第14話 視察

 今日は何をしようかなと考えながら、大通りに出て目についたカフェに入る。

 注文して飲み物を受け取ると、屋内の席へと移動する。

 オープンテラスになっていたが、今日のところはこっそり奥でまったりしようと思うレヴィンであった。


 マイセンの尾行は、ウォルターに任せてある。

 同様にマイセンの調査は、エイベルとアニータに任せてある。


「後は、神殿の様子を知りたいな。神殿の方はどうしよう」


 レヴィンが『隠密』系の能力を持っていれば済む話なのだが、あいにく、レヴィンは取っていない。

 今は魔人への職業変更クラスチェンジを目指してまっすぐ進むのだ。


「まぁ街の様子を視察しがてら神殿の事を聞いて回りますか……」


 それからしばらく、飲み物をちびちびやりながら色々考え事をしてからカフェを後にした。


 とりあえずは視察だ。


 ドルトムットは水の都と言うだけあって水路が張り巡らされている。

 そこで水上タクシーに乗ってみる事にした。

 カヌーで行きたいところへ行ってくれるのだ。


 愛想の良いお兄さんに「乗ってかない?」と言われたので、彼に決めてカヌーに乗り込む。

 水路をすいすいと進んでいく水上タクシー。

 水路の大通りと言うべき場所には多くの小型船が行きかっていた。

 壮観である。こんな光景を見た事がなかったレヴィンは興奮している。


 適当に面白そうなところを回って欲しいと頼むと彼は任されたとばかりに張り切り出した。


 最初に到着したのは、市場のようなところだった。

 野菜や果実であふれており、水上タクシーで乗り付けて買い物するのだ。

 船着き場のようなところもあるし、船に乗ったまま商品を品定めできるところもあった。


 流石に野菜を買っても困るだけなので、その場で食べられる果実を買う事にする。

 お勧めを聞くとライの実が美味しいそうなので、それを買う。

 早速、食べてみるとみずみずしくてとても美味しい。

 皮をむいて中身を食べるのだが、ジューシーだが食感がもっちりして食べごたえがあった。皮はどこに捨てればいいか迷っていたら、レヴィンの前にあるゴミ箱へ捨てるように言われた。

 水路にはほとんどゴミは浮いていない。

 住民の美化への意識は高いようだ。

 水上タクシーのお兄さんによれば、清掃船が水路を行き来しており、ゴミがあれば回収しているそうである。


 石造りの橋の下を通り、水上タクシーから手の届く場所に石造りの建物が建てられている。美しい町並みにレヴィンはナミディアの未来を想像する事を止められなかった。ここまで水路を充実させなくても、運河と堀を一体化して景観と防御を兼ね備えた、水運の充実した都市にしたいところである。


 水面を眺めていると魚がジャンプしているのが見える。

 よく目を凝らしてみると、水中に魚が群れをなして泳いでいるのが確認できた。

 水の透明度も高い。この規模の都市にしては汚染が進んでいないので驚いた。

 水路を川上の方へ行くと、船上で魚を焼いている人が見える。

 釣った魚をすぐに出しているそうだ。せっかくなので、焼き立てを頂いた。

 香ばしくて塩が利いており美味い。


 最後に川に出る。川沿いに桜のような花をつけた木々が並んでいる。

 どうやらネルンの花と言うらしい。

 春に咲く桜に似た花と言う事で、ナミディアに植樹してみるのもいいかも知れないと思った。


 水上タクシーから降りると、レヴィンは気合を入れ直した。

 いっちょ、神殿についての聞き込みでもするかと思ったのだ。

 他愛のない事でも色々聞いて回れば、荒事専門の方々が出てくるかも知れない。

 痛くもない腹を探られるのは嫌だろう。と言うか痛いところがありそうなのだが。


 という訳で、見つけた人に片っ端から声をかけ、神殿について聞いていく。

 もう十数人に声をかけている。

 人気のない裏通りに入るレヴィン。

 お約束だとそろそろ……といったところでレヴィンに声がかけられた。


「ほら来た」


 声をかけてきたのは、ゴロツキの兄ちゃん達五人である。


「あーん? 何がほら来ただって? おめぇ見ない顔だな! どこのもんだ?」


「ただの観光客ですが何か?」


「ただの観光客が神殿の事なんか聞いて回るかよ。さっさと失せろッ!」


「でも脅しに来たって事は何かやましい事があるって事ですよね? やっぱり神殿は悪の組織なのかな?」


 その言葉に五人全員が顔を真っ赤にして怒り出す。


「おい! てめぇ、吐いた唾は飲めねぇぞッ!」


 一人がレヴィンの肩を掴んできたので、左手で相手の手首を持つと思いっきり握りしめてやる。もちろん、無職ニート職業変更クラスチェンジ済みである。


狂風ゲイル


 流石に五人を一度に相手するのは面倒なため、魔法で牽制する。

 荒れ狂った強風が男達の体勢を崩し、衣服や皮膚を斬り裂いていく。


「ぐああああああ! 俺の手があああああ!」


 どこかで見た光景だ。ズクズク色になった右手を見て発狂する男その壱。


神霊烈攻アストラル・フラッシュ


 レヴィンは、続けざまに魔法を放つ。今の魔法は威力を少し弱めてある。

 人間相手ならこれ位がちょうどいい。魔力操作の練習が役に立つ時が来たのだ。

 これで神経が衰弱して弱り切った男五人の誕生である。


 レヴィンは、しゃがみこんで、地面に突っ伏した五人のうちの一人に尋ねる。


「で?」


「……」


「で? 神殿は何を隠している?」


「な、何も隠してなんかいねぇよッ!」


「じゃあ、質問を変えよう。神殿はマイセンと組んで何を企んでいる?」


「ッ!? なんだそれはッ!? 俺は何も知らねぇ!」


 ふむ。レヴィンは頭の中で整理を始める。

 本当にこいつらは、ただの使いっパシリかも知れない。弱すぎるし。


「まぁ、こいつらを解放すれば、違うヤツらに襲撃されるかも知れないな」


 レヴィンはそうつぶやくと倒れた五人組に回復魔法をかける。

 さすがに神経衰弱までは治らないが仕方ない。


「じゃあ、解放しますね。では」


 レヴィンは、そう言うと五人組を放っておいたまま、再び、聞き込みを開始したのであった。

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