悪意の始まり II
ケイトが帰宅してすぐに必要な人材を集める。
今回の相手なら私とケイト、後は
全員が集まったところで早速、話に入る。
「さて、急で悪いけど、今後の方針について説明するわね」
「はいよー」
ケイトはいつものように軽い返事をした。
「今回のターゲットは『星の吸血鬼』とその飼い主だと思われる『スティーブン・ウェストマン』、方針としては星の吸血鬼は殺してしまって構わないわ。『ウェストマン』は生かして拘束すること。」
「あいあい」
「で、対星の吸血鬼についてなんだけど、雪奈頼めるかしら?」
「お任せを、確実に斬って見せますとも!」
「そう、ケイトは雪奈のサポートと可能なら『ウェストマン』の拘束をお願いするわ」
「オッケー!任せといてよ!」
「で、不可視の星の吸血鬼を捕捉する方法だけど……これは私がどうにかするわ」
「ふーん、なんか考えはあるんだ?」
そうケイトが問う。
「一応ね、まぁ、なんとかなるとは思うわ」
秘策……と言うほどでもないが策はある。
「星の吸血鬼が見えるようになった後は、雪奈達に任せるわ。多分少しの間私は動けなくなってしまうかもしれないから」
「わかりました。が、あまり無茶をなさらないでくださいよ?」
「善処するわ、それじゃあ作戦の決行は明日の夜7時ね、各自ちゃんと準備しておくように」
「ちょっとちょっと、肝心の『ウェストマン』を他の『スティギア』の連中から引き剥がすのはどうするのよ?」
「そこは問題ないわ、後で連絡を入れる予定だけど、『
「相変わらずやることがえげつないですね……」
苦笑いしながら雪奈が呟く。
「まぁ、私も『スティギア』を潰すのには賛成だからね、この町で薬物を売ろうなんて私に喧嘩を売っているのと同義よ。それに、超自然存在を悪用しているのなら尚更よ」
「うわぁ、いつにも増してアキルがやる気だ」
ニマニマと笑いながらケイトは呟く、その表情は少し楽しげだった。
「とにかく、明日は忙しくなるわ!入念に準備をしておいて」
「はーい」
「了解です」
そうして各々準備のために解散した。
私の方も零児さんに連絡を入れないと、今の時間ならあの人も暇にしているだろうしちょうど良いだろう。
一通りのことが終わったらさっさと寝てしまおう。
明日はいつも以上に忙しくなるのだから……
——翌日午後6時40分
日も暮れ始め町が暗くなってきた頃、幻夢街の一角は異様な空気に包まれていた。
それもそうだ、なんせ十数人の屈強な強面の男が噂のチンピラ集団のアジトの前に固まっているのだ。
道行く通行人は「あ、あれ関わっちゃいけないヤツだ」とでも言いたげな表情できた道を戻る有様だ。
まぁ、そんな中に平然と混ざってる私たちの方が異常なのだが。
「早速だけど雪奈、こっちに来て。いつものやるわよ」
「あー、あれですね。わかりました」
そう言って雪奈をこっちに来させる。
いつもの、と言うのは
相変わらずだが、噛みそうになるしひどく正気が削がれるような呪文だ。
私の中の正気と気力を削るようなこの感覚はいつになっても慣れないが、この行為は大事なことだ。
〈肉体の保護〉は文字通り対象者に物理的な攻撃に対する保護を与える呪文だ、前線で星の吸血鬼と戦うことになる雪奈には必要なものだ。
呪文の詠唱を終え、準備が全て整う。
「あ、準備終わった?もう突っ込んでいい?」
軽い口調で零児さんが聞いてくる。
「ええ、準備は全部終わったわ。後は手筈通りにやるだけよ」
「オッケー、それじゃあ……やっちまおうか」
零児さんの雰囲気が一気に変わる。
さっきまでの
たまに忘れそうになるけど、この人ヤクザの組長なのよね。
正直、この状態の零児さんはちょっと、と言うかだいぶ怖い。
「じゃあ、お掃除と行きますか」
その一声を合図に次々とビルの中に入っていく。
目指すは三階の『スティギア』のアジトだ。
三階のドアの前に着いたところで零児さんが勢いよくドアを蹴飛ばす。
「オラァ!」
ドアは無残にも蹴破られ、中にいた『スティギア』の構成員達は唖然としていた。
「おう、クソガキども仕置きの時間だ」
一斉に『松零会』の構成員が雪崩れ込み場は混沌とし始める。
まるで
「ヒェ……なんだおめえら⁉︎」
「うるせえぇ!」
肉と肉がぶつかり合う音、何かの破砕音、悲鳴、怒号が響く。
これ私たち要らなかったんじゃないかしら?
「ク、クソが!おい!ウェストマン!あれを呼べ!」
「は、はいぃ」
そんな声が響く、と同時にクスクスと言う笑い声にも似た声が
早速現れてくれたようだ。
その笑い声と同時に『松零会』の構成員が一人、宙に浮く。
その首筋からは真っ赤な鮮血がチューブ状の何かに吸われていた。
吸われた血液によってその何か——星の吸血鬼がその姿をあらわにする。
本来の予定とはちょっと違うが、まぁ問題ない。
「雪奈、今よ!」
「了解!」
その声とともに雪奈は帯刀していた二本の刀のうち一刀を握る。
本来、星の吸血鬼を刀で斬り伏せるのは容易なことではない、が彼女の持つ刀は違う。
純鉄製のその刀は大熊の血液を生贄に、私が正気と精神力を削って清めの呪文を施した物。
淡く青白く光るその刀身は、たとえ相手がどれほど堅牢であろうとそれが生き物ならその全てを無視して損傷を与えることができる業物。
そこに雪奈の技術が加われば例え星の吸血鬼だろうと一刀の元に斬り伏せることなど容易である。
奇妙な叫び声にも似た断末魔を上げながら、星の吸血鬼は両断された。
「な!なんだと!なんなんだよ!なんなんだよ!お前らは!」
怪物の飼い主……『ウェストマン』は声を荒げながら逃走を試みるが、その先は
「はーい、ちょっと寝てようか?」
ケイトは笑顔でスタンガンを『ウェストマン』にぶち当てる。
呻き声にも似た声をあげて『ウェストマン』床に倒れ伏した。
他の『スティギア』の構成員達も『松零会』の構成員によって鎮圧済みだ。
これにて、いったん私たちの仕事は終わりだ。
……というか私、何もしてなくないか?
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