終章 その17 『野山の花々 vs 雪華草 7 そして幕引きは、自分の手で行った。』

野山乃花の目の前で緑川紅宇がリューリの最後の一投ラストストーンを何処に投げさせるか、悩んでいる。

彼女の目にはアイスしか映っていないだろう。

ハックではリューリや雪華草ダイヤモンドフロストのメンバーが心配そうにこちらを見ている。

緑川紅宇はまだ決断出来ない。

この一投で勝敗が決まるのだ。

当然と言えば当然。


でも。

お前は違っている。

リューリの扱いが違う。

天才肌のリューリは気分を乗せてやって、好きにやらせる。

これに限る。


緑川紅宇は私と似たタイプだ。

数字、分析から極力偶然を排除して合理的に勝ちたい。

一方リューリは対角線にいるタイプ。

これはもう、我々凡人には理解出来ない。

天才とは訳のわからない勝ち方をするが、説明が付けられない負け方をする。

天才って、そんな風に評される。

だからには怖い。

それでも。

こんな土壇場で。

他人に自分の運命を委ねるのも良いものだぞ?

それが仲間ならば。


雪華草ダイヤモンドフロストはまだまだ強くなる。

個人の技量以上に、まだチームとして未成熟。

でも乗り越えば、良くなる。

だから私は、堪らず緑川紅宇の後ろから声を掛けた。


「緑川紅宇よ。お前さんが見るべきは、ラインでもアイスの状態でも、ない。仲間達チームメイトの顔だ」


…届いただろうか。

緑川紅宇がハッとして振り返る。


…伝わっだだろうか?

次の瞬間。


「リューリッッッ!アンタの!アンタの一番得意なヤツ!に!!ぶつけろ!!!ラインは見てあげる!好きに投げて!!!」


緑川紅宇がリューリに、仲間達に向かって叫ぶ。


そうだ。

緑川紅宇よ。

それが仲間を信じるという事だ。

お前さんは孤独一人ではない。

カーリングは皆で一丸となって挑むものだ。


リューリがハックでブラシを天井に向かって掲げる。


結果は見なくても分かるさ。

こういう時のリューリアイツは絶対に外さない。

狙い澄ました狙撃スナイピングが、私達のストーンに突き刺さる。

ごめんな。

皆。

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