問答無用で。

紀之介

今は過眠期間

「ふぁあぁ~」


 大学の廊下で大欠伸。


 何故か俺には、過剰に眠い期間と 全く寝られない期間が、交互に訪れる。


 今は 過眠期間だ。


 昨晩 あれだけ寝たのに、まだ寝足りないらしい。


(さっき 昼を食ったから、なおさらかぁ)


 幸い、4コマ目の開始までには まだ2時間弱ある。


(小教室で行われる 参加者7人の講義で、居眠りは避けたい──)


 俺は、いつもの空き教室で 仮眠を取る事にした。


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(ん?!)


 珍しい事に、空き教室に先客がいる。


(─ 女の子?)


 最前列の 一番奥の端の机に、 突っ伏して寝ていた。


(離れた席を使えば…無問題……)


 もうひとつの行き付けな教室は ここから遠かったし、何より眠気がもう限界。


 俺は、最後列の 女の子の対角線位置で一番遠い椅子に腰を落ち着けた。


----------


「─ ちょっと。」


 突然体を、乱暴に揺すられる。


 机に突っ伏して寝ていた俺は、朦朧としたまま 顔を上げた。


 両手を腰に当てた、仁王立ちの女の子と目が合う。


「ガキみたいなイタズラ、止めてくれるかな」


「は…?!」


「寝ている私の首筋に…息を吹き掛けて逃げるなんて どういうつもり?」


「…俺、寝てたし」


「イタズラしてから…急いでここに戻って、寝たフリしたんでしょ!?」


 怒りで意識が覚醒し、立ち上がる。


「今、俺 揺り起こされたよな?」


「たぬき寝入り してた癖に!」


 頭の中で、何かが弾けた。


「この教室、出るらしいから…」


「え?!」


「─ おたくの首筋に息を吹きかけたのは、或いは…」


 目を見開いて、女の子が固まる。


「な、何だって言うのよ?」


「霊」


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「ひー」


 崩れ散る様に 頭を抱えて、女の子はその場にうずくまった。


「わ、私…そう言うの……駄目な人なの………」


 ついには、すすり泣き始める。


 慌てて俺は駆け寄り、取り繕った。


「うん。冗談だから」


「─ うそ」


「ホントだって。」


「じゃあ…私の首筋に 息を掛けたのは、誰?」


 顔を上げた女の子が、涙で潤んだ目で睨む。


 この場を収めるためには、こう言うしかなかった。


「お、俺がやったんだよ。」


----------


「本当に?」


 女の子が立ち上がる。


「アンタがしたの??」


 頷く俺。


「そうだよ。悪かった」


「─ どうやったの?」


「は?!」


「ここから 私の座ってた席までって、かなりの距離が あるよね」


 自分の手の甲で、女の子が涙を拭う。


「私、直ぐに立ち上がって この席を見たんだけど…その時にはアンタ、机に突っ伏していたじゃない?」


(じゃあ さっきは何で、問答無用で俺を 犯人扱いしたんだ──)


 そう口に出掛かかった瞬間、女の子はニヤリと笑った。


「ところで…私に悪さをした罪は、軽くないから」


----------


「…夕食ぐらい……奢って貰わないと だね」


 女の子が、一歩前に踏み出す。


 その分俺は、後ろに下がった。


「ど、どうして──」


「アンタが私に、したイタズラの償い」


 壁際まで追い詰めらた俺に鼻先に、女の子の人差し指が迫る。


「この後 私、5コマ目まであるから…終わる頃に ここで待ち合わせね」


 何かを言いかけたその刹那、移動した女の子の指は、立てた形で自らの唇に当てられた。


「一度付いた嘘は…付き通さないと♪」


 呆然とする俺に、最後のとどめ。


「私を怒らせたら…怖いよ♡」


 俺はその後、出会ったばかりの女の子に 夕食をご馳走して、身に覚えのない罪を償った。


 ─ これが、俺と曜子の付き合い始めた キッカケだったりする。。。

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問答無用で。 紀之介 @otnknsk

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