第6話 放課後お茶タイム


 大通りに戻ってきた一行は、とりあえず目についたカフェに入ってみる事にした。

 ドリンクを注文して、受け取りテラスの席へ座ると、ベネディクトが皆に話しかける。


「皆、納得するものは買えたかい?」


「俺は前の装備とは比べものにならないほど良くなったぜ」


「鉄の剣でよく頑張ったよな」


 ダライアスも思うところがあったのか、ヴァイスを褒めだす。


「お前は何買ったんだ?」


 ヴァイスはダライアスが買ったものが気になるようだ。


「俺は、ミスリルのバンダナとスケイルドラコ、ミスリルマントだな」


 スケイルドラコはスケイルドラゴンの軽装鎧だ。

 かなりの硬度を誇るスケイルドラゴンの鱗でできたもので、かなりの逸品である。

 ダライアスは新米剣士なので重装備はできないのである。


「剣は、レヴィンに譲ってもらったんだ。名前も決めた」


「ああ、あの地味な剣だな。名前は何にしたんだ?」


 ヴァイスは派手好きである。

 彼の買った剣も装飾がばっちり施されているものだ。


蒼天そうてんの剣さ。格好良いだろ?」


 その名前はヴァイスにもツボだったようだ。

 興奮して同調している。

 そんな彼等を苦笑いしながら見つめるベネディクトが言った。


「レヴィン、僕は結局、プラチナアーマーを買ったよ」


「奮発したな。確か素材はミスリルとプラチナの合金だっけ? ただのミスリルより強度が上がってるらしいな」


「高かったけど、騎士として恥じないものを装備したいからね。あとはプラチナヘルムも買ったよ」


「おお、まさに騎士と言った感じだね。戦闘で早くその雄姿を拝みたいもんだよ」


 まさにレヴィンが前世で想像する騎士像そのものである。

 ベネディクトが柄にもなく照れている。


「そう言えば、夏休みが終わったらまた賢者に戻るんだし、賢者用の装備も買っておいたら?」


「うん。そのつもりさ。また稼いで王都に戻る時に買おうと思う」


 そんな会話にアリシアが口を挟んできた。


「いいな~。あたしも職業変更クラスチェンジしてみたいよ~」


「そうだよな。どうにかならないの? 貴族様」


 ヴァイスがベネディクトに尋ねる。


「そう言う声はあるみたいだね。人材の強化は国力の強化につながるって主張している貴族もいるらしい」


 平民は職業変更クラスチェンジできないという、法律の改正論議は出ているようだ。

 

「でもこっそり職業変更クラスチェンジしてもバレないんじゃね?」

 

「まぁ、モグリの転職士なんて中々見つからないし、仮に見つかっても転職の値段も高いから厳しいかもね」


 職業変更クラスチェンジしてバレる以前に、職業変更クラスチェンジする手段がないのだから、それ以前の問題である。授業で習った事によれば、少なくとも近隣諸国は、平民が職業変更クラスチェンジする事を禁じているという。


「でも北の帝國は違法じゃないらしいな。それに西のシ・ナーガ帝國もそうなんじゃなかったか?」


 ダライアスも授業で習った事を覚えているようだ。

 北のヴァール帝國は人材発掘に力を入れているらしい。


「今は、正式にはシ・ナーガ民国だね。今はいくつもの国家に分裂してるけど」


 ベネディクトが訂正する。


「そんな混乱した国の民になんかなりたくないよ~」


 アリシアの言う事ももっともである。

 なんだかんだ言ってもアウステリア王国は過ごしやすい国なのだ。

 民が圧政に苦しめられる事もなく、教育にも力を入れており、生活水準もそれなりに高い。


「結局、貴族になるしかないんだな。レヴィンは名誉貴族の称号をもらったからいいのか?」


 ヴァイスはエクス公国での出来事を思い出しているようだ。


「他国の貴族になったって無理だろ。この国でならないと」


(まぁ俺はいつでも職業変更クラスチェンジできるんだけど)


 レヴィンの正面でベネディクトがニヤニヤしている。

 レヴィンはそれを華麗にスルーすると、皆に声をかけた。


「んじゃ、冒険者ギルドに行って依頼でも見てくるか」


 全員が思い思いに立ち上がる。

 一人、ドリンクが残っていたシーンがぐびーっと一気に飲み干すと盛大にむせたのだった。




 一行は今、冒険者ギルドの掲示板の前にいる。

 皆、それぞれ依頼書とにらめっこしている。

 エクス公国の件で時間を取られたので、カルマ近郊の村が依頼主であるような時間がかかる依頼は避ける方向で話し合い済みである。

 カルマと魔の森の往復で効率よく強くなりつつ、お金を稼ごうと言う意図である。


「これにしようぜ」


 ヴァイスが指差した先には、トロールの討伐依頼書があった。

 トロールはランクCの魔物で、素材にはトロルの核や皮が挙げられる。

 また、再生能力が高いため、戦い方に工夫する必要があるのだ。


「トロールとは戦った事ないし、いいんじゃない? 良い経験になると思う」


 レヴィンは賛成の声を上げる。

 皆も異論はないようである。

 ヴァイスが依頼書を外すと全員で受付に並ぶ。

 少し混んでいるようだ。


 それにしても魔の森は何故、これほどまでに魔物が多いのだろうとレヴィンは考えていた。学校で、主に人間は霊子力回路を、魔物は暗黒子回路を持つという事は習った。詳しい事はまだだが、魔の森には暗黒子という素子が多いのではないかとレヴィンは推測している。

 世界自体は霊子という素子で満たされていると思っている。

 では暗黒子はどこからどうやって湧き出しているのか?と考えると、今ある知識の中では、やはり次元と空間の断裂によるものというのが一番しっくりくるのである。

 神は、次元の歪みが発生する場合があると話していた。

 それを食い止めても願いを叶えると言っていたはずだ。

 

(まぁ、あるとしたら森の最奥部だろうな。てっとり早く次元の歪みを発見したいところだな)


 そのうちに順番がきたので依頼書を受付嬢に手渡す。

 受付嬢はネコ耳っぽい耳を持った獣人であった。

 レヴィンが王国内で獣人を見たのはウェイトレス以来である。

 冒険者ギルドでも働けるんだなと若干驚いたレヴィンであった。

 各自の冒険者タグを手渡すと、その受付嬢は何かに気づいたようだった。


「あなたはレヴィンさんですね? 少々お待ち頂けますか?」


 自分が何かあったのだろうかと、不思議に思ったが仕方ないので待つことにした。

 離席した受付嬢は階段へ向かうと上の階に上って行った。


 しばらくして戻ってくる受付嬢。

 彼女は依頼を受理する前に手続きがあるからと言って、別のギルド職員の男性に何やら告げると依頼書を渡した。


「では、皆様、私についていてください」


 そう言うとそのギルド職員は階段の方へ向かって行く。

 レヴィン達もその後をついていく。


 ギルドの五階に上がると、案内されたのは、ギルドマスター室とプレートに書かれた部屋の前であった。


「どうぞお入りください」


 彼は扉をノックすると、扉を開けて入るように促したのであった。

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