第五章 その3 野山乃花『どんなに高性能なパーツを集めても潤滑油が無ければ摩擦熱で焼け付く。』
リューリ達との練習試合は予想通りの展開となっていた。
第一エンド、リューリ達の後攻でいきなり三点を取られた。
第ニエンドは私達の後攻でなんとか一点。
この練習試合は第三エンドまでだから、実質
先攻で最低でも二点取るとか
試合が始まる前にこうなる事は分かっていたし、メンバーには「圧倒的負けゲー厶」を無駄にしない方法を教えていた。
一、例え一投でも納得できるショットがあれば良しとする。
ニ、例えショットがダメでもチームメイトの為に全力でスウィープが出来たら良しとする。
三、どんな些細な事でも褒め合おう。
四、落ち込まない。落ち込むという事は勝つ自信があるからである。自信を持つ程我々に実力はない。落ち込む時間はもったいない。
五、負け試合ほど笑顔だ。負けを楽しもう。
だから、チームの雰囲気は良かった。
それだけでも、この負け試合には意味がある。
さて、私は自分のチームを見ながらリューリのチームも観察する。
こちらは…何と言うか。
雰囲気は最悪だな。
特に
「きちんとガード裏に隠してよね!今日の
リューリがハック側に付くと、バイススキップの
それはもう、キンキンと響く声で。
ハックでリューリは終始しかめっ面だ。
小学校から中学校とリューリと組んだ私には分かる。
リューリのヤツは
感覚的にカーリングを進めていく。
アイツになぜそこに投げるのか?
そんな事を聞いても返ってくるのは、
「何となくだわ」
この一言。
だが、そこには
時としてヒヤリとするショットを
この種の人間は実は何処の世界にも存在する。
理論ではなく、感覚。
物事を記憶する為に、暗記せず、頭の中で映像を「名前を付けて保存」してしまうタイプ。
そしてアイツがその実力を遺憾なく発揮する時。
それはアイツが気持ちよく、
それが分かっているから私はリューリと組んている時、目一杯アイツの好きに投げさせる。
だが、そういうタイプは得てして一度躓くと脆い。
何でもない段差に躓いて調子を崩し続けるものだ。
そういう時。
リューリには何も考えさせず、私の言う通りに投げさせる。
私は理屈と理論のタイプだから。
アイツの癖と今日のドローウェイトで指示を出す。
今まで沢山見てきたカーリングの試合映像の中から、同じ展開を探し出し選択する。
アイツに大きな失敗をさせない。
そしてその内にまた、アイツは調子を取り戻す。
お前さんはまだまだリューリの扱い方が分かってないな。
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