第25話 ポロロ村


「しかし、敵が荷馬車の強奪を優先してくれて助かったな」

 

 丘陵地帯を抜けた先で、休憩しながらイザークが正直な感想を述べる。


「そうですね。殲滅戦を仕掛けられていたら全員死んでいたかも知れません」


 レヴィンも荷馬車に腰かけながらそう言った。

 怪我人は出たが、いずれも軽いものだった。

 今はイーリスとシーン、ベネディクトの白魔法で皆回復している。


「ホンザさん、ここら辺は野盗の集団は結構多いんですか?」


「何組いるかまで解らないが、治安は悪いな。まぁ名前が知れ渡っているのは先程襲ってきた『南斗旅団』くらいだね」


「でも次の村までの道のりで、もう一度襲撃がありそうですね」


「そうか? 『南斗旅団』はしばらく様子を見てくるんじゃねーか?」


「いえ、他の野盗がです。こちらが痛い目を見て弱っていると思って火事場泥棒に現れるかも知れません」


「ああ、確かにそっちの線はありそうだな」


 襲撃のあった丘陵地帯を越えたので、一応、この辺りはエクス公国領だという事だ。ちなみに取り残されていた『南斗旅団』の団員であるが、全員が怪我人で重体の者も多くいた。

 死にかけは、一思いに殺してやった。手を汚したのはイザークだ。

 彼はレヴィンによく見とけよ、と釘を刺してわざわざ殺すところを見せた。

 また、捕虜は、低級の白魔法である、治癒ヒールで不完全に回復させた。

 現在は手を後ろ手に縛り、口に猿ぐつわをさせている。

 一部が動けないとゴネたので、イザークが見せしめに一人殺してやったところ、従順になった。


 とりあえず、30分ほどで休憩は切り上げて先を急ぐ事にした。

 捕虜同士を繋いで荷馬車の横を歩かせている。

 

 しかし、戦闘があったおかげで今日はそれほど先に進めなかった。

 そして、夜がやって来た。

 まずは、捕虜を魔法で眠らせて、野営の準備に入る。

 火を起こして、簡単な食事を済ませる。

 後は、夜襲を待つだけだ。

 探知魔法を定期的に発動し、敵影を確認している。

 他の者は横になっているだけで寝ていない。

 体を起こして話しているのはレヴィンとイザークである。


「しかし、『南斗旅団』には、なんであんなに腕の立つ者がいるんですかね? 魔法を反射された時は、やられたと思いましたよ……」


「ん? 魔法反射って魔鏡反射リフレクションか? かなり高位の魔法じゃねーか」


「放った魔法が殺傷能力の高いものだったら死んでいました」


「次にそいつが出てきたらやっかいだな」


「いえ、一応倒しましたので心配はないです」


「しかしよく倒せたな」


「なんとかと言ったところです」


 レヴィンは言葉を濁す。

 イザークとは戦場が離れていたため、倒した瞬間は見られていない。

 しかし、彼にもいずれ話さなければならないなと思うレヴィンであった。

 

 そのまましばらく雑談を続けていると、虫の音がやんだ。


「来ましたね」


 全員にそっと声をかける。荷馬車の向こうから近づいてきているようだ。


「「「光球ライト」」」


 イーリスとシーン、ベネディクトの声が唱和する。

 光球を荷馬車の向こうに放り投げる。


 突如として現れた光球ライトは、暗さになれた野盗の目をくらませた。

 あちこちから聞こえる悲鳴。

 勝負は既に決していた。


亜極雷陣アンペール


 広範囲に渡って雷撃がほとばしる。

 その一撃で夜襲に来た野盗30人は無力化された。


「やっぱり、一度反射されているからか、かなり緊張しましたよ」


 気絶した敵を縛り上げながら、レヴィンは心情を吐露する。


「お疲れ。しかしこの雷撃はもう、喰らいたくねぇな……」


 反射された雷撃をくらったヴァイスである。

 しばらく皆で敵を縛り上げる作業に没頭していたが、とうとう縄が尽きたようだ。


「とりあえず武装解除して眠らせるか」


「どっちが野盗か解らんな」


 近くでダライアスが笑っている。

 こうして予想通りの夜襲を撃退した一同は、見張りを交代しながら休憩に入った。




 夜が明けて、一行は進行を開始する。

 ホンザによれば、最初の村はポロロ村と言うらしい。

 あれから三日ほどが経過したが、その間、一度の襲撃があっただけだ。

 村に入るが、人気がまったくない。

 気になったホンザは荷馬車を村の広場に停め、レヴィンとシーンを連れだって村長の家へと向かった。

 ホンザが扉をノックするが返事はない。

 三人の脳裏を不安がよぎるが、鍵がかかっていなかったため、中に入ってみる事にした。玄関の奥のホールを過ぎると、そこには簡素なテーブルと椅子が置かれている。そこに老夫婦が腰を下ろしてテーブルに突っ伏していた。


 慌てて駆け寄るホンザ。


 二人はぐったりしているものの生きているようであった。

 何とか起こして事情を聞いたところ、蝗害で小麦が全て食い尽くされ、さらにコルチェの町から来た役人がわずかな蓄えを奪っていったと言う。

 国が飢えに苦しむ村に食糧を援助すべきところを逆に奪っていったのだ。

 シーンは静かに怒っている様子であった。


 ホンザは全ての家を回ると、何とか動ける者を集めてパンと塩のスープを作る事にした。小麦だけでなく野菜なども持って行かれたため干し肉を入れただけのスープである。また、ホンザが購入したのは、主にパン用の小麦である。

 本当は柔らかいパスタのようなものの方がよかったのだが、仕方ない。

 パンはスープでふやかして食べさせる事にした。

 これを村人全てに振る舞った。ちなみにポロロ村は50人程度の集落である。


 ホンザは、この村の惨状を見て、他の村の状況を心配している。

 早く、次の村に行きたいと考えているようだが、流石にこの状態の村を放置していくのもマズいと思ったのか悩んでいるようだ。

 

 全員が広場に集まると、レヴィンがホンザに声をかける。


「ホンザさんは今日は村長の家に泊めてもらったらどうですか? おそらく今夜も夜襲があると思いますよ」


「何ッ!? まだ諦めておらんのかッ!」


 興奮し始めるホンザ。


「あくまで予想です。荷馬車は広場に全て置いてあります。商家の人達も広場から離れた方がいいでしょう」


「後は、大公に報告と派兵のお願いだな。盗賊共を引き渡す必要もある」


 イザークが付け加える。

 すると一緒に来ていた、村長が疑問を口にした。


「何故大公殿下に直接なのかね? この村の管轄はコルチェ公なのだが?」


「だって、食糧を奪っていったのはコルチェの役人なんですよね? そんなのに期待できるんですか?」


 合点が言ったと言う顔をする村長。


「とりあえず、明朝に早馬を出しましょう」


 そう決定すると、レヴィン達は夜襲に備えて準備を始めた。


 村に静寂が訪れるのはもうしばらく後の事であった。

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