悪意の始まり III
場所は変わって、松零会本部地下の尋問室。
私たちは『スティギア』の構成員全員をここに連れてきた。
彼らが売り捌いてた幻覚剤の出所を吐かせるためだ。
それとは別に私には『ウェストマン』に聞きたいことが山程ある。
尋問室はそれなりに広いので『ウェストマン』は私の方で尋問することにした、そっちの方が効率がいいだろうしね。
『ウェストマン』の対面の座席に座る。
肝心の彼は拘束椅子に座らせられてひどく不機嫌そうだ。
「で、話す気になったかしら?」
「うるせえ……」
『ウェストマン』はそう呟く。
「早めに話した方が痛みは少なくて済むわよ?それともあっちのお兄さん達の方が好みかしら?」
「うるせえって言ってんだよクソアマが!おちょくってるとぶっ殺すぞ!テメェなんかに喋ることなんざねぇよ!」
「そう……」
喋る気がないならしょうがない。
私は座ってた席から立ち『ウェストマン』の方に近づき、その指に触れる。
「それ」
ボキッと小君の良い音をたてながら彼の指をあらぬ方向に折る。
「があぁ⁉︎」
『ウェストマン』は苦痛に表情を歪ませながらそんな声をあげた。
「そんなひどいことを言われると私、傷つくわ。ねぇ?さっさと喋らない?私、こう言うサディスティックな趣味はないのだけれど」
「っこのクソアマ……!」
「はい、もう一回」
二本目の指を折る。
「があぁっ……」
「無駄なことは喋らないで質問に答えて頂戴?次は二本一気に折るわよ?」
「わかった!話す!全部話すからやめてくれ!」
「そうよ、それでいいのよ。それじゃあ最初にアンタが操ってた星の吸血鬼……あの化け物について話してもらおうかしら」
「あの怪物だろ!あれは赤スーツの女から貰ったんだ!ヤクも同じだ!いい金稼ぎになるってあいつに言われたんだ!」
赤スーツの女、か。
どおうやらもう少し問い詰める必要がありそうだ。
「そう、で、その女の特徴は?」
「あぁよく覚えてるよ!クソ偉そうな口調の長い白髪で前髪の真ん中に赤いメッシュがある女だ!なぁ、もういいだろう?もう話すことなんてないぜ?」
知らない特徴だ、これはまた調べなくてはいけないことが増えたわね?
「そうね、他にあの怪物について知っていることは?」
「知らねえよ!ただよくいう事を聞く番犬みたいなものとしか言われてなかったんだよ!」
なるほどね、これ以上はこいつに聞いても何もわからなそうだ。
「そう、もういいわ。それじゃ、後は任せますね」
「あいよー、気をつけて帰ってねー」
零児さんはそう答える何かあっちからすごい悲鳴が聞こえるけど気にしたら負けだろう。
「え、もう帰るの?アタシまだ遊びたりてないんだけど」
ケイトは不貞腐れたような声でそう返す。
あっちからもこの世のものとは思えない悲鳴と助けを懇願する声が響く。
「はいはい、帰るわよー、それに、ちょっとめんどくさいことになりそうだしね……」
「ちぇー、ま、雇い主がそう言うんならしょうがないわねぇ。零児さん、また今度きますねー」
「はいよー、ケイトちゃんなかなか腕がいいから助かっちゃったよー」
「えへへ、褒めても何も出ませんよ?」
二人とも根の思考が暴力的なのかこういう事の時はひどく仲がいい。
まぁ、私としては別に構わないのだが、ちょっと怖い。
「とにかくいったん屋敷に帰りましょう。皆さん疲れていますし、アキルさんも心なしか顔色が悪いですし……」
心配そうに雪奈が顔を覗き込む。
確かにいろんな意味で少し疲れてしまった。
「そうね、いったん屋敷に帰りましょう。ほら、ケイトも」
そうして三人で帰路につく。
屋敷についた後、自室に戻って少し休む。
『ウェストマン』の言っていた赤いスーツの女は間違いなく超自然存在を意図して悪用している。
正直非常にまずい状態だ、早く情報を集めて件の赤スーツの女を消さなきゃ……
「お嬢様?」
不意の呼び声でいったん思考が飛ぶ。
「あぁ、クリス、何かあったの?」
黒い執事服と対照的な長い銀髪を後ろで束ねた髪型が印象的だ。
「いえ、雪奈さんからお嬢の様子がすぐれないと聞いたもので……何度かドアをノックしましたが反応もなかったので少し心配でして」
「そう、ごめんなさいね。少し考え事をしていたから気づかなかったわ」
「いえいえ、それより体調は大丈夫ですか?」
「ええ、少し休んだからもう大丈夫よ、それより情報収集をお願いしてもいいかしら?」
「構いませんがケイトさんの方が適任では?」
「今回は広い範囲の情報が欲しいのよ、ケイトの情報収集能力はある程度条件を絞った方が効率的だから」
「なるほどわかりました。では、手配しておきますね。お嬢様も今日はもうゆっくりとお休み下さい」
「そうさして貰うわ。おやすみなさいクリス」
「ええ、おやすみなさい。お嬢様」
そうして私は眠りについた。
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