第26話 アンデッド討伐と民の救出


 レヴィンは外に出て驚いた。

 昨日あれだけ、アンデッドを葬り去ったと言うのに、今日も街の至る所でアンデッドが徘徊している。


(一晩でいったいどれだけの数が生まれているんだ?)


 今日は、居住区に向かう。インペリア王国の民を救出するのが目的の一つだ。


 雑魚アンデッドを倒しながら進んでいく。

 こいつらは燃やし尽くすのが一番だ。

 火炎系の魔法を家に燃え移らないように放っていく。

 

 しかし、今日は腐った死体やスケルトンだけでなく、死霊系の魔物の姿も見られるようになっていた。行く手を阻むのはシャドウやシェードなどである。


 蒼天の剣を持ったダライアスが突攻する。

 その剣は死霊であろうと関係なく斬り裂く。

 レヴィンも負けじと魔法を発動する。


神霊烈攻アストラル・フラッシュ


 その一撃に二体のシェードが滅び去る。


 ダライアスがシャドウとやり合っている時、不意に黒い風が吹き荒れる。

 風が収まったそこには、黒い紳士服に身をまとったあの時の男がいた。


「吾輩、華麗に参上」


「よう。名前は決まったのか? アンデッド紳士」


 挨拶代りのジャブを放つレヴィン。

 よくよく観察すると、黒髪に浅黒い肌、紅い瞳に笑みを浮かべたその口元にはキバがのぞいている。

 見た目はヴァンパイアっぽいなと考えていると、その男が口を開いた。


「吾輩の名前は、アドリアン。先日、主とつながった際にそう理解した。そして吾輩の使命は人間の抹殺」


「名前を聞いておいてなんだが、長い付き合いにはならないんだ。残念だな」


 アドリアンはフッと鼻で笑うと両手から魔力弾を放ってきた。

 余裕で避けるレヴィンに、追撃で次々と同じ攻撃を仕掛けてくる。

 何とかかわして体勢を整えると、魔法陣を展開する。


神霊烈閃アストラル・ティアー


 辺り一帯にダメージを与える神霊烈攻アストラル・フラッシュより指向性のある魔法だ。光線を照射する事により、魔霊界アストラルサイドから大ダメージを与える。


 光の閃光がアドリアンの脇腹を貫通する。

 歪む口元。しかしそれが見えたのは一瞬のこと。

 霞と化して、案の定、後ろに姿を現す。

 予想していたレヴィンは前まわり受け身の要領で前に飛ぶと、片膝をつきつつ、振り向きざまに魔法を放つ。


轟火撃ファラ


 これが決まれば消し炭と化すはず!

 しかし、虚しくも空振りに終わるのを理解する。

 今度は目の前に黒い霞が集合し、そこに姿を現すアドリアン。

 右手が心臓目がけて振りぬかれる。

 その手はレヴィンの左脇腹をかすめるが、その右腕は彼の左腕で押さえられる格好になる。レヴィンは右手をアドリアンの胸板に当てると、魔法を発動する。


強振破撃バル・ダング


 とっさに身をよじるも間に合わない。

 衝撃はアドリアンの左脇腹を破壊する。

 えぐられた死の肉体は塵と化し、虚空に消える。

 アドリアンは右手を縛めから解放すると、実体化したまま、後方へと下がる。

 

(ダメージがあると霞になれないのか)


 そこには苦痛に顔を歪ませながらも怒りをにじませるという、器用な表情を見せるアドリアンがいた。


「ガアァァァッ!」


 その咆哮は怒りによるものなのか、苦痛によるものなのか。

 いずれにせよダメージは大きいようだ。

 背中から蝙蝠のような羽を生み出すアドリアン。


「逃すかッ! 光弓レイボウ


 光の矢は、魔力弾の光をともした、彼の左手を消滅させると、その肉体に迫るも完全には届かない。体の半分を塵と化しながら逃げに走る不死の貴公子。


 レヴィンは放たれた魔力弾を全てかわすと、既に何もいなくなった虚空に向って吐き捨てる。


「くそッ! また逃がしたか……」


 後ろを振り向くと、そこには、戦いの邪魔をしないように雑魚アンデッドを始末するダライアスの姿があった。二人して周囲の雑魚を片付けると、周辺の家々に逃げ遅れて立てこもっている人がいないか呼びかける。

 

 ドンドンッ!


 石造りの家の扉を力任せにノックする。

 ノックだけではアンデッドと勘違いされると思い、大声で中に呼びかける。


「生存者はいないかッ? 冒険者ギルドから助けに来たぞッ!」


 その扉は、中から鍵がかけられているようだった。

 と言う事は中に立てこもっている人がいてもおかしくない。

 再度、扉を強くノックしつつ、呼びかける。


「もう、食糧も心もとないだろう! 一緒に冒険者ギルドへ行こう!」


 すると、ゆっくりと扉が開いた。

 中から青白い顔をした男性が顔をのぞかせる。


「食糧があるのかね!?」


「輸送隊が運んできます。大丈夫ですよ」


 レヴィンが心配ないと男性に声をかけると、ホッとため息をついて、家の中へ入って行く。レヴィンも後へ続くと、そこは火の気がない、暗い空間だった。

 すぐに光球ライトを放つと、辺りはたちまち明るく照らされる。

 見ると、窓は木が打ちつけられて塞がれており、土間の隣りの部屋では子供二人を抱きしめた女性がこちらを見ていた。

 その顔には不安と緊張の色が見て取れる。


「歩けますか? 冒険者ギルドまで避難しましょう。アンデッドが出たら僕が倒しますから大丈夫!」


 わざと明るい声で励ますように語りかけるレヴィン。


「本当に助かったよ……水も食糧ももう底をつくところだったんだ……」


「では必要最低限の物だけ持ってすぐに出発しましょう」


 その言葉に、女性が薄い布団なようなものを丸めて縛り始める。

 もう十月も下旬にさしかかろうという時期だ。

 肌寒い夜には、就寝時に羽織る物も必要だろう。


「この近所で同じように家に立てこもっている人はいますか?」


「ああ、隣りのガッシュさんと向かいのベルルさんはおそらく中にいるはずです」


 その言葉にレヴィンは外にでて見張っていたダライアスへ今聞いた情報を伝える。

 外に出る時見えたのだが、入り口の扉にも木が打ちつけられていた。

 アンデッドが入って来ないように苦心した痕跡が見られる。


 ダライアスと手分けして家への呼びかけを行う二人。

 隣りの家からも返事が返ってきたようだ。

 バリケードをどけるから待っていてくれという事だったので、その間に他の家も見て回る。ダライアスは向かいの家に呼びかけを行っている。


 その家の扉は完全に閉まっていなかった。

 レヴィンが取ってに手をかけて力を込めると簡単に扉が開く。

 開いた瞬間、中から顔が腐り目が垂れ下がっている死体が躍り出てきた。

 

 ずげげげげげ!


 流石にインパクトのある、その顔を見せられ飛び退るレヴィン。

 心の準備をしていてもびっくりしてしまう。

 それだけの見た目のひどさと腐臭があるアンデッドである。

 とりあえず、その一匹を外におびき出すと、火炎矢フレイムアローを二発放ち、火葬してやる。

 もう一度、その家の扉を開けて中に光球を放つと中の様子が見えてくる。

 生活感がなく、火の気もない部屋の中、誰もいないので別の部屋へと向かう。

 光球を放ちながら進むと女性のような人影が何をするでもなく突っ立っていた。

 隣りの部屋からは男性がヨタヨタと歩み出てきた。

 一瞬生きているのかとも思ったが、その表情を見ると既にこと切れているようであった。


 発見した二人の男女はいずれもアンデッド化しているようだったので、外までおびき出すと神霊烈攻アストラル・フラッシュで葬る。

 アンデッドに生半可な火をかけると力尽きるまで動き回るので、火炎球ファイヤーボールのような大火力か、魔霊界アストラルサイドからの攻撃で倒すのが良い。

 再度、家の中に入ると、誰かいないか大声で呼びかけてみる。

 開く扉は全て開けて確認する。小さい空間に子供が隠れている可能性もあるからだ。置かれているベッドの下の隙間も確認を怠らない。

 案の定、ベッドの隙間から小さな白い手がのぞいていた。

 アンデッドの恐れもあったが、小さな手を引っ張って引きずり出す。

 見た目は人間のようだが、気を失っているように見えたので、頬をペチペチと叩いて起こそうと試みた。

 その女の子は、気が付いたのか目を薄ら開けると、力任せに抵抗を始めた。


「こ、こら! 俺は生きているって! やめなさい!」


 その時、黄金の光がレヴィンを包む。

 何が起こったのか解らずに混乱していると、女の子は抵抗するのを止めたようだ。

 

「もう大丈夫……冒険者ギルドへ避難しよう」


「うん……父ちゃんと母ちゃんは?」


 あの男女がおそらく彼女の両親だったのだろう。

 レヴィンは沈痛な面持ちで、その事を彼女に伝える。

 「そう……」と小さな声でつぶやくと、えぐえぐと泣きじゃくり始めた。

 仕方ない。まだ、六、七歳と言ったところだろうか。

 彼女を抱っこして外まで連れて行く。

 そこには、準備が終わった一家と、バリケードを取り払ったのだろう、男性の姿があった。


「クロエちゃん! 良かった!」


 隣りの子供とは友達なのだろう。クロエと呼ばれた少女の頭を撫でてやっている。

 レヴィンが周囲に目をやると、アンデッドの集団が迫ってきていた。

 クロエをその子に任せると、火炎球ファイヤーボールをぶちかます。


 ダライアスの方にも生存者がいたようだ。

 全部で十二人の彼等が身の回りの準備を終えるのを待って、ひとまず冒険者ギルドへ向かった。露払いをレヴィンが務め、ギルドへとたどり着く。

 中に向ってレヴィンである事を告げると、中でバリゲードを撤去する音が聞こえてくる。待っていると間もなく扉が開いた。


 保護した家族たちがお礼を言ってくる。

 クロエも何か言いたそうなので、口元に耳を寄せるとほっぺにキスをされた。


「兄ちゃん、ありがとう」


 保護欲を大いに刺激されたレヴィンは、その後もアンデッドの討伐と、生存者の保護に尽力するのであった。

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