第29話 ヴァール帝國
ヴァール帝國はアウステリア王国とインペリア王国の北に建国された国家だ。
多くの機工士を抱える工業国家である。
また、人材の育成に注力し、国家が国民の
さらには鉄鉱石、ミスリル鉱石の大規模な鉱脈が複数存在しており、産業を支えている。国の基盤である農業分野においても、寒さに強いガジャの実や、荒地でも育ちやすいコシモロの実などの作物が栽培されており、安定的な生産が可能となっていた。
国の勢いは強く、アウステリア王国やインペリア王国と度々、戦火を交えている。
さらにはヴァール帝國の北にある、トルキア帝國ともやりあっている強国である。
帝都ヴァルガンダの王城の一室で、とある会議が行われていた。
その部屋は旧シ・ナーガ帝國製の重厚な赤い織物がカーペットとして敷き詰められており、ガラスの窓から城下を一望できる高い階に存在した。
「あの件の進捗はどうなっておる?」
真っ白な顎鬚と右手で弄びながら、バルツァー将軍が周囲の席に座る人々を睥睨しながら言った。彼は対インペリア王国戦の全権を握っている征東将軍であった。
「はッ! 現在、レムレースは『
畏まった態度で報告を行っているのは、ヴァール帝國の暗部組織である、『毒蝮』の幹部、
「リベラティオ、『
デリンガー参謀が他の会議参加者に気をつかって説明を求めた。
「はッ!
リベラティオが慇懃に回答する。
「ふむ。ご苦労。最早、城塞都市とは言えん状態なのだな。 現段階では何が行われておるのか?」
「はッ! 城塞、神殿、冒険者ギルドは大量のアンデッドにより完全に孤立しており、現在、計画は城塞の掌握に移行しております」
「侵攻する準備は整っておる。城塞の部分さえ抑えられれば労せずしてレムレースを攻略できるであろう」
そう言って、黒い笑顔を周囲にふりまくバルツァー。
インペリア王国の主力は現在、アイオロス王国でアイオロス軍と睨みあっている。
また、ヴァール帝國の工作により、アイオロス王国に停戦の意志はない。
目の上のたんこぶである城塞都市レムレースさえ攻略できれば、一気呵成に侵攻できるのだ。
「しかし、もう少し速く城塞を落とせんのか? もう五か月だぞ?」
少々イラだった声をあげるのは、バルツァーの副官である、ヘルツベルク将軍補である。
「はッ! インペリア王国は、アウステリア王国の冒険者ギルドへ協力要請を行っており、レムレースに冒険者が派遣されております。予想以上の抵抗が続いているようで、手こずっているとの事です」
「急がせるようにレムレースの
「いや、無理に急かして焦ると計画に綻びが出るやも知れぬ。焦らず事にあたるように言え」
ヘルツベルクの言葉をバルツァーが訂正する。
「はッ!」
リベラティオは、そう言うと部屋から出て行った。
「よし、軍団を動かすぞ。リットナムへ進軍するッ!」
バルツァーは、この部屋にいる者達にそう言い放った。
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