第27話 仕置き


 村は平穏な朝を迎えた。


 捕虜は、村の集会所に集めてある。

 全員を収容できるような広い建物がそこしかなかったのである。


 朝食を村の者全員で済ませると、早速、首都エクスに早馬を出す事になった。

 村長と商人ホンザの連名で、『無職ニートの団』とイザーク、イーリスが『南斗旅団なんとりょだん』を壊滅させ、首領らを捕縛してある旨を記した手紙を持たせる。


 ポロロ村から首都エクスまで五日ほどかかる。

 マクシミリアンから、この国の腐敗を聞いていたイザークは袖の下用のお金を用意するように進言した。


「直接の上役である、コルチェ伯の頭越しに連絡するんだ。金と旅団壊滅の他にも何か手土産があった方がいいかも知れん」

 

「お金だけじゃなく小麦の用意もあると知らせた方がいいんじゃないかな?」


 レヴィンはそう提案する。そしてホンザもそれに同意した。


「じゃあ、僕も使者についていく事にするよ。アウステリアの貴族だし、何か力になれるかも知れない」


「道中は危険かも……心配……」


 心配するシーンにベネディクトが大丈夫とにこやかな笑みを浮かべながら答える。


「団のお金はベネディクトに全て渡すとして、俺は『南斗旅団』のアジトへ行って小麦を回収してくる事にするよ」


「しかし、マクシミリアンを連れて行く訳にもいかんだろ? アジトの場所を聞き出しただけで簡単にたどり着けるとは思えん……」


「そこら辺は大丈夫だよ。魔法をかけたダガーを荷馬車に投げ入れておいた。魔法探知ディテクトマジックで追跡できると思う」


「そんな事してたのか? じゃあ、空になった荷馬車に乗って行こう。小麦の他に分捕れるものがあったら分捕ろうぜ! あと、取られた十八台分の御者も連れて行く必要があるしな」


 イザークがいやらしい笑みを浮かべている。

 彼も行く気満々のようだ。


「じゃあ、捕虜の見張りはイーリス、頼んだぜ?」

 

「承知した。捕虜は手足を縛って転がしておく」


 そっけない言葉を返すイーリス。


「あ、それと……」


 レヴィンは旅団の内情をマクシミリアンから聞いていた。

 団員の中に転職士がいるのを知って、ベネディクトを騎士ナイト職業変更クラスチェンジさせる事にした。何度も戦闘しているので、見習い戦士の職業クラスレベルは十分なはずだ。


 色々準備をしていたら十時くらいになった。

 この村にも一応時計があるらしい。ただし村長の家だけだが。

 後は、時間を鐘の音で知らせているらしい。


 首都エクスに行くのは、村民一人とベネディクト。

 『南斗旅団』のアジトに行くのはレヴィンとイザーク、御者二十一人で、空にした荷馬車は三台に乗って行くことにした。

 マクシミリアンに聞くと、アジトは歩きで、この村から三日ほどかかるようだ。

 村に残るのはホンザとイーリス、アリシア、シーン、ダライアス、ヴァイスである。


 村を後にする、レヴィン一行とベネディクト一行。

 ベネディクトに何かあったら、とにかく逃げるように伝えて別れる。

 ベネディクトは南下を、レヴィンは北上を開始した。


 手をブンブン振りながら別れを済ませる。

 レヴィンは先頭を走る荷馬車から、馬に乗って南下するベネディクトの背中を見えなくなるまで見送ろうとしたが、後続の荷馬車の陰になって見えなくなってしまった。


魔法探知ディテクトマジック


 早速魔法を使用し、魔力を探知する。

 空の荷馬車に御者を乗せて、軽快に疾走する。

 この分だと、行きは速く着きそうだ。




 ケツが痛い。

 そう、舗装されていない道を行くのだ。

 当たり前だし、解っているのだが、我慢できない。

 疾走する荷馬車の中でバランスを取りながら、うんこ座りをするレヴィンであった。音もガラガラとうるさい。すごい接近して話さないと会話もままならない。

 そんな中、イザークが話しかけてきた。


「それにしてもお前さん、一体どう言う事情を抱えているんだ?」

 

「へ? 何がですか?」


 わざとらしく聞き返すレヴィンであったが、歳の割に老練なところがあるイザークである。通用する訳がなかった。


「お前、職業変更クラスチェンジしてるだろ?」


 御者にはなるべく二台目と三台目に乗ってもらっているが、レヴィンらが乗る先頭の荷馬車にも何人か乗っている。

 あまり人に聞かれたい話ではない。

 イザークもこの音だから聞いてきたのだろうが。


「バレちゃいました?」


 どこまで話そうと考えながら、その問いに答える。

 彼にはお世話になっているし、素性は解らないが信頼できるとは思っている。


「当たりまえだ。戦闘で黒魔法をぶっ放しながら剣を駆使して白兵戦もやってのける。馬鹿でも気づくぜ」


「ソウデスネ」


 棒読みで答えるレヴィン。


「お前に転職士の伝手つてがあるとも思えねーし、この道中でもしてたろ? 自分の意志で変更可能なんだな?」


「ご明察の通りです。実は事情がありまして……僕は職業クラスに関してはちょっとうるさいですよ?」


「ほー。では話してもらおうか。事情とやらを」


「んー。じゃあ、イザークさんが秘密を教えてくれたら答えますよ」


 レヴィンが修学旅行の夜の秘密話のノリで話し出す。


「こっちはお仲間に話したっていいんだぜ?」


 対してイザークはあくどい顔をして、ニヤリと笑って見せる。


「いいですよ。僕も話すつもりでしたし」


 すると、イザークは怒ったように叱りつけてきた。


「お前な、自分から話すのと人から聞かされてから話すのじゃ天と地ほどの違いがあるからな?」


 ああ、こんなところが良いところなんだよなぁとレヴィンは彼の言葉を噛みしめる。


「冗談ですよ。解りました。この世界で初めて打ち明けます。家族も知らない事ですよ?」


「この世界?」


 辺りはガラガラゴトゴトと相変わらずうるさい。二人は大分近寄って会話している。


「はい。実は僕、異世界人なんです」


「はッ!?」


 イザークは素っ頓狂な声を上げた。

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