終わった世界のタワーラビリンス

@komui25

第1話少しは頭を働かせるべきだ

世界が壊れていく。


 黒く染められた多種多様な生物。


 ドラゴンだったものが、大蜘蛛だったものが、大猪だったものが、人だったものが、黒く黒く染められ、世界を壊していく。


 意思のない怪物。


 ただ世界を壊すもの。


 崩壊因子による生物支配。


 これが第三者によるものかそれとも世界そのものが滅ぼうそうとしているのか未だに判明していない。


 だが、これだけは言える。


 私の民が、私の友が、私の命が、私の中で叫んでいる!




 「いつか! いつか原因を究明して、必ず滅びを止めて見せる! 必ず! 必ずだ!!!!」




 滅びの波が目前まで迫る。


 最後まで抵抗していた者はもう私しかいない。


 守るものはもうない。


 守る国ももうない。


 だが、この波は止まらない。


 いつかほかの世界まで波及し、全てを滅ぼすであろう。


 だから、私は止まらない。


 私は腕を切り飛ばし、私の中にいる数多の魂の情報が混じった血でもって転移の魔方陣を書き上げる。




 「私は負けん! いつか……必ず!!!」




 地面に手描かれた幾何学模様が発光し、陣が宙に浮かぶ。


 陣はまるで門のように真っ二つに割れ、次の場所を指し示した。




 「必ず!!!」




 私はそれに、何も考えずに身を投げた。
















                                      ★












 子供というのは馬鹿な生き物だ。


 道理を知らない、感情を慮れない、先を見据えれない、自分のその一歩がどこに向いているのか想像できない。


 だからこそ強く、その生き方を忘れてしまった大人はきっと嫉妬してまうのだろう。


 それは俺もだ。


 新しいことに踏み出す一歩、未知へ進む勇気、先を見通し過ぎて恐怖する心。


 それがどうしたって纏わりついてきて足を引き留める。


 全てが未知にでもなれば否が応でも足を踏み出さすようにでもなるのだろうが、そんなこと早々どころかこの現代日本でそんなことは起こりえない。


 だから一生、もやもやした気持ちで生きていくのだろうなと、そう思ってたんだけどな……。


 五月二日土曜日の朝、H県T市に住んでいた俺、後藤龍司二十二歳は煙草を吸うためにマンションに併設されている喫煙所で煙草を吸っているときにふと、空を見上げた。




 「……んだありゃってあっちぃ!!!」




 呆けていたせいで思わず吸っている煙草から灰が零れ落ち軽度の火傷を負ってしまったがそんなことはどうでもよくなる出来事が目の前で起きていた。


 空が割れていた。


 そうとしか言えないのだ。


 空が裂けている青い空一面が十字の形に黒色に浸食されそれが徐々に広がっている。


 俺は寝ぼけているのか? と一瞬思うも、手の火傷の痛みが現実だと知らせてくる。




 「つもり現実…………ってなんじゃそりゃぁ!! 非科学的すぎるだろ!! いや科学的にもし可能でも今の人類にそんな科学力はねえ!!」




 なに!? ついに宇宙人の侵略!? それともストレスで俺が可笑しくなってるの!?


 やっぱ課長の落ち武者ハゲが休日に朝から晩まで飲みに付き合わせてきたのがトリガーなの!? やっぱあのハゲ最後の毛までむしり取っとけばよかったよちくしょう!!


 いや、それよりも……




 「なんかクソでかいのが落ちてきた!?」




 でかい、某宇宙世紀のコロニーが落ちてきたらこんな感じなのだろうかと思わせる一本のそう、一本の塔のようなものがその裂け目から落ちてきた。




 「あんな質量のもんが落ちてきたらどこに隠れようと助かんねぇよ!? …………ああ、神様仏様この世界のどこかにいるかも分からない主人公的な人、俺まだ素人童貞なんです……どうかお助けくだされぇ!!」




 まるで神なぞ信じていないが人間最後に頼る所って結局神様だよねとでも言うように俺は全力で神に祈り、内心もう結構諦めているので煙草を吸う作業に戻る。


 ふうと息を吐き紫煙が空に昇る。


 …………俺の最後って焦りながら煙草吸ってる感じなんだな……と無駄な想像をしていると、その塔は周辺の建物を踏みつぶしながらもまるで振動一つなく羽毛のような柔らかさで地面に着陸した。


 まるで意味の分からない光景に俺は煙草を一吸いし、灰皿で火を消して煙草を処理し、一つ伸びをしてから深呼吸し




 「なんだそりゃあああああああああああああああああああああ!!!」




 とりあえず叫んだ。 














                               ★










 土曜の朝だってのに不可思議かつ頭が可笑しくなるような光景を見た俺は、とりあえず俺にしか見えてない現象なのではないかと心配になったので、マンションの隣室に住んでいる職業ホストの長谷川幸助という一つ年下のそれなりに仲のいい隣人のもとへ走り、インターホンを連打した。




 「幸助くぅんんん!! ちょっと起きて!! 朝帰りでしんどいのは知ってるけどちょっと起きてぇええええええ!!!!」




 チャイムと扉をバンバンと叩きながら必死に中で寝ているであろう幸助を起こせば、物凄い力で扉が開かれ顔面を強打した。


 いった! 絶対鼻の骨いった!!




 「うるせぇえええええええええええ!!!!! 何なの!? ええなんなの!? 俺が朝帰りって知っててこの所業だよね!? 今二日酔いと寝不足で機嫌悪いの分かってやってます!? 殺すぞ!?」




 凄まじく機嫌の悪い声とともに、切れ長の瞳をした若干天然パーマ気味の銀色の髪をしたイケメンが怒声とともに現れた。




 「うごぉおおおお……鼻……鼻が……折れてる? 折れてない?」




 「折れてないですよ死ね!! で、なんですか龍司さん? くそどうでもいい用件ならマジぶち転がしますよ?」




 そう言われ、俺は鼻を右手でさすりながら左手で塔の方を指をさす。




 「あれって俺にだけ見えてるやばいもんじゃないよね? 俺の頭が可笑しくなってるわけじゃないよね?」




 幸助は指をたどるように不機嫌そうに視線をそちらに向けた。




 「はぁ? いきなり何言って……………………すんません俺の目がおかしくなったみたいっす……やっぱ酒のせいかな……幻覚見えてるかも……ホストやめよっかな……」




 「現実! 現実だから! まぎれもない現実だから! やっぱ俺の頭がおかしくなったわけじゃないのね……」




 とりあえず頭の病気じゃないのにホッとはしたが、さて、現実問題別に何も解決はしていない。


 突如出現した塔と、空の裂け目は消えている訳ではないのだから。


 まだ、最近よくみる神様に転生させて貰う系のアニメとかの世界でなら理解できるがここは現実である。


 なにがあったらこうなるのか俺の頭では解答を導き出せない。


 というかこんなの自衛隊案件ではないでしょうか? だって塔周辺というか塔の真下にあった建物とか完全に踏みつぶしてるし。


 いや、そもそもあんな巨大質量のものを振動もなしに地上に降ろせる奴ら(?)に人類が戦えるのかも疑問ではあるが。




 「いやいやいやいや!! あんなものがそんな一瞬でおったつわけないでしょうが! というか朝帰りしていた時点ではあんなもんなかったっすよ!? というか空! あの空なに黒ッ!? 宇宙怪獣でも来るの!?」




 向こう側が見渡せないような真っ黒な空を指さし必死……というよりかは現実が認識できてないんじゃないかというような焦りを交えて叫ぶ幸助に俺は今朝の喫煙所でいきなり空が割れた出来事を話した。




 「―――そして、空からあの塔が降ってきて振動もなく着陸した」




 「んなわけあるか!? あのバカ質量が地上に落ちてくるとか俺ら生きちゃいねえよ!」




 「そんなバカなことがあったから俺は俺の頭を疑ってんだよ!? え、マジ現実? 夢とか幻覚じゃないよね? 俺アル中でもないし葉っぱもやってないよ!?」 




 「アル中疑惑は俺の方にこそあるのでそこは安心してください」




 俺と幸助はお互い揃って天、というか天井を見上げた。


 もし宇宙人の仕業だとしてあんな建物崩壊させている時点で友好的とは思えない。


 異世界人だとしても侵略目的か何かから逃げてきたとしか思えない。 


 つまり死ぬほど厄介ごとの臭いしかしない。


 そして侵略者だとして、あの裂け目を自由に作れるなら逃げ場なぞあってないようなものであろう、つまり厄介ごとでしかないということだ。


 …………うん。




 「まあ考えても仕方ないか、どう考えても厄介ごとだし逃げて意味あるのか、とも思うし、そもそもあのワープゲートのようなものが自由に作れるなら俺らに逃げ場なんぞない、つまり大人しく政府見解待てということだな」




 「いや、まあ、そうなんですけど龍司さん達観しているというか……いやただ単に考えることに疲れて先延ばししただけですよね」




 「そうともいう」




 だって俺らにできることってなんもないし。


 できることは部屋に帰ってイカ臭い丸紙量産するか母なる布団に帰ることしかできないし。




 「あ、でも間違いなく混乱が起きますし食糧買いだめしたほうがいいかもっすね」




 「あ、確かに。コンビニ行くか……」




 「俺今金欠なんで龍司さんおごってくださいよ」




 「いや、まあ、どうせたかりに来るだろうし別にいいけどさ……」




 「あざーす」




 幸助はホストで稼いだ金をすぐに趣味につぎ込む困った性格をしており俺の家によくよく飯をたかりに来る困ったちゃんである。


 仕事の関係上面と会う日が少ないので合鍵は渡してあるのだが、冷蔵庫に飯を入れておくとほぼ毎日消えているのでどんだけ金ないんだと思う日々である。


 そうして、俺たちは近場のコンビニへと向かうことにした。


 そしてすぐさまそれを後悔することになった。


 なんというか、平和ボケもここまでくるとただのバカなんだなと痛感させられた。












                             ★




 「ありあざっしたー」 




 店員の気の抜けた挨拶を聞きながら俺たちは店を出れば、街中は想定外というかなんというか、塔からそれなりに遠いのもあるが、皆スマフォを取り出して写真に夢中になっているようだった。


 すげえな日本人、平和ボケとかそういうの通り越してなんというかある意味これはこれでメンタル強いな。


 国道の方に出れば間違いなく車は渋滞しているのだが、存外すぐに逃げ出さない者も多く、その姿に困惑しながらホットスナックをむさぼる。 


 まあお前が言うなって感じだが。




 「いや、結構逃げないもんですねコンビニも普通に開いてるし」




 「どんだけ働くんだよ日本人って感じだな、戦火になってても働いてそうだわ」




 「いやーそうだったら笑えないっすわー」




 「……そらそうだ」




 もしそうなら俺は辞表叩きつけて逃げ出すけどな。あと課長の生き残りをむしり取る。


 俺たちはそんな無駄話をしながら少しした坂の上にあるマンションの方へと歩く。


 若干傾斜がきついのでまあまあ疲れるのだが、家から近いのでまだマシといった立地だ。


 そうしてちょっとした裏路地を通り、階段を上って神社を通り抜ければ自宅につく。


 ああ、自宅につくはずだったのにな……。




 「…………なあ幸助、あれってなんだろうか」




 「…………たぶん、厄介ごとですね」




 俺たちはちょうど神社を通り抜けようとしたところ、地面にそらもう空恐ろしくなるほどの薄い青色の髪をした美少女が仰向けに倒れていた。


 …………服装は、なにかアニメにでも出てきそうな軍服。


 黒と赤を基調とし、まるでアニメの魔法使いのローブのように長い上衣にそれとは正反対の機能面を覗かせるズボン、頭には軍帽を被っており、容姿と相まってまるで漫画やアニメの存在がそのまま出てきたといわれても信じてしまいそうだ。




 「普段ならコスプレイヤーだって言うところなんだがなぁ……」




 「…………この状況でコスプレイヤーと思うには到底無理のある噛み合い方してますね」




 俺と幸助お互いに顔を見合わせ、厄介ごとが向こうからやってきたことに困惑する。


 さて、どうしよう……。




 「なんか倒れてるし見捨てるのも後味悪いんだけどさ……」




 「どう考えても厄介なことになるのが目に見えてますよね、正直助けたくねえっす」




 「いや、それは俺もなんだけどさ、俺らが見捨てた結果死にましたってなってたら後味悪くない?」




 「それっすよねー……一応、そこらの木の棒でつんつんしてみます? 一応生きてるかどうかの安否確認で、あと触りたくないし」




 「一昔前の漫画だとうんこ触る描写だぞ、それ」




 「いや厄介事なんてうんこみたいなもんでしょ」




 酷い。


 いやまあ、言いたいことは分かるがこんな目の覚めるような美少女相手にうんこ扱いとか俺にはできんな。


 とりあえずそこら辺の木の棒で美少女の頬をつんつんしてみた。


 気分はアラ●ちゃんである。


 いや、ナチュラルに俺もうんこ扱いしてる。




 「だひゃひゃひゃひゃ! 見てくださいよ龍司さん! 豚鼻~!」




 「くっくくく、お前酷いぞ!! ほら鼻からポッキー」




 「だひゃはひゃひゃひゃ!! そっちのほうが酷いっすよ龍司さん!! ひゃひゃひゃははひひひひくふはははは! あがががががかひゅー……かひゅー……」




 「過呼吸になるほどかよ……」




 しばらく俺と幸助はツンツンし、5秒で飽きたのでふざけ始めた。


 こんな風に変に倫理観がぶっ壊れてるから俺ら碌な職についてないんだよなと恐らくあの塔関連の異世界人的な何かを両頬を左右から木の棒でつんつんしながら変顔にしたりして爆笑していると、女が呻きだした。


 あ、生きてると思うと同時に女が瞼を開け、岩砕機のような凄まじい音が、女の腹から聞こえてきた。




 「うぅ……お、お腹がすきました……」




 やっぱ貧乏コスプレイヤーかもしれない。 


 でるとこ出たら捕まるかもしれない……。逃げたほうがいいかもしれない。よし逃げよう!


 俺と幸助は顔を見合わせうなずくと。




 「それじゃあ良い人に拾われてくださいっす」




 「遊びもいいけど飯代くらい残しとけよなそれじゃ!」




 そう言って立ち去ろうとすると俺と幸助の足が女の手に掴まれた。


 何しやがると文句を言おうとし……




 「あだだだだだぁああああああああああああああ!! す、すごい力してやがる!! うぎぃいいいいいいいいいい!!」




 「龍司さん!! こ、こいつメスゴリラの類っす! 人間じゃないです!! あ、足が握りつぶされる!!! おぎゃあああああああ!!!」




 「……離さん! 離さんぞ! 良い匂いがする……これは美味しいご飯のにほひ……よこせぇええええええええ!!」




 「「あぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!」」




 万力を思わせる強力な握力で足を掴まれた俺たちは前のめりに倒れてのたうち回るが女はもはや腕にしか力が入らないのか俺たちの足を絶対に離さないといわんばかりに力をさらに込めてくる。




 「こ、幸助ぇ!! あれだRチキだ! Rチキをこの女に食わせろ!!」




 「嫌っすよぉ!! あれは俺のだい! Rチキだけは絶対に俺が食うんだい! 龍司さんがスパシーチキンをあげればいいでしょ!!」




 「どんなキャラだよ!? ああああああああ足が折れるマジで折れるぅうううう!! でもスパチキは俺のだぁあああ!!」




 「あんたも意固地になってんじゃねかぁああああ↑ああああああああああああああああああ!!!」




 もう無理! マジで折れる! こいつはゴリラの生まれ変わりだ! 人の形をした美少女メスゴリラだ! 


 俺は仕方なしに食後にと思っていたプリンちゃんを女の口に容器ごと叩きこむ! 


 もはやプリンの蓋を開けることすら痛みで覚束なかったのでどうにでもなれといった感じだった。


 するとゴリバキガリンと凄まじく頭の悪い音がそこらに響く。




 「固いですが甘くてまろやかで美味しいです。美味。もっとよこしなさい」




 「「ぎゃぁああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」」




 結局俺たちは散々のたうち回ってから、手持ちの食べ物を全て献上することとなった。 












                                ★






 女の手から解放され、跡がくっきりと浮き上がっている足を俺と幸助はさすりながら女見れば、女は美味しそうにスパチキとRチキンを嚥下しており、もうはっきり関わり合いにならずに帰りたかった。


 だが女はすべて食い切ったあと、満足したのか俺たちを見、そして全力で地に手をつき、頭を下げてきた。


 いわゆる土下座、それもとても美しく心のこもったものだ。




 「誠に感謝。 お腹いっぱいになり生き返った気分だ。あと少しでもカロリーの摂取が遅れれば命にかかわっていたでしょう。本当に感謝です」




 そう言って顔をあげる女の顔はまるで表情筋が動いてはいなかったが声の質を聞く限り感謝しているのだろう。


 ただ、まるでうごかない表情はあまりに美しい容姿と相まって人形のようであり、声とのギャップで珍妙であった。




 「俺たちはその結果足ぶち折られそうになったっすけどね……」




 幸助は足をさすりながらそうぶちぶちと文句をたれれば、女は無表情にジト目を返してくる。




 「……私の顔で遊んでおいてそう言うか」




 ザッと俺たちは顔を背けた。


 ……まさか認識していたとは。




 (おい幸助! あいつ全部わかってんぞ! どうする!? 逃げる!? でもあんな握力してる女が足も遅い道理とかないよね!?)




 (ですよね! 絶対に足早いっすよこいつ! どうします!? 下座ります!? 土下座っちゃいます!? 最上級の美しい土下座しちゃいます!?)




 (二番煎じはよせ! あんな美しい土下座を見せられた後に俺たちの心のこもっていない土下座なぞみせられん! ならばここは物でつるしかあるまいて!)




 この間10秒、遅いようで早いアイコンタクトの末、俺たち二人が導き出した答えは食欲!




 「……ひ、昼ご飯も食べてく……? ほら、なんか文無しっぽいし……」




 「そ、そうっすよ! ほら、ごはんでも食べてパーとすべてを忘れようぜ! ほらほら!」




 女は俺たちの言葉に位一度、二度と、何かを考えるように頷くと。


 目元をキリリと鋭くした。


 やばい怒ってる、やっぱ飯はダメか、女の子だもん金とかアクセサリーとかのがよかった!?(偏見)


 でも最近の女の子ってアクセサリーそんなつけないよね!? 異世界だと違うもんなの!?


 あー……と頭を抱えようとすれば、女は発する。




 「うむ、そういうことならお世話になる。私の名前はクリス・アルバト・ストゥーン。ストゥーン王家第二皇女であり第一歩兵師団長である。で、あーる、いぇい」




 うーん……厄ネタ!!!! あと金持ちっぽい!! というかクリスさんとかいう人皇女!! あとなんか変に足したような可愛い系のキャラ付け!!


 これが頭のおかしなコスプレ女でも、あの塔関連の女でも厄ネタすぎる……。


 まず関わって会話して顔を覚えれた時点で、この頭のおかしなコスプレ女がことあるごとに話しかけてきそうな雰囲気がある。


 そしてやってたことで揺すられる予感がする!


 ご近所づきあい的な意味で厄ネタ。


 そしてあの塔関連だったとしら軍人であり皇女様という、絶対権力者であり軍事力もちであり凄まじいパワー持ちの武力もち、もし万が一にも国があれとお付き合いするとすれば国際問題的な意味で厄ネタ! うーん死の臭い!!! 


 ………ま、まあええやろ(突然の関西弁)ご飯でご機嫌とってあとは趣味とか好みとか聞いてよいしょすりゃなんとかなるやろ(遠い目)




 「では行こう」




 「えっと……一応聞きますけどクリスさん……どちらに向かう予定で?」




 「? 君らの住居だけど? 私、ここら辺よくわからん。うむ、本当にわかんない」




 「………………………………………マジで?」




 何をしにここに来たとか何があって倒れてたとかなぜ死にそうなほど腹減ってたとか色々、色々言いたいことがあるのだけど一つ。




 (住んでるところ特定されるじゃねーか!!!)




 眩暈でどうにかなりそう。


 うかつに物事を進めすぎたと焦るものの幸助も似たような表情をしており、なによりマンションの部屋が隣同士だ。


 どっちに押し付けようにも自動的にどっちの住んでいる場所もバレるという残念仕様。


 不良品として突っ返したくなるほどの案件に頭が痛くなるが今さら吐いた唾を飲むにはこのゴリラに物申すことが必要なわけで……いまだ人柄のよく分かっていない自称皇女相手にやっぱり駄目ですは危険がすぎる。


 ……ああ、安直な判断をした自分を殴りたい。


 いや飯おごるで家に来るとは思わないじゃん?   


 そんなの有名なラーメン屋行ってチャーハンと餃子しか食べないようなもんだよ? ラーメンに対する冒涜だよ? ラーメン屋行ったならラーメン食えよ。


 なんでラーメン屋に行ってチョイスチャーハンだよラーメン食えよラーメン……あれ、なんの話だっけ?




 「まだか? 私はもう準備万端だぞ、こう見えて私は我慢できる人間だけど待たされるとちょっとイラっとする」




 クリスは眉間に眉を寄せ、可愛らしい顔を不機嫌の色に染め、ぎゅっと拳を握っている。 




 「全然我慢弱そう!? ……あーはいはいもう……どうにでもなれ……」




 「勿論龍司さんの部屋っすよね? 俺んちはちょっと女の子の下着とか散乱してるしやばいっす」




 「死ねヤリチン。飯食わせてんだからちょっとは俺にもおこぼれよこせや」




 「……ヤリチンの部分で怒ってるわけではないんすね」




 俺だってそっちの立場なら絶対同じことしてるからね。


 怒るわけないじゃん。




 「まだ?」




 イラついてるのかなんか右手を握りしめすぎてゴリゴリいってる!




 「はいはいただいま!!! 行きましょうすぐさま行きましょう! おら、幸助急げ!」




 「あいあいさー!!! あぁ……なんてこった……」




 俺もなんてこったって気分だよこんちくしょー。














                                                  ★






  




 今さらなのだが、疑問を少々。


 なんで人の家にずかずか入りこめる精神があるの? とか女の子なのに男の家に入るのに嫌悪感とかないの? とか色々言いたいがそもそもなんで日本語通人てんの? ということである。


 いや、これがただのコスプレ女だったならそら別に喋れるのだろうが状況から考えてまずあの塔関連の仮称異世界人であろう。


 そこの所疑問に思い、自宅への道すがら聞いてみれば、クリスはなんでもないように言った。


 「そんなの翻訳系の加護を使用してるからだけど?」だとさ、加護って……いや、分かるよ? 神様とか妖精とかなんか超常系の存在でしょ?知ってる知ってる。


 でもさ、そんなこと言われてもそんなことと関わってきた人生じゃなかったしゲームやアニメの設定にしか聞こえないよね。


 坊さんとか神主さんとかなら受け入れれるのだろうか……いや、異世界の存在がkの地球上でもそういうのが使えるのであらば、もしかしたら隠されているだけでこの地球上で色々そういう能力が蔓延っているのかもしれない。


 まあ関わらないのが一番なのだろうが関わってしまった手前、なにもしないでも向こう側から厄介ごとの種がこっちに来そうで本当に嫌になりますねまる。


 さて、そんな回想は置いておいてだ。


 我が家に女の子がいる状況、大変困っております。


 幸助のやつは「もし家に無理やり入られたら嫌なので一旦掃除に戻ります!」と自分の住居に戻り掃除をしている。


 普段掃除なんてしないやつだからか隣からどったんばったんと大騒ぎしており何か割れるような音も聞こえるのでまあ長引くんだろうな……とは思っているが。 


 いやしかし、女性経験なんて風俗だったりキャバやガールズバーくらいでしか経験のない俺にとってガチの二人きりは本当に困る。


 何を話せばいいんだ……女の子って何に喜ぶの? そもそもクリスさんに普通の女の子のような感覚を求めて大丈夫なの? 皇女だし軍人だしゴリラだよ? やっぱ食い物? バナナとか?




 「なにか失礼な事を考えている気配を感じるな……」 




 ジロッと睨まれたので俺は顔を背けた。


 というかこの子なによ! 人んちに来たと思ったらいきなりソファで寝ころびながらくつろぎおってからに!


 あんたの家じゃないのよ! もう! なんておば様口調を延々ループさせるくらいにはこの状況に混乱している。




 「な、なにを言ってるんだい? そら勘違いってやつさ、どれくらい勘違いかというと砂糖を買おうとした母ちゃんが間違えてサン●ー買ってくるくらいだよ」




 「いや、何を言っているかはさっぱりなんだが……でも多分それは勘違いじゃなくてボケてきてるだけだよ」 




 「ああ、そうだな。俺も何を言っているのかわけ分かんねえ」




 ……くっそ女の子と二人きりという状況が俺の思考力に凶悪なデハフをかけやがる。


 幸助くん早く! 早く来て!! もう僕限界なの!!


 そんなことを想像だにしていないだろう幸助に念を飛ばしていると、つけっぱなしであったテレビをまじまじと見ているクリスに気づく。あと国家非常事態宣言出てた。ヤベーイ!




 「しかし、この箱は凄い。たぶんこういうのが沢山あって一斉に情報を発信してるのだろう、ふむ、私達にもこういうものがあればもう少しなんとかなったと思うのだけどな……」




 「あ、ああ、テレビ知らないのね、そういう世界ねなるほどね」




 …………中世ヨーロッパ風の世界なんだろうか……今一判断付かないけど異世界人要素は強まったな。


 いやまあ半ば以上異世界人とは確信してるのだけど直視したくないだけだ。


 だがまあ、いい加減踏み込むべきだろう。


 うだうだしてても結局変に関わってしまっているのだから厄ネタの一つや二つは今さらだろう。


 深く考えた所で解決できるわけでもない、男なら当たって修羅道に入れだ。


 俺はそうジャン●から教えられた。




 「いい加減……そう、いい加減聞いておきたいことがあるんだけどさ」




 「む、なんだ。言って見るがいいこの広い心を持った私がなんでも答えよう。食事の礼だ。さあ、何でも聞くがよい!」




 クリスさんは腰に手を当ててふんすと胸を張ると、軍帽が少しずれたのか慌てて直していた。


 表情に変化はないが、声だけでテンションが高いのが分かる。


 何故だ。皇女だから話し相手とかいなかった系かそうなのか。




 「なんか異様にテンション高いね……ま、まあいいや、じゃあさまず一つ君は何者なんだい? いや皇女とかは聞いたけどほら、どこから来たとか」




 「うむ! やはり気になるか! そうだな、やはりそこを打ち明けねばならんな! そうさな、この世界側の人々から見たら異世界人と言うべきだ」




 「ああ、やっぱり」




 九割九分そうだろうなって思っていたがついに確信をついたなって気分だ。


 まあ、妄想癖のあるヤバい子って可能性もあるが流石に色々と状況を考えてそれはないだろう。


 ただのコスプレイヤーにあんな握力とか無いだろうし。




 「そうだな、何から話したものか……あれは四百二十九年前に遡る私が―――」




 「ちょ、ちょいまち! それはあれだよな!? お前が実際に生きていた四百二十九年前じゃなくて歴史的な話だよな!?」




 「――――いや? 私の記憶の話だが?」




 「マジかよ……」




 こいつ一体何歳なんだよ……。 


 最低でも四百三十歳以上ってことだよな……。


 元々長命なのか厄ネタなのか分からないがそんな過去の問題が現在に関わってくるとかどういうことだ。




 「もういいか? 話すぞ? あれは四百二十九年前、私が他国との戦争で魔法による攻撃で自軍がボロボロになってな敗走していた時の話だ」




 「いきなり重いなおい」




 「まあそういう時もあったのだ。そして私が逃げていた時、アレが現れたのだ。空に亀裂が走り十字に割れた」




 ああ? あれはこいつらの仕業じゃねえのかよ?


 まあ一々止めてたら話が進まないから最後にまとめて聞くけどさ……。




 「空は十字に割れ、だがしばらく何も起きなかった。私も逃げるのに必死でな、異常な現象に追走していた連中が混乱している隙にこれ幸いと私たちは逃げたものだ。ああ、あの時は正しく生きた心地がしなかった。城に逃げ帰れた時なぞ見るも無残でな、私たちは全員糞尿を駄々漏らしながら逃げていたせいもあって蛮族にしか見えなかったであろう」




 「壮絶な人生ですね……」




 人生経験では圧倒的に負けてるだろうことは年齢以外でも確信した。


 正直そんな人生歩みたくはないが芯や心は強くなるだろうな。


 まあ……腹ペコで人を襲うような蛮族さもゲットしているようではあるがそこはもう忘れることにしよう……文化かもしれないし。




 「なんかまた失礼なことを……」




 「いやなんでもない! 進めてください! 問題ないです!!」




 「……まあ、いいか」




 セーフ。


 いや、直観優れ過ぎてませんこの人?




 「敗走して逃げ帰った私は、しばらく自室に籠ってな、負けた責任もある。最悪責任を取って死刑……はなくても幽閉だったり軟禁されたりとそういうことがあると思っていたが、事態はそうは転ばなかった」




 「ふむ、なにがあったんで?」




 「敗走に一週間、城に帰って五日、計十二日たった頃だった。あの空から闇が降りて来たんだよ。それが悪魔であったり魔王であればよかったのだが、あれはそういう類ではない。もっとどうしようもない何かでな」




 どうしようもない何かって神様とかなにかか?




 「世界崩壊の因子。闇そのものだよ。どうしようもない世界の終わり。それは一月をかけて世界を壊し、蹂躙した。その結果、私の世界は滅びた。どうしようもなかった。人の力は、あれの前では無力でな」




 「はあ、今一要領がつかめないんだけど」




 「私にもよくわかっていない。記憶もそこら辺は曖昧でな、気づけば私は別の世界に飛ばされていた。話が長くなるので短縮するがそこでなんやかんやあってな、世界崩壊の因子と世界の成り立ちを知ったのだ。そして私は滅びの因子と戦いながら六つの世界を渡り歩きここに来たというわけだ」




 「因みにその六つの世界は?」




 「一つを残して滅びた。最後の世界は強くてな、かなり戦えていたのだが、私は滅びの因子と戦っている途中、異空間に飛ばされてな百年は動けなかったよ。もうできることなぞ独り言を延々話すことしかなくてな、使うことのなくなった表情筋のせいで表情が微動だにせん。そして気づいたらあそこで倒れていたのだ。いやーまいった」




 「軽くね!? 今の話でよくそこまで軽くなれるね!? すごいよ図太いよ! メンタル強すぎるよ!! あとさらっと倒れてた理由が今露に!!」




 どんな最強メンタルなの? いやーまいったで済ませれるようなもんではないと思うんだけど!


 あと雑に倒れてた理由が明かされてすごく複雑!




 「因みに私の父がな、最後に私に何かしたのか私の中にあの世界20万の帝国の民の魂を私に入れてな。中々死ねん体になっている。いやー体の中の魂が喧しくて叶わなくてな、ちょっと静かにしてほしい」




 「やっぱメンタル強くない!? 二十万人の魂がぶつぶつ体の中で喚いてたら俺なら気が狂うよ!?」




 「いや、虫がミンミン鳴いているようなもんだろう。所詮死んだ人間の声が煩わしいだけで大したことない」




 「サイコパス!」




 凄いメンタル仙人とかそんなんじゃねえ! なんか別物の化け物的な何かだ!




 「あ、あとあの塔のことなにか分かるか? 今までの話であの塔の事が一つも出てこなかったけど」




 「うむ、あれは六つ目の世界の塔だろう。あそこには沢山の人々がいるはずだ。恐らく前の世界が滅びそうになったので逃げてきたのだろう。まさか世界を超えれるような力があるとは思わなかったが技術が進歩したのだろうな。まっこと発展目覚ましい」




 「世界は滅びたみたいだけどね……」    




 でも、どうすんだろう……正直あの塔の下敷きになった人々は相当数死んでいるはずだ。


 そんな状態で世界は滅ぶんだ! だから手を取り合おうとかになってもどうにかなるとは思えない。


 そもそも国の中に国がある状態を日本という国が許容できるのか、それすらも問題だ。


 最悪戦争になるだろう。まあ、それも本当に最悪だろうが、なんやかんやで交渉から入りそうな変な安心感があるのがこの国だし。


 というか話が全部本当なら戦ってる余裕なんざ絶対ない。それは間違いないだろう。




 「というか聞いた俺がいうのも何だがなんでそんな事をベラベラと喋るんだ?」




 「遅かれ早かれ聞くことになるだろうさ。そもそもここまで技術を発展させているような世界だ。滅びの因子を観測できていないなぞ考えられん。お前と話している限り魔法やそれに類するものの存在を知らない、そもそも無いと思っていると見えるが、まあ間違いなく秘匿され発展を続けているだろう。そもそも龍脈地脈が存在している世界で魔力を使った技術を失伝させる理由がわからん。いや待てよ……まさか……いや……」




 そうしてクリスはぶつぶつと一人自分の世界へと入っていく。


 うーむなるほどなるほど。




 「つまりはそういうことだぞ幸助」




 「え!? なに!? 今来たばかりで何にも分かんないんだけど!?」




 「まあ俺にも分かんないんだけどさ」




 さっき扉の開閉音が聞こえたから適当に声掛けたらドンピシャ過ぎて幸助は混乱している。


 ギャグマンガでよくあるよね、入ってきたやつに無茶振りする表現。でも現実でやると嫌われるから注意な。


 一応理解できている範囲、つまり先ほど聞いた話を幸助に話てやると、うーむと腕を組んで眉間にしわを寄せた。




 「よし! 意味が分からないので考えるだけ無駄だってことは分かったっす!」




 「その通りだ! 流石は俺のダチ公! 頭の出来はチンパンそのものだぜ! はっはっは!」




 「はっはっはいやいや龍司さんだってそうじゃないですか! まだsこらの犬畜生のが頭使ってますよ」




 「「はっはっは………………殺すぞ!!!!」」 




 俺たちは胸倉を掴みあってガンくれ合った。


 が不毛すぎてすぐにやめた。


 クリスはまだ自分の世界にいるしさてどうしょうと思っていると幸助の奴がまた腕を組みながら名案が浮かんだといわんばかりに顔をどこぞの軍人よろしく険しくさせる。




 「龍司さん、もう考えても俺たちじゃ解決なんてできんでしょう」




 「まあその通りだな」




 「なのでですね、ここはこうパーと騒いで嫌なことを先送りにしましょうよ」




 「ほうほうつまり?」  




 うむ、まあパーとやって問題の先送りは誰でもするよな。


 だが、パーとするにも何をどうすのかと視線を投げかければ幸助は玄関に戻り、重そうに段ボール箱を持ってくる。


 ぬっ! それはまさか! 貴様午前中からだとぉ!!




 「昨日店長から丸まる貰って来んすよ! 銀色のやつ! つまり酒だぁあああああああああ!!!!!」




 ダンボールから缶を一つ取り出し、でーんと俺に見せつけるように前に出したそれはまさしく嫌なことも面倒なことも全部忘れられる清涼飲料水!!


 つまり




 「酒じゃあああああああああああああああ!!! 幸助いいもん持ってんじゃねーか!! くっ、だが、それだけでは一日だってもたん……ここは俺の秘蔵の日本酒と焼酎とブランデーを出すしかないか…… 」




 「ひゅー! チャンポンする気満々すぎてトイレから帰ってこれる気がしないっす!」




 「ちょっ、うるさい。私真剣に考えているのだが……むっ、それはなんだ?」




 俺と幸助が騒いでいると、クリスは自分の世界から帰って来たのか俺たちを怪訝な目で見るまあ表情に変化はないんだが。


 だが、俺たちが今からやろうとしていることを伝えると、クリスはふむ、と一言。




 「酒か、酒か! 酒だな!! 酒だぁああああああああああああああああああああああ!!!」




 「「……え、なに?」」




 クリスがいきなり吠え出した。


 え、なにこの子いきなり吠えて怖い……。


 だがよくよ聞いてみるとこの子は一番最初の世界の頃から酒に目がなかったらしく、やれ飲んでは出陣じゃ! やれ飲んでは一騎掛けじゃ! 果ては飲みながら戦っていたという酒豪かつアル中。


 もしや二十万人の魂の声を雑音と判断しているのはアル中特有の幻聴と区別ついてないのでは……。


 だが、まあ、今はそんなことどうでもよかろう。


 今は酒だ! 酒を飲むのだ!!


 そう意気込み缶を取り、クリスに渡す。


 だが、クリスはプルタブの開け方が今一よくわからなかったのか、俺に渡してきて、表情は変わらないが上目遣いに「あけて」とお願いしてくる。


 くぅ~アル中めぇ~絶世の美少女見たいな見た目してるくせにやってること酒飲みたいだけとか可愛さの欠片もねえ!!


 でも開けちゃう! 飲みたいから!


 俺はこうやって開けるのだと実演して見せ、クリスはなるほどと納得したのか他の缶に手を出して自分で開ける。


 その間に俺は一本をそうそうに飲み干す。


 よし次の缶だ。




 「開けれたぞ! 流石私だな!」




 「あーはいはい偉いですぞ姫様」




 「えらいっすえらいっす。あ、龍司さんまだ二本目っすか俺もう三本目っすよ」




 「やるなじゃねえか幸助! だが、毎度誰に面倒見てもらっていると思いやがる、俺に酒の強さで勝てると思ってんのか!?」




 「酒うめええええええええええええええ!!」




 「聞けよ!!」




 「酒だぁああああああああああああああああああああああああああ!!!」




 「お前もかクリス! だが酒うめえええええええええええええええ!!!」 




 俺たちはダンボールを空にした後、調子に乗って更に購入し、次の日の朝まで飲み明かした。


 もう正直言って滅びの因子だとか世界崩壊だとか知ったことじゃねえ! 明日は明日の俺がなんとかしてくれるさ! あ、もう明日だわ。
















                                    ★










 結論を言おう。


 酷い。


 そうとしか言いようがない。


 俺と幸助は間違いなくぶっ壊れていた。


 正直ストレスはたまっていたんだ。


 俺は仕事となんか塔が落ちてきて本気で死んだと思ったことと、あと足の骨へし折られかけたこと。


 幸助は徹夜明けの寝不足と足へし折られかけたこと。


 正直はっちゃけたんだ。


 服を脱いで全裸で踊り狂ってた。


 クリスは表情変わらないがそれを見て大爆笑してたしそれに気をよくして調子に乗ってチンコプターとかしてた。


 まあそれは後悔してない。


 後悔はしてないがやっぱ酒ってやりすぎはあかんわ……。


 部屋の惨状を見て強く思う。


 ゲロまみれである。


 床のそこかしこがゲロの海である。


 幸助なぞゲロを布団にして幸せそうに寝てやがるしクリスはなんか…………全裸である…………ゲロまみれで。


 記憶の消えたあたりからたぶん何かあったのであろう……たぶんクリスも全裸で踊ってたんじゃなかろうか……色気がなさ過ぎて全然欲情しねえのがもう本当凄いわ。


 仮にも美少女、しかも服の上からではよくわからなかったが、凄い巨乳、桜色のそれも見えている。


 でも全然欲情しねえ。


 どいつもこいつも口周りはゲロまみれだし鼻には鼻くその変わりにゲロが詰まってやがる。


 見るに堪えない地獄絵図。


 人ってのは理性があって初めて人なんだと現実を突き付けてくる。


 ああ、誰だよ酒を飲もうとかいったやつ……俺か。


 いやいや提案してきたのは幸助だから! 俺は悪くない! 悪いのは幸助だ! ちくしょう幸助め! 掃除しろ! 悪臭過ぎて涙が止まらないんだからな!


 結局、明日の俺は地獄を見る羽目になった。




 「んぅ……なんだ……もう朝か……」




 「……はい、朝です。とりあえず風呂に入ってこい沸いてるから、そして髪の毛とかその他もろもろについているゲロを落としてこい」




 「……………臭い」




 でしょうね。


 俺も酷いありさまだったし気持ちは分かる、が、いいからはよ風呂いけってああ、もしかしてシャワーとか知らない感じ?




 「いや、シャワーなら第四世界で使ったな、テレビや娯楽などの文化は発達のしていない世界ではあったがまあシャワーなどの工作系の技術力は中々あったぞ」




 「電気関係の技術が発展してなかったくらい? まあ、問題ないなら別にいいさ、ほら、行ってこい」




 「うむ、悪いが貸してもらおう」




 そうして俺はクリスを風呂場に突っ込むと幸助を蹴り起こし、二日酔いで死にかけの顔を横目に部屋の片づけに入ろうとして――――叫び声が聞こえてきた。




 「ぐ、ぐわぁあああああああああああああああ!!!!!」




 「…………今度はなんなんですかねちくしょう」




 「……ああ、姫さんなんかやったんすかねあたたたた」 




 「一応風呂に行かせただけなんだけどな……」




 俺は今度は何が起きたんだと頭を痛め、幸助は叫び声に頭を痛める。


 さて、何が起きたんだと風呂場の方に顔を向ければクリスの奴が風呂場を飛び出してきた。




 「なんだあれは!? お湯が勝手に出てきたぞ!? まさかこんなことに対して魔法で沸かしてるのか!?」




 慌てた声音で無表情なクリスは、風呂場のシャワーを指さしてそんなことをのたまいやがる。


 うーんこれが異世界コミュニケーション、文化の違いを感じます。


 そして前も下も隠さないクリスさんに羞恥心のなさも感じます。


 幸助なんて女の裸を見慣れているせいか酔い覚ましに水を飲みながら無表情でみてる。


 俺か? 色気がなさ過ぎて苦虫噛み潰した顔だよ。プロに相手してもらってるほうがまだ雰囲気あるわ。




 「ああ、知らなかったみたいだけどシャワーは一定のお湯が出るぞ、先人の偉大な発明家とガスとか電気とか作っている人のおかげだ。普通に人類の技術だぞ」




 「な、なるほど、よほどこの世界の技術は進んでいるな……偉大なる先人に感謝するんだぞ!」




 「ああ、してるしてる。今ゲロ掃除してる雑巾さんやクイッ●ルワイパーさん、あと洗濯機さんには特にな」




 とりあえず服とかは一度手洗いしてから洗濯機にぶち込まないとえらいことになる。


 ゴミ取りネットがゲロ取りネットに大変身する大惨事だ。


 あと床は汚れが取れても暫く臭いがとれなさそうなので俺もクリスも幸助の部屋に退避することにしよう。


 よかったな、部屋掃除がさっそく役に立ったぞと幸助に言えば「俺の部屋もゲロまみれになったら部屋掃除手伝ってくださいよ」と言われたのでお前が俺の部屋を掃除するかどうかだなと言えばうっ……頭が……と二度寝し始めた。


 いや、服脱いで風呂入ってからにしろやと思いはしたものの、絶対に手伝わないだろうことは予想していたので幸助の尻を蹴り上げて掃除に戻った。


 掃除をしていると、シャワーの出る音と幸助の寝息、そしてテレビの音しかなく、なんだか偉い静かだな……と不思議に思ったものの、ふと、テレビを見れば、この国の総理が記者会見をしていた。




 『何度も言うようにH県にお住みの皆様には大変申し訳ございませんが今日の昼の一二時を持ってH県の封鎖及びそこから出るもの全てを敵性因子として排除いたします。国民の皆様より反対はもちろんあるでしょうが、まさに緊急事態であり予想された最悪な事態が起ころうとしており――――』




 ……はい?


 封鎖? 排除? どういうこと?


 話を聞けば、かの塔は異世界からの侵略者であり、未知の病原菌だったり未知の技術を持っているそうで、人を洗脳する技術を持っているかもしれないとのこと。


 そして交渉はするものの決裂すれば戦争しまっせと暗に臭わせている。


 塔が来る際に他所の市を塔が踏みつぶしたのが最高に心象が悪く、普段与党に反対の意見を述べるマスコミですら戦争ムードという、追い風を受けている。


 うーん……まずくね? 逃げないとヤバくね? と首を勢いよく時計の方に向け、時間を見れば時間は十一時四十五分であり、どう考えても県外脱出は不可能。


 ……そうか、これがそうか……平和ボケか……俺たちが一番平和ボケしていたよねってオチか。




 「ぬおおおおおおおおおおやべえええええええええええ幸助起きろ!! マジで起きろ!!」




 幸助は嫌そうな顔をしながら起き上がる。


 顔にゲロの跡がついているが、俺は気にせず、幸助の顔を「オラぁ!」とはたき「ぐへぇ!」と顔を明後日の方向へ吹き飛ばしていたがそんなの知るかとテレビの方へ注目させると幸助は不機嫌な表情を一転、顔を青ざめさせた。




 「やばいっすよ! マジでやばいっすよ!? どうするんすかこれ!? 死ぬんすか俺!」




 「お、おおおおおおおおおちち落ち着け! こういうときはあれだ! デリヘルを呼んで一回すっきりしよう!」




 「良い案だ! そうっすね一回すっきりしてからってばかぁ!」




 「ぐへぇ!」




 グー! めっちゃグーで殴られた! しかも手加減なし!


 俺は鼻血をぼたぼたと垂らしながら確かに混乱し過ぎていたと反省し一旦冷静になる。


 確かに今のは俺が悪い。


 でもグーは酷くね? と思いながら、俺は質問する。




 「で、実際これ、どうしよう」 




 幸助も俺も、とりあえず頭を働かせることにした。 


 正直アッパラパー過ぎたからね……少しは頭を働かせるべきだ……。


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終わった世界のタワーラビリンス @komui25

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