人外娘たちと真面目にファンタジーしちゃう本

葛葉幸堂

プロローグ

「いい気味ですね。騎士団長殿」

不気味に輝く空の下、倒れ行く仲間を目の前にして、ただ一人膝を付く。

致命傷は免れたものの、意識を保っているのも困難だ。



「人類の守護神といわれたあなた様も、魔法が使えなければ、この程度ですな」

自分の手は汚さず、本来なら王の座る椅子に腰をかける謀反の首謀者。

この国の大臣だった男。今はただの裏切り者だ。



「王は、王妃は……。姫はどうした!?」

血と共に失われ行く力をつなぎとめるように、大声を出す。

彼らが守るべき、この命より尊い王族の方々。



「王、王妃か。その二人なら……」

大臣はその手に持っていた包みを俺の前に投げつける。

その衝撃で、包みの結び目が解け、その中からは。



「うわぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁっっっっ!!」

考えたくなかった。

想像したくなかった。

信じたくなかった。

しかし、現実が目の前にある。



いつも、すべての民のために慈愛の瞳を向け、よりよい国にするために悩み、己が命よりも、国の発展を最優先に生きた、この国の、国民たちの最愛の王が。


その死体が、今、目の前に、ある。


「ふふ。ははっはははははははっ! いい悲鳴だ!!最高だよ、エグゼ君!!」

大臣は大きく笑うと、手を叩く。

「もうひとつ、面白いものを見せて差し上げよう」



置くから運ばれて来る、大きな檻。

その中には、嬌声そ上げる女性と、大勢の男。

「君が会いたがっていた、姫君だ」

「あ、ああぁ……」



それはまさに悪夢だった。

王のただ一人の娘。

王に似た、我らが君主、ミスティライト・フォン・エルモワールの、変わり果てた姿。

国の未来を見据えていた、凛とした瞳は今や絶望に濁っている。



最愛の婚約者である、エグゼの存在にも気づいてはいないようだ。

「ミハエルっ!! 貴様っっ!!!」

動かぬ身体を無理矢理動かし、元凶たる人物に襲い掛かる。



しかし、ミハエルの前に立ちはだかる、 見たこともない魔物に一撃の下に組伏せられる。

「『造魔』この私が作り出した、私の命令に従う忠実な魔物。

もちろん、その戦闘力はこの国にいる上位の魔物にも劣りません」



この国を制圧した、魔物の群れ。

国軍に所属する人、魔物をいとも容易く退けた、屈強な軍団はこの男が作り出したのだ。

「そして、エグゼ君。

あなたの愛する姫君は、このまま強大な魔物を生むためにのみ、生き続けるのです。

魔物たちの慰み物としてね・・・」



今まで何の反応も見せなかったミスティが、大きく目を見開き、くぐもった声を出す。

ただ、その言葉の端には、痛みや、苦しさ、嫌悪感などとは違う、喜ばしさが含まれていた。

「んっ!んんんんん……」

そこに、エグゼの愛した凛々しい姫の面影は無かった。

ミスティの周りの魔物達が去りミハエルが檻に近づいていく。



「どうですか、ミスティ様?

この私が作り出した造魔は? お気に召して頂けましたかな?」

その手で、ミスティの頬に触れる。

正気を失ったかに見えたミスティだが、



ミハエルが触れた瞬間に、その顔をキッと睨む。

「ミハエル……!よくも……」

憎悪を込めた目で、ミハエルを睨んでいたミスティの顔が、そのミハエルの後ろに居る人物に向けられる。

そして、驚愕の表情を浮かべる。



「エ・・・グゼ・・・?」

最愛の魔法騎士。

だが、その姿は見る影も無く魔物に組み敷かれ、手も出せないでいる。

思わず涙が溢れる。

助けに来てくれた……。



たとえそれがかなわぬことでも、命を懸けて自分を救おうとしてくれた。

その事実がミスティには嬉しかった。

と同時に己の身に起きた不運を思い出す。

喜びから一転、絶望に落とされる。



「見ない……で…….。

エグゼ、みないでぇぇぇぇ……っ」

大きな瞳から、大量の涙が溢れ出す。

もっとも見られたくない、愛する人に。



「いやあぁっぁぁぁぁっっっっ!!!」

顔を覆い泣き崩れる。

そこに気丈な姫君の面影は無かった。

「いいじゃないですか。見せ付けてやりましょう、エグゼ君に。

私たちの禁忌を!」



言うなり、ミハエルは靴をミスティの前に差し出す。

一瞬ミハエルを睨んだミスティだが、



「ゴメンネ、エグゼ……。

わたくし、もう。

……。もどれない……」

悲しげな微笑を浮かべた後、ミハエルのに靴に口づけだ


─まるで、服従の証のように─


「ふふっ。いい子ですね私は見たいのですよ。

この国をのっとる計画が、あなたのせいで、5年は遅くなった。

その最大の難関だったあなたが、苦しむ様をね!

絶望にまみれて、醜く生きさらばえなさい!」



「ろせ……」

「はい?」

「僕を殺せっ!!」

「嫌です」

エグゼの元に近づき、その髪を掴み顔を合わせる。

「貴方のもがく姿を私に見せて下さい」

エグゼが、亡国の英雄が、最後に見たのは、愛する者もの全てを蹂躙された世界だった。

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