家族の距離感-ライン-

toto-トゥトゥ-

義妹、故に、家族

 妹に犯された。

 血の繋がりは無い妹、世間的に言うところの……義理の妹。

 父親の再婚で家族になった妹は、ヤンキー、不良と呼ばれる類の人間だった。

 髪の毛はいかつい金髪で、褐色の肌と相まって余計に怖さが倍増している。

 両耳にピアスも付けていて、腕にはシュシュやヘアゴムを巻いている。

 目つきは鋭くて、初めて会った時にはぶん殴られるんじゃないかとさえ思った。

 義理の母になった人に聞かされた話だと、なんでもかなりの人数を引き連れているここら一帯のリーダー格らしかった。

 平々凡々な大学生である俺、鳴鬼恭(なるききょう)に全くもって縁の無かったであろう義妹ができたのは、父親が唐突に再婚すると言い出したからだった。

 俺の父親は女癖が悪く、世間的に見れば最低な人種だった。

 口から出まかせを言っては女生と関係を持って、飽きればまた別の女性へ……そんな父親を嫌いになるには、時間は掛からなかった。


 「初めまして、恭君。今日から貴方の母になります。巳柑(みかん)です。」


 ある日父親に無理矢理連れて行かれた住宅街にあるマンションの一室。

 俺にそう名乗った女性は、茶色い髪に赤いメッシュを入れている見るからに派手な感じの人だった。

 この人も、父に上手い事言いくるめられてしまったのか……申し訳ない気持ちで胸が張り裂けそうだった……。

 数日過ぎた時、住んでいるアパートを俺に何も言わずに解約した父と、巳柑さんの家に住む事になった。


 「恭君の家なんだから、気楽にして良いんだよ?」


 巳柑さんは俺に頻繁に話を振って来る。

 いつまでも他人行儀が嫌だからか、俺に本当の母の様に接してくる。

 そうされる度に思う。

 この人はこんなにもいい人なのに、父は今頃また別の女性に手を出しているんじゃないか……と。

 俺の予感は的中した。

 父は巳柑さんに隠れて他の女性に手を出そうとしていた。

 ここまでは俺の予想通りだった……けれど、それを知った巳柑さんの行動が凄まじかった。


 「ふざけんじゃねぇっ!! その顔面に大穴開けてやるっ!!」


 ヤンキーの様な口調で父をこれでもかとボコボコに殴り、蹴りを繰り返す巳柑さん。

 血を流す父は必死に謝っていたが、返って来るのは容赦ない拳の雨だった……。

 結果、二人の関係は1ヶ月と持たず、多額の慰謝料を置いて父は家を追い出された。

 実の親がこんな目に合っていても、俺はスカッとした気分だった。

 いつか天罰が下るだろうと思っていたが、まさかこんな形で訪れるとは……。

 父が追い出されて入れ替わる様に、一人の女の子が家に来た。


 「前に話したっけ? 萌々(もも)……私の娘よ。」


 数週間の間友達の家に寝泊まりをしていたという巳柑さんの娘さん。

 それが俺と、義妹の萌々ちゃんとの出会いだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「ちゅっ……んちゅ……」


 やけに口周りが生暖かい。

 何かが唇の上を這っている感触。

 それに、何か……圧し掛かって……。


 「んっ……んんぅっ!!?」


 息苦しさに目を覚ました。

 真っ先に飛び込んできたのは、金に染めているのに痛んでいる様には見えない綺麗な長い髪だった。

 目線をほんの少し下げれば、整った顔立ちの女の子が一心不乱に俺の唇を舐め回しているのが分かった……。


 「んんっ?! ……はぁっ、も、萌々ちゃん!! こんな事しないでって話したでしょ!?」

 「あっ、おはよう恭❤」


 腕を押し出して離れさせた。

 俺の上に跨っている義妹……萌々ちゃんが、にへらと笑った。


 「……止めてよ、こんな事するのは……」

 「何で? 朝の挨拶じゃん?」

 「こんなの挨拶って言わない……第一、兄妹でこんな事……良くないよ」


 口元を袖で拭いながら言うと、俺の腕を掴んだ萌々ちゃんが顔を近づけてくる。


 「でも、血は繋がってないよ」


 また、唇を突き出してきた……。


 「だから、止めてって!?」

 「いいじゃん別に……これ以上の事もしたんだしさ」

 「……っ!」

 

 思い出したくない事を掘り返してくる。

 違う、アレは望んでした事じゃない……したくなんてなかった……。


 「……その話は止めてくれ」

 「あれ? 怒ったの恭? ごめんってば、ちゅうしてあげるから機嫌直して」


 懲りずに顔を近づけてくる萌々ちゃんを避けて、ベッドから降りる。

 後ろで萌々ちゃんがぶつぶつと文句を垂れているのも無視して、着替える。


 「着替えるから部屋から出てってくれ」

 「手伝おっか?」

 「萌々ちゃん」

 「分かったよ。じゃあ待ってるね……恭」


 通り過ぎる際に、俺の腰を撫でる様に触れながら部屋を出て行った。

 パタンと音を立てて閉じたドア。

 一人、部屋に残った俺は、着替えも途中でベッドに座り込む。


 「血が繋がってなくても、俺達は……家族なんだよ」


 伝えたい想いは、伝えたい相手がいない部屋の中に消えていった……。

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