第一章 その1 野山乃花 『人は毎日何かに出会っている。でもそれを出会いにするかは本人次第だ』
十一月。
私達中学三年生はカーリング部を引退していた。
ただ、カーリングは元々冬のスポーツなので引退してからも続ける生徒も多い。
人によっては年が明けて受験ギリギリまでカーリングしている人もいるらしい。
私はそこまではやらないと思うが。
その日は二年生の後輩や、友人のリューリに誘われてカーリング場に来ていた。
「ハナも来るなんて予想外だわ」
同じ中学三年生のリューリが呟く。
本名は
母親がフィンランド人、父親は日本人。
つまりハーフ。
リューリと言うのはフィンランドの名前らしい。
金髪に黒髪が混ざった長い髪。
そして吊り上がった鋭い目つき。
元々人付き合いの良いヤツじゃなかったけど、私とは小学校からの腐れ縁。
仲も良かった…はず。
昨年リューリの父親が倒れ、入院してからは性格が変わったしまったように思う。
何となく、話しにくくなってしまった。
「まぁ、ね。今日は地元の高校生が来るって聞いたし。私は
私が言っている事は本当だった。
ただし全てを話している訳ではない。
地元、軽井沢の高校では何年か前にカーリング同好会がカーリング部になっている。
だからカーリング部の見学を兼ねているのは本当。
まぁ目的はそれだけではなくて、どんな男子がいるか興味があるのだった。
中学校のカーリング部と高校のカーリング部の練習が重なる事もあり、そういう時に高校のカーリング部も見かけていた。
うん、確か中々に良い素材がいたような気がする。
願わくば青い瞳の金髪の髭がいないかな。
…いるわけ無いな。
と言うか高校生で髭面とかダメだわ。
顎が細ければそれで妥協しよう。
うん、そうしよう。
「ハナ?どうしたの?」
気が付くとリューリが目の前で手をひらひらさせていた。
しまった。
すっかり
「なんでもないよ。…リューリは私立学園目指すんだっけ?」
「…そうね。パパが入院してるからここを離れたくないし。
リューリの目が一層細くなり、冷たい光を放つ。
…ホント、こんなヤツじゃなかったのだけど。
私はリューリに見えない角度でため息をつく。
「ハナさん、リューリ先輩。こちらです」
後輩の黒崎が私達を呼ぶ。
名前は
真面目を絵に描いたようなヤツ。
こんな小さな町内だから小学校の頃から知っている。
ずっと一緒にカーリングをやってきた。
二年ほど前に父親が再婚して、新しい母親が出来たのだった。
私も会った事があるが綺麗な人だった。
それと少し歳の離れた妹が二人。
妹二人は再婚した母親の連れ子。
生意気盛りだが、私には懐いてくれた。
当初は父親の再婚と妹が出来たことに戸惑っていた様子だったけど、最近はコイツも落ち着いたかな。
カーリングホールにはうちの中学校のカーリング部の面々と高校生と思しき学生が集まっていた。
「三年生の子かな?よろしくお願いしますね。私、カーリング部の部長です」
私よりもずっと背の高い女性が話し掛けてきた。
…何と言うか、私は垢抜けていない自分が凄く惨めな気持ちになる。
私も高校生になったらこんな風に綺麗になれるかな。
リューリはきっとなるんだろうな。
今でも充分綺麗だし。
うーん。
せめてこの洗濯板みたいな、がりがりな胸だけでもなんとかならないだろうか。
「おっ。中学生だ!ちっこくてかわいいな!?今日は合同練習よろしくね。わからない事あったら聞いてくれな?」
カーリング部部長の後ろから高校生と思しき二人組が現れる。
一人はその笑顔から爽やかさが印象に残る…いわゆる好青年。
童顔で如何にも人懐っこそうな人だった。
もう一人は、何と言うか目つきが悪い。
触ればさらさらなんだろうな、という感じの前髪。
もちろん髭も生やしてない。
…愛想悪そうだな、と私は自分を棚に上げてそんな事を考える。
「こら、きちんと自己紹介しなさいよ!えっとコイツら二年生の山城と長門。実は男子はコイツらだけなの」
先ほどの部長が紹介してくれる。
…人の事をどうこう言うけどこの部長さんも名乗ってはいない。
男子がこの二人だけと言うことは、一年生にも三年生にも男子がいないのだろう。
その代わりというか、女子は大人数がいるみたいだった。
私達はいくつかのグループに分かれ練習を始めた。
私は長門という先輩と一緒だったのだが。
…なんだろう、気まずい。
この人、無口すぎるだろう。
カーリングという協調性が大切な競技においてコミュニケーションが取れないのは致命的だ。
「
と、コーチ席から女性の声。
私と長門先輩が同時に振り向く。
そこには一眼レフカメラを構えた女性。
髪は長く、ポニーテールで後ろに纏めている。
頬にうっすらそばかすが浮かんでいるが、それが彼女の快活な笑顔に似合っていた。
彼女の言葉は私の隣の長門先輩に向けられた言葉のようだったから、長門先輩のフルネームは
この瞬間に私の中では長門先輩はもんじぃと変換されていた。
彼女の言葉に長門先輩…もんじぃが片手を挙げる。
…分かっている、とでも言いたいのだろうか。
「すまない、どうもしゃべるのが苦手で」
ぽそり、と呟く。
「まぁ私もしゃべるの得意じゃないんで良いですけどね」
また言葉が詰まる私達に対して、先ほどのカメラの女性がコーチ席から捲し立てる。
「ごめんね!コイツ根っからのコミュ障だから。あ、私は伊勢原真希!
無駄にぶんぶん手を振っている。
「ヨロシク、です」
相手の勢いに気圧されてしまう。
時々、自分が動く事によって何かが動き出す音を聞く事がある。今日だって本当は来るのが億劫だった。
リューリとは気まずくなっていたし、地元の高校に行く事は考えていても、カーリング続けるかは悩んでいた。
うちの家庭環境では遠征等はまず行けない。
私はどう足掻いても一流にはなれないと知った。
でも、億劫なりに動く事で私は何かに出会えた気がする。
これが、本当に出会いなのか、それはまだ分からないのだが。
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