第24話 襲撃計画

 翌日、ゆったりとした朝を迎えたレヴィンは、十時に間に合うように支度して、執事候補のウォルターと共に冒険者ギルドに向かった。

 馬車は目立つので置いていく。御者には、今日一日暇を出した。

 いざとなったらウォルターも操作できるし問題ないだろう。


 少し早めに到着したかと思っていたら先客がいた。

 サーザイトである。


「おはようございます。ナミディア卿」


「おはようございます。早いですね。時間まで、何か飲みながら待ってましょう」


 そう言うと、ギルドの食堂でドリンクを注文する。

 すぐに運ばれてくるドリンク。

 皆、同じものを頼んだのだ。エクス公国産のお茶である。

 レヴィンに合わせただけだろう。

 お茶は、カップに入れた状態で出された。

 活躍の場を奪われたウォルターはがっかりしている。


「ところで、マルムス教の打ち合わせですが、どんな内容なんですか?」


「決まってるじゃないか。襲撃任務だよ」


 クローディアの事は委員会には話を通していない。

 サーザイトは驚きのあまり固まってしまった。


「いきなり襲撃ですか!? かなり荒っぽいと思うんですが……」


「まぁ、その話は後にしよう。ところでサーザイトさんの職業クラスって何でしたっけ?」


 レヴィンはお茶を口に含んでコクリと飲み干した後、サーザイトに尋ねた。


「は? 職業クラスですか? 以前、話した通り、私は盗賊シーフですが……」


職業クラスレベルは?」


「レベルは5くらいかと」


 現時点の正確なレベルが解らないのは、仕方のない話である。

 鑑定士に鑑定してもらう事はほとんどない事なのだ。

 ましてや、ステータス画面を確認できる訳でもない。


 例の平民は職業変更クラスチェンジの自由がないという法律だが、騎士爵の職業変更クラスチェンジはグレーゾーンなのだ。貴族が自分の配下を強くしたいと言う考えから、あいまいな解釈で法律を作ったのである。

 サーザイトを自分の部下として、好きに育てたいレヴィンなのであった。

 そして、忍者集団を作り上げたいと考えているのである。

 その野望は果てしない。


「しかし、職業クラスが何か?」


「いえ、一応確認しておこうと思いまして……。ちなみにサーザイトさんは出身はどこなんです?」


「出身はフェルムの町ですね。王都から北東にある都市で、ジョナサン・フォン・フェルムート子爵に仕えている騎士の家系です」


「今は、王国の官僚でどの貴族の配下でもないんですよね?」


「そうです。長男でもないので家を継ぐ訳でもありませんしね。家を飛び出して王都で官僚の試験を受けたんです」


「王都での仕事はどうですか?」


「んー。そうですね。正直もっとやりがいがあると思っていましたが、そうでもないな、と」


 別にレヴィンが上司と言う訳でもないので、サーザイトは、ざっくばらんに話してくれる。ここで、ウォルターから横槍が入った。


「レヴィン様、間もなく十時ですぞ」


「あッそうだね。では行きましょうか」


 残っていたお茶を飲み干して立ち上がると、二人を連れだって、ギルドマスターの部屋へと向かう。部屋の扉をノックすると中から返事があったので、中に入る。


 そこにはソファーに座る、二人の男女と、ランゴバルト、ノンナの姿があった。

 中に入ると、レヴィンは、全員に向かって挨拶をする。


「お疲れ様です」


「お疲れ。まぁ座ってくれ」


 ランゴバルトは座るように促した。

 二人の男女は立ち上がって迎えてくれる。


「初めまして、カゲユと申します。職業クラスは忍者です」


「初めまして、シェリルです。職業クラス盗賊シーフよ」


「これはご丁寧に、僕はレヴィン・フォン・ナミディア、レヴィンとお呼びください。職業クラスは大魔導士です。こちらは執事のウォルター、そしてこちらは王国のマルムス教対策委員のメンバーである、サーザイトさんです」


 紹介されたウォルターは丁寧に頭を下げ、サーザイトは、自己紹介を始める。


「ご紹介に預かりました、サーザイトと申します。職業クラス盗賊シーフです」


 そして全員の紹介が終わると、ソファーに腰を下ろす。


「カゲユさんは、僕を尾行していた方ですよね?」


 カゲユはランゴバルトに目をやると、観念したのか頷いた。


「ご存知でしたか。ランゴバルト殿に依頼を受けましてね。申し訳ない」


 レヴィンも単なる、推測にすぎなかったのだが、間違いではなかったようだ。

 恥をかかずに済んでホッとするレヴィン。


「それで、議題はクローディアの救出だったな」


「そうですね。僕は、教団の裏組織を壊滅させるつもりですけど」


「やはり本気なんだな。しかしどうやって壊滅させるつもりだ? この国は一応信仰の自由があるんだろ?」


「彼等は悪魔神を崇拝する邪教集団ですから問題ありませんよ。それにこれは勅命でもあります。秘密集会に忍び込んで幹部を倒します。抵抗しないようなら捕えるだけですが、それはないでしょう」


「悪魔崇拝!? マルムス教は本当は悪魔を信仰しているんですか?」


 サーザイトは初耳なので、驚きを露わにしている。


「そうです。潜入調査済みです。対策委員は当てにできませんでしたし、スパイがいるかも知れなかったので、本当の事は伝えてありません」


「そんな事まで……」


「幹部は以前話した通り、一般信者の信徒服と違う色の服を身に纏っています。見分けは簡単につくので、クローディアさんを解放した後、派手に暴れて混乱させましょう」


 そう言うと、幹部の所属する組織と服の色の関係性などの情報を共有していく。

 以前、ランゴバルトには説明していたのだが、改めて話しておく。

 また、当日は全員が覆面目出し帽を被り、信徒服を着ているため、見分けをつけるために左手首に青色の布を巻いておくことにした。


「サーザイトさんは、口添えをしておきますので、警備隊を率いて、王都にある秘密部屋の方の検挙をお願いしたいです。秘密集会中は、もしかしたら誰もいないかも知れませんが……」


「アジトの方ですが、集会を行っていた場所の他にも洞窟があるようでした。クローディアさんが捕まっている場所は違う洞窟です」


 カゲユはクローディアの居場所も突き止めているようだ。


「では、秘密集会が始まって、幹部が一同に会する時が狙い目ですね。現行犯で逮捕しましょう」


「逃がした場合は、どうするの? 潜伏されたらやっかいでしょ」


 ノンナが口を挟む。


「それは拙者の出番だな。『隠密』の能力で追跡可能です」


「一般信徒は問題ないわね。幹部を潰さねばいつまで経っても活動は続くでしょうし」


「サーザイトさんは、秘密部屋にいる者は全て検挙してください。幹部で判明しているのは、ニコライ、トワイト、ケルンの他に解りますか?」


「アーミット、デルムッドと言う幹部もいるようだ。他には……」


 この後、レヴィンが知らない情報も共有され、次のメルクの秘密集会の日に襲撃を敢行する事に決まった。

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