第36話 大魔法

 レヴィンは王城へとやってきていた。

 別に呼び出しがあった訳ではない。

 わざわざ王城内にある蔵書室で本を読むために来たのだからレヴィンの本好きも相当である。


 特別に発行された閲覧許可証を見せて蔵書室に入る。

 かなりの大きさを誇る蔵書室で誰でも閲覧できる訳ではないが、一応司書がいて管理を行っているようだ。


 とりあえず、魔導書がある場所を聞いてそこから物色を始める。

 レヴィンは現在、大魔導士Lv5である。

 もう魔人に職業変更クラスチェンジ可能なので、変更するつもりだが、稼いだ職業点クラスポイントで大魔導士の能力『大魔法』を取るつもりである。

 その他にもここには、色々な魔導書が眠っているようなので、これで魔法のレパートリーが増える事間違いなしである。


「うーん。これはいいな。あとこれ……は付与魔法か」


 だだっ広い部屋の中でぶつぶつと独り言を言いながら魔導書を漁るその姿はあまり見られたくないものかも知れない。


「おッこれこれ火魔法系の大魔法きた!」


 ようやく大魔法の魔導書を発見する事ができた喜びを噛みしめつつ、褒美を書籍の閲覧権にしてよかったと心から思うレヴィンであった。


轟炎閃烈フレアか。うおおお。速く使ってみたいなぁ……」


 色々、理論的な事も書かれているので読んでみるが、魔法を使う分には魔法陣さえ描ければ良いので適当に流しておく。

 そして、レヴィンは職業点クラスポイントで『轟炎閃烈フレア』の魔法を獲得した。


「この魔法陣かなり複雑だな……」


 魔法自体は発動しないが、魔法陣を虚空に描いてみるレヴィン。

 しかし、流石に一発で魔法陣を描写できるはずもなかった。


「こういうのって、一目見て記憶できる才能があれば楽なんだろうか? 聞いた事あるな。まるで現場を切り取ったかのように記憶できる能力……」


 レヴィンの魔法の習得方法はひたすら反復練習を行うものだ。

 とにかく魔法陣を描写しまくるのである。

 それから延々と時間をかけて練習を行っていく。


「よし、大分上手く描けるようになったぞ。後は発動だな」


 まさか室内で魔法をぶっ放す訳にもいかないので、ここは堪えて他の魔導書を漁り始める。

 すると、白魔法の高位の魔法の魔導書を見つける事ができた。

 書いてあったのは、全霊治癒オールヒール極大治癒エクスヒールだ。

 全霊治癒オールヒールは広範囲回復魔法のようである。

 極大治癒エクスヒールに至っては部分欠損ですら再生させるほどの魔法である。


「完全に描けるようになったらシーンにも教えてやらなきゃな。ってか白魔導士の職業点が足りないな……貯めないと」


 そうつぶやいて、再び大魔法の魔導書を探し始める。

 現在の大魔導士で保有している職業点だと、あと大魔法を二つくらいしか取れないかも知れない。

 火魔法は取ったので、後は雷、水、風、土の中から選ぶ必要がある。

 その前にこの蔵書室に大魔法の魔導書があるか調べなければいけないのだが。

 しばらく黙々と魔導書を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返す。

 その結果、見つかったのは、雷魔法の大魔法『極大電撃テスラ』だけであった。

 まだまだ時間をかければ見つかるかも知れないが、大魔法だけでなく、その他の有用な黒魔法や白魔法、付与魔法も覚えておきたいので今日のところは諦めておいた。

 とりあえず、『極大電撃テスラ』を獲得し、魔法陣の練習を始める。

 有用なものは魔導書を借りて帰れば良い。

 その後も一心不乱に描写の練習をしたレヴィンであった。

 ふと、時間が気になって時計を確認すると、もうとっくにお昼の時間も過ぎ、時間は夕方にさしかかろうとしていた。


「帰る準備をするか。借りるのは、と。これとこれだな」


 自宅に持って帰る魔導書を選び、出しっぱなしにしていたものは本棚にしまっていく。出したものは、ちゃんと元の場所に戻しておく。これは、マナーである。

 どこにでもしまっておけばいいと言うものではない。

 レヴィンは魔導書を手に持って、他の分野の本も見てみる事にした。

 たまたま通りかかった本棚の列に『グラント大陸冒険記』と言う本があるのを発見し、チラッと中身を確認してみる。


(おおッ! 南西の大陸の記録か。これはいいな。地図も載ってるしフィルにも読ませてやろう)


 レヴィン自身は閲覧権を持っているからいいのだが、身内に本を見せても良いものか迷ったが、少しくらいはいいだろうと思い、これも借りていく事にした。

 司書に借りる本と伝えて手続きを行い、レヴィンは家に帰る事にする。

 昼を抜いてしまったので、腹が減って力が出ないレヴィンであった。


 王城を出ると、そこには綺麗な夕焼けが見える。


 レヴィンは、今日は有意義な一日だったと満足しつつ馬車で家路についたのであった。

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