第21話 フレンダ救出戦②

「くふぅ……人間風情がたばかりおって……」


 その一言でサテライトを包んでいた光が吹き散らされる。


「多少は効いたが、この程度では我は倒せぬ……死ねッ!」


 サテライトの右手から魔力弾が放たれる。

 ドルトムット卿はフレンダを突き飛ばすと、一人その攻撃を受けて吹き飛ばされる。

 彼は、吹き飛ばされながらも何とか立ち上がると、再び魔法陣を展開する。

 すると、サテライトの姿が闇に飲まれ消失したかと思うと、次の瞬間にはドルトムット卿の目の前に出現していた。


「終わりだ」


 サテライトの右手がドルトムット卿の体を貫く。


「お父様ッ!」


 しかし、完全に致命傷かと思われたその一撃を喰らったドルトムット卿の姿が霞と消える。


「何ッ!?」


神光輝撃シャイニング


「ぐががが」


 再び現れた光に身を焼かれ、苦痛の声を上げるサテライト。

 しかし、それも致命傷には至らない。


「幻術かッ! こしゃくなッ! おい人間共ッ! その娘を殺れッ!」


「はッ!」


 それまで空気だった三人がフレンダを捕えようと動く。

 その言葉に顔色を変えるドルトムット卿。


 その時、闇夜に大音声が響き渡った。


宙畏撃ユニ・イーヴァ


「ぐああああああああああああ!」


 これまでとは比べものにならない程の苦痛がサテライトを襲う。


 ――間に合った


 高速飛翔の魔法で、現場に駆けつけるとサテライトに魔法を放ち、更にフレンダを捕えようとしていた三人をフライングアタックで吹き飛ばす。


「レヴィン様!」


 レヴィンはフレンダの傍に降り立つと、彼女をかばうようにして前に立った。

 しかし、ドルトムット卿との距離は遠い。

 レヴィンはフレンダをかばいながら、男達三人を一刀の下に斬り捨てる。


「ええいッ! もういい。お前は死ねッ!」


高速飛翔ハイ・ソアー


消失楽園ロスト・パラダイス


 ――間に合わないッ


 サテライトの魔法は何十もの闇の弾丸が放つものであった。

 その弾丸にドルトムット卿は全身を貫かれる。


 しかし――それと同時にサテライトもレヴィンの闇の剣ノクス・アルマに胸を貫かれていた。


「俺が人間如きに……」


「やかましいッ!」


 レヴィンは闇の剣ノクス・アルマに更なる魔力を込める。


「ぐるあああああああ!」


 その断末魔を残してサテライトは闇に溶け消えた。

 魔神が消滅したのを確認して、レヴィンはドルトムット卿に駆け寄った。

 フレンダもレヴィンの方に駆けつけてくる。


「ドルトムット卿!」


 レヴィンは声をかけつつ、彼の半身を起こすが、そこには物言わぬ骸と成り果てたドルトムット卿の姿だけが残されていた。

 フレンダもレヴィンの隣りに駆けつけ、ドルトムット卿の顔を両手でつかんで何とかしようと揺さぶっている。


「お父様ッ!」


聖亜治癒ハイヒール


 レヴィンは無駄だと解りながらも回復魔法をかける。

 当然、反応はない。


 ――助け……られなかった


 フレンダはドルトムット卿の胸に顔をうずめて号泣している。


 フレンダを取り戻し、魔神も倒した。

 しかし、ドルトムット卿を死なせてしまった。


 苦い勝利だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る