第30話 決着

 ウォルターと狂戦士バーサーカーはお互いに睨みあいながら対峙していた。

 しかし、それもほんの少しの間であった。

 狂戦士化した者は、力尽きるまで動きを止めない。

 男は思いっきりジャンプすると渾身の一撃をウォルターの真上から振り下ろした。

 斧が大地に大きなクレーターを作りだす。

 避ける時間は十分あったので、簡単に回避できたのだが、その圧倒的なパワーにウォルターは冷や汗をかく。


 ウォルターはそのがら空きになった背後を強襲するも、男は素早く回転して短剣を薙ぎ払う。危うく短剣を持って行かれそうになったウォルターであったが、何とか体勢を立て直すと狂戦士バーサーカーに向かって攻撃を開始した。


 再び、お互いの攻撃を避け続ける展開になる。

 上段からの一振りにウォルターが半身になってかわすが、ピタッと止まったその斧は角度を変えて、彼に襲い掛かる。

 力任せの一撃を喰らい大きく吹っ飛ばされるウォルター。

 左腕の骨が逝ったか?と激痛に耐えながら、何とか倒れるのを防ぐ。

 そして、すぐに間合いを詰めて左腕の調子を確認しがてら握っていた砂を男の顔にかける。それをまともに顔に喰らった男は、破れかぶれの攻撃を繰り出してくる。

 その攻撃は斧を滅茶苦茶に振り回しただけであったが圧がすごくてとても近づけたものではない。せっかく目を潰したのに、これでは手の打ち様がなかった。


 その時、雷光が走った。


 電撃を喰らったのは狂戦士バーサーカーであった。

 男の背後には、消えつつある魔法陣を展開したアニータの姿があった。

 すぐにそれを理解したウォルターは、動きの止まった一瞬の隙を逃さずに『必殺』の一撃を放つ。


 そこには、短剣で心臓を貫かれて立ったままこと切れた狂戦士バーサーカーの姿があった。




 バーバラはわざと単調な剣撃を繰り返し放っていた。

 海賊戦士キャプテンの男はひたすら受け太刀している。

 男の当初の余裕もどこへやら、状況はバーバラ優位に推移していた。

 ひりつくような実戦に彼女が昔の勘を取り戻し始めた証左であった。


 男の顔に焦りの色が見え始めたその時、バーバラは剣筋を変え、男の右脇腹を目がけて長剣を薙ぎ払う。突如、攻撃パターンが変わった事に対応しきれなかった男は、何とかその一撃を受け止めようとするが、剣を刀身の半ばでへし折られてしまった。


 慌てた男は、折れた剣をバーバラに投げつけると、地面に倒れ伏している仲間の剣を拾うために背中を見せてダッシュする。しかし、バーバラはそれを追うでもなく、冷静に魔法陣を展開すると魔法を放った。


凍結球弾フリーズショット


 その氷の弾が男に迫り、直撃したその場所には、氷漬けにされた男の姿があった。




 闇をまとわりつかせた剣を構え、レヴィンがマイセンに飛びかかる。


「なんだその剣はッ!?」


 流石に闇をまとった剣が異様に映ったのか、レヴィンから大きく距離をとるマイセン。自分の剣を拾えなかったので、落ちていた仲間の剣を拾うと、その場で迎撃の構えを取った。


 そして、魔法を放つ。


神光輝撃シャイニング


 光の奔流がレヴィンに襲い掛かるが、持っている闇の剣ノクス・アルマで薙ぎ払うと、光はあっけなく吹き散らされる。


「なッ!?」


 再び、マイセンは驚きの声を上げる。

 レヴィンは何も答えずにマイセンに向かって走る。

 レヴィンの思い通り、盾で闇の剣ノクス・アルマを受け止めにくるマイセン。

 しかし、その盾は闇の剣ノクス・アルマによってあっさり斬り裂かれてしまった。

 勢い余ってマイセンの左手も傷つけたため、マイセンの悲鳴が闇の中に木霊する。

 盾がマイセンの手から滑り落ちる。そして、剣でレヴィンを袈裟斬りにしようとするが、レヴィンは返す刀でその剣を薙ぎ払った。

 斬り裂かれ、刀身が半ば折れてしまった剣を持って茫然と立ち尽くすマイセン。

 心の方も折れてしまったのか、小声で何かぶつぶつつぶやいている。


「名家の俺が負けるはずがない名家の俺が負けるはずがない名家の俺が負けるはずがない……」


「マイセン、終わりだ。降伏しろッ!」


 レヴィンの言葉に反応したマイセンが折れた剣を投げつけ、空いた右手を握りしめたかと思うと、それをレヴィン目がけて振り下ろした。

 余裕でかわすレヴィンにますます逆上したマイセンは、血の滴る左手でも殴りつけてくる。破れかぶれの攻撃にレヴィンはそっとため息をつくと大きく後ろに飛び退ると仕方なく魔法陣を展開する。


亜極雷陣アンペール


 バチバチバチバチバチッ


 荒れ狂う雷撃が収まったその場所には、最早立っている者は誰一人残ってはいなかった。

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