第31話 マッカス到着

 マイセンを生け捕ったレヴィンは、彼を縛り上げ荷馬車の荷台に放り込んだ。

 死屍累々と横たわる屍はどうしようもないので、放置して暗闇の中、出発する事にした。


 三台の馬車がまだ暗い中を速度を少し遅めて疾走している。


 既にいっぱいになった荷馬車の荷台でレヴィンは、ウォルターと話していた。


「はやくマッカーシー領に入りたいな」


「そうですな。そうすれば、もう追手も来ないでしょうし」


 マイセンは手足を縛られたまま、気絶している。

 今荷台には七人の捕虜とレヴィン、ウォルターが乗っている。

 いくら大型とは言え、手狭になってしまっており、レヴィンには窮屈に感じられた。


 今回潰したのは、マイセンの私設騎士団だろうと思われた。

 もし、マイセンが戻らないとなると教会がどう動くかが最大の懸念であった。


 しかし、そんなレヴィンの心配は杞憂に終わった。

 律儀にも探知魔法などで、ずっと警戒していたのだが、いくら待っても追手は現れなかったのだ。

 いや、いくら待ってもというのは語弊があるかも知れない。

 別に、来るのを心待ちにしていた訳ではないからだ。


 そんな一行の前に現れたのは、追手ではなく、統率のとれた騎士の集団であった。

 ドルトムット方面ではなく、マッカス方面に忽然と出現した事からも解る通り、その一団はマッカーシー家が派遣した騎士団だったのだ。


「その紋章は、ナミディア卿の一行とお見受け致す。ナミディア卿はおいでか?」


 騎士団の前で停車した馬車に向かって声を上げる騎士。

 その声に応えてレヴィンは荷馬車を降りて騎士団の前に進み出る。


「いかにも私がレヴィン・フォン・ナミディアです。そちらはマッカーシー卿の騎士団で相違ありませんか?」


「その通りです。ナミディア卿。我が主の命によりお迎えに参上仕りました」


「出迎え感謝致します」


 そこへ、ウォルターもレヴィンの横へとやってきた。


「おお、ウォルター殿ではないか!」


 騎士の一人から声が上がる。

 どうやらウォルターと知り合いのようだ。

 マッカーシー卿から推薦を受けた執事候補のウォルターである。知り合いがいてもおかしくはない。

 しばらく、軽く雑談し、レヴィンは自分の馬車に乗り込む。

 ウォルターには捕虜の監視のために、引き続き荷馬車に乗ってもらう。

 騎士団は、レヴィン達を先導する者と後方を警護する者に別れて配置についた。


 一行は、旅を再開した。その後も拍子抜けするほど至って平穏な旅となった。

 途中でいくつかの村や街を経由して三日ほどかけて無事マッカスの街に到着する。

 城門をくぐり、大通りを行く。

 相変わらず活気のある都市である。

 馬車の窓から行きかう人の波や、露店などを見ながらマッカーシー卿の邸宅へと向かう。


 あまりに人が多いので少し時間がかかったが、無事、邸宅前に馬車を乗り付ける。

 そこには、大勢のマッカーシー家に仕える人々の姿があった。

 整列して出迎えてくれる家人達。


 その中にはベネディクトやクラリスの姿もあった。

 馬車から降りたレヴィンは、彼らと久しぶりの再会を喜び合う。


「ベネディクト! 久しぶり!」


「やぁ、短い春休みだけど、もう随分会ってなかったような気がするよ」


「レヴィン様、ご無事なようで何よりですわ!」


「クラリスも久しぶりだね。二人とも実家に帰るのも久しぶりじゃないの?」


「ああそうだね。ずっと王都にいたからね。君もまた大変な事に巻き込まれていたそうだね」


「ああ、まぁ、今回は巻き込まれたと言うか、巻き込まれに行ったと言うか……」


 そこへ、馬車から降りてきたフレンダとオレリアがレヴィンの下へとやってきた。


「あ、紹介する。彼女がドルトムットのご令嬢、フレンダだよ」


「ご紹介に預かりました、フレンダと申しますわ。よろしくお願い致しますわ」


「こちらこそ、ようこそマッカスへ。歓迎するよ」


 その言葉と共にレヴィン達を案内してくれるベネディクト。

 レヴィンは、ウォルターに捕虜達を任せ、邸宅の中へと入る。

 既にドルトムットの事件についての手紙を出していたし、先触れも出していたので部屋なども用意されていた。


 レヴィン達は、順番にそれぞれの部屋に案内されていく。

 レヴィンは、部屋に荷物を置いた後、フレンダの部屋までついていく。

 別にやましい理由ではない。まさか襲撃されると言う事はないだろうが、念のためである。


 その後、マッカーシー卿の下へと挨拶に出向く。


「クライヴ様、この度はまたしてもお手を煩わしてしまい申し訳ございません」


「いや、構わんよ。告発状に、私の手紙も添えて王都へ送り出してある。しばらく時間がかかるかも知れんが、ドルトムットに監査が入るのは間違いないだろう」


 そこへ、レヴィンについてきていたフレンダも挨拶の言葉を述べる。


「この度は、ありがとうございます。」


 マッカーシー卿は、挨拶するフレンダを見てレヴィンに話しかける。


「レヴィン殿も隅に置けないな。ドルトムットでこんなレディを捕まえてくるなんてな。わっはっはっは」


 フレンダもまんざらでもないのか「まぁ」と口に手を当てて頬を染めている。

 レヴィンもフレンダを保護すると覚悟を決めて臨んだ事なので何も言わない。


「まぁ、今夜はゆっくり休んでくれ」


「ありがとうございます」


 レヴィンとフレンダはマッカーシー卿にお礼を言って各自の部屋へと戻っていった。

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