第31話 後日談
結局、レヴィン達六人は、メルディナの警備隊とマッカーシー侯爵の私兵によって無事、保護された。捕えられていた場所は、王都の隣りの都市メルディナ。
彼等が保護されたのはメルディナのスラムの悪党、ゲラルド一家の拠点であった。
警備兵が現場の地下に踏み込んだ時、そこにはおよそ二十人ほどが横たわっており、地下から一階へと向かう階段付近に誘拐された六人が佇んでいた。
地下に居た……というかあった遺体はどれもひどく焼け焦げており、部屋の中心部が特に黒焦げの状態であった。
生き残ったのは部屋の隅に居た一人と、階段を上りかけていた二人だけであった。
彼等は、多数のやけどを負っており、眠った状態で発見された。
そのため、生きていると解ったのは、しばらく経ってからであった。
その三人は回復魔法をかけられるのが遅れたため、現在も病院で死の淵を彷徨っているという。悪夢にうなされながら……。
ゲラルドは最初何もしゃべらなかった。
メルディナ警備隊の取り調べではどこ吹く風で平然と黙秘を貫いていた。
しかし、王都に移送され、取り調べる者が変わった瞬間、洗いざらい話始めたという。ちなみに取り調べを行ったのはマッカーシー侯爵の手の者であった。
後日、それをベネディクト経由で聞いたレヴィンは、貴族の恐ろしさに戦慄したものだった。いや、マッカーシー侯爵が怖いのか?
ゲラルドは今回の誘拐事件だけでなく、その他にも多くの誘拐事件に関わっていたようだ。昨今の王都での子供の失踪事件はその多くがゲラルド一家によるものだと考えられているようだ。
王都で捕えた子供達は、アスプの実を食べさせられて仮死状態にされた後、王都からメルディナに商人の荷馬車によって移送されていたらしい。
そして遠方に奴隷として売られていったという。彼等は現在も行方不明のままである。
子供達を移送した商人は複数いたようだが、その中の一人がレヴィンが護衛した商人ハモンドであると判明し、今は彼も王都の獄中にいる。
彼の商家はお取り潰しを免れないであろうと言われている。
アスプの実は、人間を仮死状態にすると言っても不完全な状態になる事も多く、移送中に汚物を垂れ流すものもいたという。
だからこそのあの強烈な匂いを放つ香水だったのだろう。あれは人間の臭いを完全に隠すためのものだったのだ。
だが、各都市では商人の運ぶ積荷は必ず改められる。
では、ゲラルドの息のかかった商人はどうやってそれを免れていたのかという話になる。そこで名前が挙がったのが、城門を護る衛兵達の隊長クラスの人々であった。彼等も牢獄行きとなった。後は、当然メルディナの代官であるウリリコ男爵にも嫌疑の目が向けられたが、関与の証拠が出て来ずに無罪放免となった。
しかし、今回の誘拐事件は、今までの平民の子供を狙うものとは一線を画していた。そう。有力貴族の子息が対象に入っていたためである。
マッカーシー侯爵の長男、ベネディクトや、ゼルト子爵の次男、ノエル、そしてビターマイン子爵の三男、ノッシュである。
貴族の子息の誘拐自体は昔から存在した。しかし、ここまで大規模な事件はこれまではなかったのである。
当然、その周到な誘拐計画から、中学校やそれに係わる人間の関与が疑われた。
理由は、件の六人を捕える時に、付与魔法Lv3の魔法である
一人は
実際には、
教頭は最後まで自分は無実だと言い張ったが、雇った人間と、ハモンドの下男の証言から有罪が確定した。
有罪が確定して教頭は激しく取り乱した。「そうだッ! 俺はそそのかされたんだッ!」と叫びながら暴れたので、誰にそそのかされたのか尋ねたのだが、彼は誰の名も挙げる事ができなかった。一応、教頭は男爵の位にあったので、その寄り親である貴族にも調べが及んだが、結局は無関係だと判断された。
誘拐事件後、色々調べられてから家に戻ったレヴィンは、家族とアントニー一家に盛大に迎えられた。グレンもアントニーも「心配させやがって……」とむせび泣いていたので、レヴィンは素直に感謝の言葉を口にした。
リリナとベネッタも涙ぐんでいた。
アリシアやフィル、そしてシーンにも心配をかけてしまった。
レヴィンは皆に謝って、「もっと強くなるよ」と誓った。
その後、事件後の初登校でベネディクトとノイマンと改めて無事だった事を喜び合った。しかし、レヴィンにはどうしても気になる事があった。どうしてもその疑惑が頭を離れなかったのだ。そして放課後にある人物を呼び出していた。
「やぁ、お待たせ……僕に用ってなんだい?」
「すまないな……。ちょっと気になる事があってな……」
「気になる事? まぁ僕達を導いて脱出させてくれた恩人だ。なんでも聞いてくれ」
「君の職業は付与術士だったな」
「そうだな。それが何か?」
「ひょっとして君は
「何故そうなる? 僕も一緒にさらわれて売られそうになったんだぞ?」
「あの時、魔法を使った時の声が俺の後ろからした。後ろにいたのは君だけだ」
「例え
「そうだな……でもそれだけじゃない。教頭が課外授業の班のメンバーを強引に決めたって話だ。そして引率教師の中に
「一人使えるヤツがいたはずだ」
「彼にはアリバイがあった」
「なら、僕達をさらったヤツ等が魔法を使ったのかも知れないじゃないか?」
「そうだな……確かに証拠はない」
「何故、友情を壊すような事を言うんんだ」
「そうだな。すまない……」
「不愉快だね。僕はこれで失礼する」
(声? 状況? 何故だか解らないが、どうしても、君への疑念を払う事ができないんだ……)
レヴィンは立ち去るノイマンの背中を見つめながらそんな思いが胸をよぎった。
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