普通の異世界転生してみた()〜異世界はそんなに甘くない〜
@Rei-tenthirty
第1話「目が覚めたら異世界だった」
ふと目が覚めた。
随分と長い事眠っていたような気がする。いつも通りの築十年の天井のシミ…では無い。
もっと簡易な作りの家、木々を組み合わせただけのような。
ここは…何処だ…?
周囲を見渡す。
見覚えがない…。
いや、自分はここを知っている気もする。
記憶が混乱しているのか…
自分はこれまでどうしてた…?
なんでこんな所で寝てる?
昨日は何してた?
ダメだ、何も思い出せない。
周りを見渡そうと、寝返りを打とうとした。
が、寝返りが打てない。何故だか、起き上がることすら出来ない。
困ったな、とそのまま天井を眺める。
近くに誰か居ないかな…
声を出そうとして、唇がうまく動かせないことに気がつく。
「あ、あうああ」
誰か、と言ったつもりが情けない声になってしまう。というか、やたら声が高い。
自分はこんな声だったか…?
まるで…赤ん坊みたいな声じゃないか。
「あらあらあらあら」
どこからか声が聞こえて来る。透き通るような若い女性の声だ。
「キャロルちゃん、どうしたの?」
そう言って自分を覗き込む女性。肩より長い金髪で、青い瞳。染めてカラコンを付けているのでなければ、間違いなく日本人では無い。
それにしては流暢な日本語だ。凄いな。
…そんなことより。
キャロルちゃんて誰だ。
もしかして自分のことか?
「どうしたの?もしかしてオシメ?」
そう言って手を伸ばした女性は自分を軽々と持ち上げ、パンツを脱がせ始めた。
……こ、これはどういうご褒美だ?
訳もわからぬまま、なすすべなくされるがままの自分。
ここまで来て、自分はやっと、己が赤ん坊である事を認識した。
とは言え普通の赤ん坊がこんなあれこれ考えるはずもない。
それに、自分は間違いなくこれまで赤ん坊ではなかった…はずだ。
自分はどうして赤ん坊になってしまったのか、赤ん坊になる前はどんな生活をしていたのか。何もかもが思い出せないけど。
…わからないことをあれこれ考えても仕方がない。とにかく今は様子を見ながら、今後のことを考えようかな。
☆
一週間経った。
結論として、自分、もとい俺はどういうわけか地球ではない、全く知らない別世界に赤ん坊として新たに生を受けた、ということらしい。
所謂異世界転生というものだ。
自分はその反動か何かで、前世の記憶があまり思い出せないのかもしれない。
断片的に、自分が日本人だった事や地名、歴史、科学などなどは結構覚えているんだけど。
それにしても異世界転生…良い響きだ。
俺TUEEEEEという言葉がふと脳裏を過ぎる。
意味は確か…自分でも驚くレベルの強さを手に入れ、無双するくらいの意味だったか。
今後の己の未来に期待が膨らむ。
剣やら魔法やらを極め、皆にちやほやされて可愛い女の子と楽しく暮らす未来。
ふふ。
思わず心の中で笑いがこぼれる。ここで胸躍らない奴は男では無いと思う。
何はともあれ、まずは家族構成の把握からだ。
俺の世話を甲斐甲斐しくしてくれる美人さんが、どうやら俺の母親らしい。
天然の金髪碧眼で鼻筋も通っている母親が日本語を喋っているのは最初少しだけ違和感を感じていたが、そんなものはすぐ慣れた。
母親はとても美人だ。顔のパーツがとても形良く、目は大きいが目元は優しい。肌が白くてきめ細かいし、長い髪も水が流れるようにサラサラだ。
俺を抱いてくれている時、ずっと下から眺めているんだが、これだけ美人だと見ていて飽きない。
あと、おっぱいが大きい。
残念ながら赤ん坊なので特に男としては何も思わないんだが、かなり存在感がある。
赤ん坊的には、おっぱいが大きいと掴みやすいし飲みやすい。
まぁ合法的に美人の乳揉めるのは役得ではあるな。
身体のせいなのか、全く興奮はしないけど。
次に父親。
稀に俺の顔を見に来ることがある。喋り方も物腰柔らかだし、普通に優しそうな人ってイメージ。
特にイケメンではないし、正直美人な母親と釣り合ってないとは思うが。
…どうせ似るなら母親似がいいなぁ。
そして、長男の俺。
俺の現在の年はわからない。
離乳食っぽいものに加えてまだおっぱいを貰っているから、多分まだ生後一年経ってないくらいだと思う。
昨日は体が動かなかったが、だんだんと身体が馴染み始めて、今ではそれなりに寝返りを打ったりも出来るようになった。
八カ月とかなんじゃないかと勝手に思っている。
母親の呼びかけからして、名前はキャロル。
苗字はわからない。苗字なんてない世界なのかもしれないし。
ちなみに母親は自分の事をママと言うので、彼女の名前まではわからないままだ。
それから最後に姉が一人。
割と頻繁に俺の様子を見に来る小さな女の子。名前はリーゼだ。
年は…よくわからないが、見た目からして5歳くらいだろうか。
母親によく似た金髪碧眼の美幼女で、将来がとても楽しみだ。
母親より少し目がキツいのは残念だけど、強気な性格が目に出ているのかもしれない。
日本にいたら子役として間違いなく引っ張りだこになるな。それくらい整った顔立ちだ。
お姉ちゃんぶりたい年頃なのか、俺に向かって「りーぜがおねーちゃんよ!」、と毎日のように宣言している。
妹みたいで微笑ましい。仲良くしようと思う。
あと、わかっている事といえば…この家は結構な田舎にあるってことくらいか。
少なくとも町ではない。村レベルだ。
窓から見える風景は一面茶色と緑。何かの畑が広がり、結構遠くにそう大きくない木造の家が立っている。
ちなみに、この家も木造だ。家具から何まで大体木で作られていて、カントリー風のまとまった印象を受ける。
更に遠くには森が、その更に奥には山が霞んで見える。
日本じゃ平野はどこも大体街が出来てて、ビルで視界が制限されてたから、霞むほど遠くに山が見えるってのは新鮮だ。
ここまでだだっ広い平野ってのが残ってるのを見るに、やっぱりここは田舎なんだろう。
どうせなら都会の貴族に転生したかったなぁ…なんて。
☆
せっかく転生したんだが、とにかく暇だ。
赤ん坊ってのは一日の大半を眠って過ごすわけだが…起きてる間、やる事がないのが実に辛い。
暇すぎたので大声を出して母親を呼んだ。あー、と、うーの中間のような声を出すと母親が何事かと慌ててこっちに飛んでくる。
至れり尽くせりだ。
母親の胸に手を伸ばすと合法的に揉める。
赤ん坊最高か。
心ゆくまで揉んでいると、リーゼが部屋の隅でふくれっ面をしているのが見えた。
母親を独占しすぎたせいかもしれない。
リーゼはまだ小さい。本来ならまだ母親を独占したい年頃なんだろう。
仲良くやる為にもここは一つ、年長者の俺が我慢してやろう。
とりあえず、しばらくは必要以上に胸を揉むのはやめることにする。
…本音を言うと、こんな身体じゃそんなことしてても楽しくないからなんだけど。
リーゼとは今後仲良くやっていきたいしね。
いつだったかの保健体育の知識を引っ張り出す。
確か、赤ん坊が喋り始めるのは1歳を過ぎた頃。そのくらいでママ、とかパパ、とかブーブー、とか言い始める。
自分で歩くようになるのもまぁだいたいそんなくらいの時期だったと思う。
そして俺の今の年齢は推定で1歳弱。
仮に八カ月くらいだとして、すでに歩いたり喋ったりしてても絶対にありえないと言うほどじゃない…と思う。
今俺は暇で暇で死にそうなのだ。
早いとこ喋って、歩けるようになっといた方が後々色々やりやすい。
喋れるのに黙ってるとか、歩けるのにベッドでずっと寝てるとか、そういうのが一番ストレスが溜まる。
だから両親には、多少の違和感には目をつぶってもらおう。
多分バレない。
ってことで、これから毎日、片鱗をちょっとずつ見せていこうかなと思う。
せっかく異世界転生したんだ。
生き急いでなんぼだろう。
☆
転生から二か月後…
「ママ、ほんよんで。」
「まぁ、キャロルちゃん。流石ねぇ…将来は学者さんかしら。」
破顔した母親がおいで、と言わんばかりに俺の方に手を広げてきた。俺はたどたどしい足取りで母親の方へ歩いていき、ポスッと彼女に抱きとめられた。
実年齢を考えると結構恥ずかしい。
でも赤ん坊が母親の胸に飛び込んでいくのを恥じらうってのはありえないし。
まぁ、役得だと思っておく。
全く、マザコンになりそうだぜ。
「りーぜも!!りーぜも!!」とまだまだ甘えん坊のリーゼが負けじと母親に飛びついた。
母親とリーゼに挟まれて息苦しさを覚えながらもなかなかに心地よいと思える。
よくわからない立ちの俺だが、すでにこの人たちが新しい家族だって事実を受け入れつつあるのかもしれない。
あの日からちょっとずつ喋ってみて、特に違和感無くここまで来れたと思う。
ママ、パパみたいな簡単な単語から入って、今ではちょっとした文を喋れるくらいになった。
初めて喋った日には家族みんなが結構大騒ぎになった。
食事がちょっと豪華になったり、もてはやされる自分にリーゼが嫉妬してふくれっ面したりと色々あったが。
幸い、それからは何かあっても「キャロルちゃんは天才ね」の一言で色々と片付くようになった。
こっちとしてもその方がやりやすくて有難い。
天才って褒められて悪い気はしないしね。
絵本を読んでもらえるようになったので、これでやっと退屈から解放されるかと思ったのだが…
これが正直ちっとも面白くなかった。
リーゼは隣で喜んでいるが…。
俺が読みたいのは魔法の本とか、地球とは違うこの世界の常識とか、そういうのなんだけどな。
この手の異世界転生ってのは、幼少期から魔法の勉強を独学で初めると相場が決まっている。
俺もそれに肖あやかりたいと思ってるんだが…
まぁ、最初は絵本から慣らしてって、おいおい魔法の本をねだっていけばいいか。
流石にいくら天才設定でも、赤ん坊が難しい本をねだり出したら気持ち悪いだろうし。
勝手に家の中を探索して、それっぽい本を見つけたらこっそり読む方針でいこう。
☆
そしてその1ヶ月後。
俺はとうとう家の中で魔法の本を見つけることに成功したのだった。
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