第3話 豚人発見報告


 レヴィンは小鬼ゴブリン村から王都へ戻ると、その足で冒険者ギルドに直行した。

 目的は豚人オークの報告のためだ。

 精霊の森の西側で狩りをしていたら豚人オークの大軍を見つけ、後をつけて村を発見したとかそういうのでいいだろう。

 早速その旨を受付嬢に話すと、彼女はちょっと待っててねと言うと慌てて離席しどこかへ行ってしまった。

 しばらく待っていると、どこからか戻ってきて、こう言われた。


「ギルドマスターが会ってくれるから、ちょっと着いてきてくれるかな?」


 レヴィンは受付嬢の後に着いて、ギルドマスターの部屋へと通される。

 おお。この人、誘拐事件の後、何度か会ったな。確かランゴバルトと言っただろうか。


「それで、豚人オーク族の大軍がいたって?」


「はい。百はいたと思います。人間にとって脅威になるのではないかと思い、報告しにきました」


「しかしよくバレなかったな」


「そうですね。運が良かったのでしょう……」


「案内してくれるか?」


「へ? 僕ですか?」


「だからそう言っている」


 ランゴバルトは他に誰がいるんだとばかりの表情をしている。


「今からですか?」


「いや、今日はもう遅いから明日とか頼めるか?」


「明日から学校があるんですけど……」


「マスター、精霊の森の西側と言う事は分かっているのですし、とりあえず村の場所の位置と情報の捜査依頼にしてはどうですか?」


 受付嬢が助け舟を出してくれる。


「坊主。ランクはいくつだ」

 

「Dです」


「そうか……初動が遅れそうだがそれにするか」


 あそっか。初動が遅れれば、討伐依頼が出るのも遅れる。

 いや、それとも遅れた方がいいのか? 来週行くんだから小鬼ゴブリン達とかち合ってもマズい……。レヴィンが密かに葛藤していると、ランゴバルトと受付嬢が対応について話合っている。


「では、村の場所の把握と、村内の情報の捜査で依頼を出すか。あ、後、商人ギルドや衛兵にも目撃情報を流しておいてくれ」

 

「承知致しました。レヴィン君、行くよ」


 受付嬢はそう促すとランゴバルトに一礼して部屋を出ていく。

 レヴィンも同様に部屋を後にした。


「何かマズかったですか?」


「いやいいんじゃないかな? 多分、マスターは君に対しての強制の依頼にするか迷ったんでしょ」


「なるほど」


 俺が学生だから気を使ってくれたのか。

 豚人オークの集落の偵察みたいなものだし、事件の事もあってグレンとリリナは今神経質になっている、また心配かけるような事が避けられて良かったのかも知れない。

 リリナは身重だしな、とレヴィンは母親ともうすぐ生まれてくる赤ちゃんの事を想った。






 翌日、学校へ行くとベネディクトに絡まれた。

 午前の授業も終わり、食堂でロイドとアリシア、そしてシーンと食事をしていた時の事だ。ちなみにロイドは学食で、それ以外は弁当だ。

 

「やぁ、今日は僕もご一緒させてもらってもいいかな?」


「いや、君の席ないから」


 このテーブルにある椅子は四脚だけだ。


「じゃあこうしよう」


そう言うと、違うテーブルの側に置かれていた椅子を持ってきてそれをレヴィンとアリシアの間に割り込ませる。


「ごめんね。アリシアさん」


 アリシアは席を少しずらして間に入れてあげるようだ。さすが優しい。


「それでどうしたんだ。藪から棒に」


「ノイマンの事だよ。何かあったのかい?」


 ベネディクトは声を潜め、こちらに顔を近づけて言った。


「いや、特に何もないな」


 レヴィンは無表情で答える。


「なんだか彼との間に何かよそよそしい雰囲気を感じてね」


 流石、空気を読む能力は高い。貴族すごいよ貴族。


「よそよそしいってお前、元からたいして仲良くないだろ。課外授業でたまたま同じ班になっただけだし」


「同じ苦難を共にした仲じゃないか」


 ベネディクトは心外そうにそう言う。


「うーん。そう言えばそうなのかも知れないけど、特に協力して事件の解決に当たったとかそう言うのじゃないしな」


「何か疑っているのかい?」


「何かって何が?」


「ここで口にした方がいいのかな?」


 うーん。腹芸では敵わないか。

 しかし、あの事件の事はあまり他人の前で話さない方が良いだろう。

 直接的な事は言わない。


「ただの勘だよ。何か自分でもよく解らない。確信があるとかそう言う事じゃないんだ」


 これで話はお終い、と言った感じを言葉に込める。


「そうか。僕も何か調べてみよう」


「いや、そう言うのはいいから」


 レヴィンは何でそうなるとばかりに少し声が大きくなる。


「僕も何となく言いたい事は解るつもりだよ。それに父上もまだ調べているみたいなんだ」


「マッカッシー卿が? でも藪をつついたら蛇が出てくるかも知れないぜ」


「では、状況を父上に聞くくらいで止めておこう」


「そうだな。それがいいよ」


 それで納得したのか、ベネディクトはロイドと話始めた。

 切り替えが速いな。おい。


 もう昼休みも終わりそうである。

 レヴィンは慌てて弁当の残りをかき込んだ。






 午後の授業も何事もなく終了し、日課の図書館通いを経て、帰りに冒険者ギルドに寄った。すぐに依頼の掲示板へと足を向ける。しかし、期待した依頼書は見つからなかった。受付にレオーネがいるのを見つけたので、その受付に並ぶ。順番が来ると昨日の経緯を説明し、進捗状況を確認した。


「その件は指名依頼になったみたいよ」


「指名?」


「そう。マスターの知り合いにソロで活動している人がいてね。この任務に向いていると思ってお願いしたみたい」


「向いてるって能力アビリティがですか?」


「そうね。職業クラスは何と……忍者だって話」


 職業クラスが忍者の人なんて初めてだな。

 そう言えば、なんの職業クラスを持って生まれてくるかは、その土地柄も結構関わりがあるらしい。

 忍者や侍なんて職業クラスは東方に多く生まれやすいそうだ。

 確かカルマで聞いた話だ。

 それにしても、この人ちょっとおしゃべりすぎないか?と心配になる。


豚人オークの集落の情報は今日解りそうですかね?」


「明日になるんじゃないかしら」


 今日の夜に忍び込むのかも知れない。

 でも暗くて状況が把握できるんだろうか?と少し疑問に思った。


「解りました。また明日来ますね」


 レヴィンはレオーネにさよならと言って冒険者ギルドを後にした。


 家への帰り道、滋養のある果物が売られていたので、それを買って帰宅した。

 リリナの出産予定は七月だと聞いている。

 藤堂貴正の時は、姉二人であったので、下に弟か妹ができるのはとても嬉しい。

 今から楽しみでしょうがないレヴィンであった。

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