テクノブレイクさせられた童貞が異世界を救う物語(仮)

間宮涼平

プロローグ

 玄関のドアを閉めてマスクを外した。道中に溜め込んだ緊張が吐き出される。


「こ、怖かった……」


 手に下げた袋を小脇に抱えて急いで部屋に入る。七畳の簡素な部屋が俺を迎え入れた。袋をテーブルに置きジャケットをハンガーにかける。玄関そばのキッチンに戻ると入念に手を洗った。入浴もするべきかという考えが頭をめぐるがこれは一蹴した。心も身体も興奮に支配されている。そんな悠長なことをしている場合ではない。


 俺は手を拭くと一歩進むごとに身体にまとわりついた衣類を剥ぎ取っていく。産まれた時と同じ姿になったところでテーブル上の袋を手に取る。モニターの電源を入れると、カーテンを暗幕代わりにして部屋を暗くした。


 手が震えるせいだろうか、DVDの包装はなかなか剥がれない。ほんの数秒の出来事だが、今の俺には凄まじい長さに感じられた。そのせいだろう。包装が剥がれた感動も一入だ。


 閑散としたアダルトショップから入手したそのDVDをまじまじと見つめる。


『童貞と人妻のムフフな365日』


 お世辞にも上品とは言えないタイトルと数々の淫らなイメージ写真にこの上ない背徳感と興奮が押し寄せる。昼間の国道脇という立地と無気質な中年店員の目をなんとか耐え抜いて入手したそれを見て目元に涙が浮かぶのを感じた。


 ディスクを取り出すとDVDデッキとして使用しているゲーム機に突っ込んだ。ディスクが飲み込まれていく時間はどこかもどかしい。


 再生ボタンを押す。次々と画面が映り変わるなかティッシュボックスとクッションをベッドの上へと移動させる。


 臨戦態勢は整った。荒くなる呼吸に目を瞑り、本編という項目にカーソルをあわせる。画面が暗転した。


「ああ……」


 感動が声となり喉を震わせる。クッションを背中に挟むと、男としての象徴に目を向けた。それはすでに隆起して脈に合わせて疼いている。触れようとした瞬間、画面に一人の女性が映し出された。白い部屋には小さな椅子が置かれて彼女はそこに腰掛けている。茶色の髪に小柄な身体。少し赤く染まった頬。


 女優が自己紹介を終えると、半裸の男が二人彼女の横に陣取った。両者黒のボクサーパンツを身につけている。そしてそれは大きく膨らんでいた。


 誰が言ったわけでもないのに、彼女はその膨らみを揉み出した。瞬時に淫乱な雰囲気は姿を消して画面上の人物に笑顔が見られる。


 その姿に心を奪われた俺は象徴へと手を伸ばした。驚いた。そして幼少時に家族でした鰻取りのイベントを思い出す。黒く細長くぬめりけを帯びたあの生き物の感触を今、同じような感触が右手に感じられる。それを包み込むとゆっくりと前後させた。


 暗転する瞬間に自分の姿が映る。夏の季節を感じさせる暑さに嫌気がさす。しかし音漏れの無いように窓は開けられない。壊れているエアコンを横目に手淫を続けた。




 約三時間に及ぶ映像は幕を下ろそうとしている。画面中央には揺れる男女の姿がある。激しく動く男に、淫らに喘ぐ女。強靭な腰から生まれる突きは、互いを高めあっている。


 俺はただひたすらに画面にかじりつき手を動かした。


 滴る汗を振り乱し、男は立ち上がった。そして、女優の胸に発射した。


 俺も同じように十回目の絶頂を迎える。


 そう。ここまでは良かった。痺れるような感動と、人生初めての自慰に明け暮れた休日。素晴らしいの一言に尽きる。


 しかし、絶頂と興奮、冷めぬ熱気に包まれた身体に異変が起きた。途端に、冷や汗が溢れ出し、心臓が弾けそうなほど鼓動を打ち付ける。揺れる視界。


 俺は、画面に映る満足げな男女の姿を最後に意識が途絶えた。

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