍を続ける。
……いや、ここまで統率のとれたオーガは、やはりおかしい。
「おい、なんだよあの数!?」
「あ、て、てめぇ! なんでもういるんだよ!?」
後ろから聞き覚えのあるような無いような声がした。男ばかりの6人パーティのようだ。ギルドから来たのだろうか。それにしては、来るのが早い。
“あれって、酒場でヴェイグが追い払ったのと、メルノたちに絡んでた奴らかな”
ああ、それか。まあ誰でもいい。魔法で削りきれなかった分は、あいつらの手伝いを期待しよう。
「無駄口叩いてる暇があったら、1体でも多く削れ。じきにギルドから応援が来るはずだ」
言うだけ言って背を向けた。
突然、体の制御を失った。いや、アルハが強制交代したのだ。
目線が下がる。しゃがみ込んだらしい。次の瞬間、目の前の木に矢が刺さった。後ろを振り向く。
6人全員の殺気は俺達に向いていた。
“何の真似だ”
アルハと交代していたことを忘れて毒づいてしまった。
“すまん、今のはあいつらに対する台詞だ。交代、助かった”
「わかってる……っと」
連中はアルハに殺到した。
短剣で矢を弾き、剣や槍は躱す。
「今こんなことしてる場合じゃ……あっ!」
アルハは距離をとってから、魔力で短剣を5本出現させ、投げた。
「があっ!」
「ぐっ!?」
5人それぞれ腕や足など、致命傷にならない場所に小さな傷が付く。しかしそれだけで、連中は次々に倒れていった。
そして1人残ったのは……。
「おらあ!」
「ぐあっ!」
弓士だ。アルハが左拳で強打を食らわせた。
「ふんっ!」
「がふっ!」
交代して速やかに右拳を撃ち込んだ。
「な、なんで……」
弓士だけ、両頬を真っ赤に腫らして倒れていった。
“漸く意趣返しができたな。他の5人には何をしたんだ?”
「眠らせた……ぶっつけ本番、だったけど」
アルハの息が上がっている。珍しい。
“睡眠を付与したのか”
「そんな、感じ。……はぁ、疲れるね、これ」
打撃で疲れたわけではないようだ。魔法と同じように、スキルにも得手不得手があるのだろう。
アルハは『属性:なし』だったはずだ。特に弱点は無い代わりに、得意な属性というものも無いのがこれだ。
“慣れぬことをしたせいだろう”
「練習、しとく。ごめん、替わって」
「少し休んでいろ」
オーガの大群は数を増しているように見えた。
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