第12話 打開案と迫る死
エグゼを抱えたアーニャは、坑道と村の中間地点にある、泉にまで戻ってきていた。
「エグゼ、大丈夫?」
「あ、あぁ、何とか……。ソウマの手当てが早かったからね……」
ゆっくりと体を起こすエグゼ。
エグゼはかばんの中から、光る粉を取り出し、傷口に塗布する。
「そ、それは?」
アーニャの見ている前で、傷口は見る見るとふさがってい。
「これは妖精の燐粉だよ」
そして、あとも残さず傷口は消え去った
妖精の燐粉や体液には傷を癒す効果があるのだ。
昔、仲のよかった妖精が別れの際にプレゼントしてくれた物だ。
これのおかげで、何度命拾いをしたことか。
「よし、ソウマの所に行こう」
「もうチョットゆっくりしてたほうが……」
「いや、大丈夫だ。それよりアーニャ、走りながらでいい。君が見たというあの子の魂について、詳しく聞かせてくれないか?」
「え? あ、うん……」
二人はソウマのいる方角へ走りながら、会話を続ける。
アーニャが見たもの、それはノームの魂だった。
本来のノームの魂に寄生するように、別の生き物の魂が融合していたというのだ。
「魂の取り出しと融合、そんなことができるのは……」
「心当たりがあるの?」
走りながらエグゼの脳裏には、一人の男が思い浮かんでいる。
(ミハエル・ド・カザド……っ!)
その名を思い出しただけで、エグゼの頭は沸騰しそうなほどの怒りで埋め尽くされる。
「ミハエルの晩年は魂の研究にあったといっても過言ではない。奴はその道の第一人者だ!」
上位の魔物の中には、肉体(マテリアルボディ)を持たずに、幽体(アストラルボディ)のみでこの世に存在する者もいる。
しかしながら今の魔法科学では、そこまで研究が進んでいない分野でもあった。
肉体を主に扱う人間には、基本的に幽体に触れる手立てはない。
そこに介入するには、膨大な魔法力が必要となってくるからだ。
そして成功率も低く、今の研究では魂を操ってできることは人に貢献できるような分野ではない。
個人でやるにしても、国でやるにしても、コストに見合った見返りがないのだ。
「しかし、なぜかミハエルはその研究に没頭していた」
もし。
もしも、ミハエルが魂の研究を完成させていたら。
魂の操作で精霊の魂に、別の生き物の魂を融合させることができたとしたら……。
「それはもうすでに禁忌の領域だ!」
「な、何か手はあるの?」
「ある。僕ならできるはずなんだ。何とかノームの動きを止められれば……」
そのとき、山の中腹から、轟音がなり響く。
音の方を見上げた二人の目に、信じられないこのが飛び込んできた。
「山崩れだって!?」
「そんな! あそこにはソウマが!」
「僕たちどころか、村まで被害が及ぶぞ!」
ノームの能力か、突発的な自然現象か……。
どちらにしろ、あの規模では大災害になる。
「ソウマなら、ソウマならきっと!」
アーニャが叫ぶ
(バカな……。いくらソウマでもこんな脅威に対抗できるはずがない!)
それは山の怒り、嫌、神の怒りなのか。
これほどの災害を目の前にした時、人間には何ができるだろうか。
このまま、なす術もなくあの土砂に飲み込まれてしまうのか。
「くそ !こんなところで死んでしまうのかっ!?」
ミハエルに一矢報いることもできず、このまま。
絶望を感じながら、エグゼは歯を食いしばる。
今から逃げても、間にあうはずがない。
「ソウマアアアアっ!!」
エグゼは、死を覚悟した。
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