第四章 その3 野山乃花 『扉を開けるなら音が鳴るのは当たり前だ。それが開けた事が無い扉なら、尚更だな。』
私は曇った眼鏡が晴れると改めて部室を見回す。
こういう時には地面にいる蟻を見つけろと、とある漫画には描いてあったな。
もちろん蟻などいないが。
「まず、私のような一年生が意見を述べたとしてそれが聞き入れて頂けるかどうか聞かせて下さい」
「私が支持します。昨年の関東エリアトライアル。結果は敗退だったけど、男子をあそこまで育てたのは見事でした」
引退した部長が発言する。
「私も支持するから安心して発言しなさい」
「分かりました。またこれから私が発言する内容は当然すぐに実現可能なものではありません。それを分かった上で解決する為に課題として前向きに取り組むのか?保守的に無理だと突っぱねるか?この
「例年通り保守的に行うつもりなら、あなたを呼んで意見を聞いたりしなかったでしょう。前向きに取り組みたいから存分に発言して下さい」
それを聞いて私はようやく自分の考えを述べる気になる。
「ま↑ずは…」
…声が裏返った。
「ンンッ、まずは本格的に行うメンバーと緩く行うメンバーを予め分けましょう。そして本格的に行うメンバーについては早急にカーリング協会への登録を行います。それから練習方法についてですが、この練習メニューでは積み上げ型に見えます。目標とする所はなんでしょうか?」
「例年通りなら、年末の関東エリアトライアル出場…となるわね」
「分かりました。積み上げるのではなく、逆に捉え、最終目標から練習メニューを組むのがよいと思います」
「野山さんの考える最終目標を教えてもらえるかしら?」
私が何を言い出すのか?
子供みたいなワクワクした瞳でこちらを見ている。
一方の周囲は心配そうな目つき。
「最終的な目標は来年一月に青森で行われる全日本カーリング選手権大会としましょう」
私が発言すると、部室内がざわつく。
行けるわけがない、無理だろう、と。
私は気にせずに続ける。
「その前に十二月の関東エリアトライアル、十月に県大会があります。六月からはリーグ戦、八月に町内の大会もありますし、六月以降は完全にチーム練習となります。六月〜七月でチーム編成、それ以前は基本練習と基礎体力。五月は氷上も重要ですが、
両部長は頷きながら聞いている。
だから私はそのまま続ける。
「それと。私立学園と合同練習を行うのは良いと思いますので、大会前だけではなく、合同練習を日常的に行うべきです。残念ながらあちらのレベルは高いわけですし。それに今後とも慢性的に男子部員は不足します。長門先輩達のように直前で臨時のチームを組むのではなく、日頃から合同チームを作り、練習しましょう。私立学園は県外からの学生も来ますから、人材確保の為にも、早期の合同練習実施を提案します」
部室内がざわついている。
さて、扉は蹴飛ばして開けてやった。
後は、知らん。
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